ホクレン営農技術情報誌 あぐりぽーと
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 緑肥は古くて新しい課題である。"畑に鍛込むものづくりより、腹の足しになるものづくり研究に専念すべき"との空気に、緑肥研究は一時期停滞せざるを得なかったと聞く。畑作に必須の輪作も作目が少ないほど機械投資を節減できる。一方、3〜4作目の短期輪作の継続では障害発生も危惧される。道立農試は、機械化畑作の本格的展開とともに、連輪作や緑肥の土壌生態系への影響の検討を始め、化学肥料や農薬で対処できない緑肥の効果を明らかにしてきた。その成果を中心に、緑肥の機能、使い方、活用実態をご紹介する。


緑肥の多面的機能
【北海道立中央農業試験場 農業環境部副部長 今野一男】

1.緑肥の作付けに伴う各種効果
 緑肥が多面的機能を有するのは、単なる有機物としてのすき込み効果だけでなく、作付けに伴う影響が大きいためである。これは土壌表面の被覆や根張りなどによる、いわば輪作効果であり、具体的には次のような効果が考えられる。
(1)土壌の物理性改善
 
根張りにより土壌を膨軟にし、透水性を改善する。重粘性土壌や耕盤層の存在する土壌ではとうもうろこしなどの導入が効果的である。
(2)土壌の浸食防止
 
秋から翌春までの間被覆作物(カバークロップ)を作付けし、融雪水等による土壌浸食を防止する。赤クローバやライ麦の導入が効果的である。
(3)養分の流亡防止
 
土層中に残存する肥料成分を吸収し、硝酸態窒素などによる地下水汚染を防止する。短期の作付けではえん麦、下層土に集積した硝酸を吸収する場合には深根性のアルファルファ等が有効である。
(4)塩類集積対策
 
クリーニングクロップとして、施設土壌等において過剰に集積した肥料成分を吸収する。えん麦、とうもろこし、ソルガムなどのイネ科緑肥が効果的である。
(5)生物性の改善
 
緑肥作物の種類によっては、土壌病害菌や有害センチュウの密度低下および菌根菌など有用微生物の増加に高い効果が認められる。また、マメ科緑肥については根粒菌による窒素固定を伴う。
(6)雑草抑制
 
土壌表面の被覆やアレロパシー物質の放出により雑草生育を抑制する。ヘアリーベッチなどの効果が確認されている。
(7)景観向上
 
ひまわり、シロカラシなどの導入は導入は農村景観の向上に寄与する。
2.菌根菌の共生
 畑輪作に緑肥作物を導入する場合、まず後作物との組み合わせ適性が問題となる。後作物が菌根菌(VA菌根菌)共生作物で土壌の可給態リン酸が低い場合、後作物の生育、収量に対する前作物の効果は菌根菌との共生程度で相違し、菌根菌感染率を高めるものほど大きいことが明らかにされている。北農研センター(羊ヶ丘)の黒ボク土では、後作とうもろこしに対する緑肥作物の効果は、緑肥すき込みの有無にかかわらず、菌根菌非共生作物のシロカラシで小さく、共生作物のひまわり、ヘアリーベッチで大きいことが認められている(図)。このことから、緑肥作物の選定基準に菌根菌との共生程度を加えることが必要とされている。ちなみに、菌根菌の共生・依存程度から作物タイプを区分すると、高共生・高依存: 豆類、ひまわり、とうもろこし、中共生・中依存: ばれいしょ、小麦、非共生・非依存: てん菜、そば、アブラナ科、等である。
 なお、菌根菌共生のメリットとしては、リン酸の吸収促進、微量要素(鉄、銅、マンガンなど)の九州促進、微量要素(マンガン、アルミニウム)の過剰害軽減、乾燥ストレス抵抗性の付与、病害抵抗性の付与、等が指摘されている。



夏まき緑肥の種類が後作トウモロコシの生育、菌根菌感染率に及ぼす影響(唐澤ら、2000)

3.土壌病害虫の軽減
 道内の畑作地帯では連作や短期輪作が多く、土壌病害虫の多発が問題となっている。このような中で、病害虫の被害軽減を図る観点から、各種の緑肥作物を導入した輪作効果が明らかにされている(表1、表2)。
 コムギ立枯病は、緑肥をすき込むと土壌微生物の活性が高まり、立枯病菌との競争が活発になるので、病原菌の密度は低下する。特にC/N比の低いとうもろこしやアルファルファのすき込み効果が大きいとされているが、これには無機態窒素の増加とpHの低下が影響している。また、インゲン根腐病に対してはアルファルファが、アズキ落葉病に対してはとうもろこしや野生種えん麦の効果が確認されている。これらは、抗菌性成分や拮抗菌の増加によるものとされている。
 一方、野生種えん麦やマリーゴールドは、キタネグサレセンチュウの対抗植物としてダイコン、ゴボウ等の被害を軽減する効果が大きい。特に、十勝地方ではばれいしょ、小豆、菜豆などについてもキタネグサレセンチュウの被害が懸念されており、これら緑肥の作付け効果が期待されている。ダイズシストセンチュウに対しては、赤クローバを小麦の間作に導入すると、ふ化促進効果により翌年の卵密度は顕著に低下し、大豆等の被害軽減に効果的とされている。また、道央以南で作付け可能なマメ科のクロタラリア属食物も同様な効果が確認されている。

表1 緑肥作物等による土壌病害抑制とその要因
土壌病害 緑肥作物等 要因
コムギ立枯病 アルファルファ
とうもろこし(低C/N比)
pH低下
拮抗菌の増加
インゲン根腐病 アルファルファ 抗菌性成分
(サポニン類)
アズキ落葉病 野生種えん麦
とうもろこし
拮抗菌の増加
ジャガイモそうか病 フウロソウ 抗菌性成分
(geraniin)

表2 緑肥作物等の導入による後作物のセンチュウ被害軽減
センチュウの種類 緑肥作物等 後作物
キタネグサレセンチュウ 野生種えん麦※
マリーゴールド※
ダイコン、ニンジン、ゴボウ、ばれいしょ
キタネコブセンチュウ (イネ科作物) ニンジン、ゴボウ
サツマイモネコブセンチュウ ソルガム(つちたろう)※
ステビア※
トマト、キュウリ(施設栽培)
ダイズシスト 赤クローバー※※
クロタラリア属※※
大豆、小豆、菜豆
※対抗植物、※※捕獲作物(トラップクロップ)

4.雑草抑制
 緑肥による雑草抑制効果が注目されている。その機作は、土壌被覆による太陽光の遮断(被覆効果)、根から分泌される抑草成分や茎葉中に含まれる抑草成分(他感作用=アレロパシー)などによるものである。他感作用はヘアリーベッチ、えん麦などで大きく、被覆効果はヘアリーベッチで大きいとされている。ヘアリーベッチは植物生育阻害物質であるシアナミドを含んでおり、雑草抑制作用が強いため、府県では樹園地の下草、露地野菜のライブマルチ、休耕田の雑草管理等において利用されている。また、アメリカの畑地では、ライ麦との混作を行い、それらを刈り取った残渣で雑草の発生を抑えながら後作とうもろこしを不耕起栽培する方法が導入されている。道内においても小麦の後作に導入した場合、翌年の不耕起栽培でハコベなどの雑草を抑制する効果が確認されている(写真、右ひまわり跡、左ヘアリーベッチ跡)


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