ホクレン営農技術情報誌 あぐりぽーと
ホクレンが生産者向けに有料でお届けしているホクレン営農技術情報誌「あぐりぽーと」のバックナンバーをご紹介しています。
最新号 バックナンバー 記事検索 購読方法 トップページ
バックナンバー紹介
<ホクレントップページ    



 本特集では最近問題の”気象変動”について、農業改良課の各専門技術員に対応技術の進化と備えの基本を紹介・提起いただき、札幌気象台には推移と現状を解説いただきました。無意識に排出してきた炭酸ガスによる温暖化対策が求められるなか、冷夏に遭遇し、台風の大発生による極暑や激甚風水害に見舞われました。冷・暖房や豊富な食に囲まれて自然の厳しさを忘れがちですが、備えなしでは営農に大きな打撃を受けることは、生産者や関係の皆さんが誰よりも知るところです。その重要な備えのご点検にぜひお役立て下さい。


気象変動に対応した営農技術
【道農政部農業改良課 首席専門技術員 熊谷 秀行】

 農業の歴史は、気象との闘いであると云えるのかもしれません。特に北海道農業は、冷害克服を大きな命題として進歩してきたと云っても過言ではないでしょう。
 小学生の頃に、農耕(水稲)は弥生時代から始まったと習った記憶がありますが、最近の報告では縄文時代晩期から始まっていたことが明らかになっています。また、それ以前と考えられる青森県の三内丸山遺跡では、定住し集落が形成されていたこと、狩猟や採集に加え栗が栽培され主要な食料であったことが指摘されています。気象変動による栗の豊凶は、集落の人口を左右するものであったことは想像に難くありません。それ故、人々は太陽を、風を、そして雨や諸々のものを神として崇めたのでしょう。
 現在も気象変動は、食料生産に大きな影響を及ぼすことに変わりはなく、農耕が始まって以来繰り返し経験してきた気象変動に対応する技術を縄文人より少し多く持っていることが異なる点です。とは言っても、自然の力の前ではまだ完璧な技術対策とはいえませんが、長い目で見れば技術は確実に進化し、被害は軽減されてきています。
 具体的事例として、北海道における水稲の収量の変遷から検証してみます。図1は1880年代から2000年までの各年次の玄米収量を、冷害年と平年に分けて示したものです。これらの収量を比較すると、大冷害年と言われた1993(平成5)年は、1940年頃までの平年収量と同程度で、近年では冷害年でも1940年以前の平年作を上回るようになっています。
 記憶にまだ新しい2003年(平成15)年の冷夏は、水稲の作況指数が40であった1993(平成5)年よりも、厳しい低温が続いた時期があったにもかかわらず、作況指数73とかなりの程度被害を軽減できました。

 次に帯広市における6〜9月の平均気温と十勝管内の小豆平均収量との関係(図2)から、17℃の場合の収量を見てみます。耐冷性に優れたエリモショウズが主力品種となっていた1983〜1995年の平均収量は、それ以前の1945〜1955年および1956〜1982年の、それぞれ約2.5倍および2倍の収量です。低温条件での小豆の平均収量については、近年になるほど高まっていると云えます。

 このように低温や冷害による減収を軽減できてきたのは、耐冷性・多収性等に優れた品種、機械移植技術、寒さから作物を守る水管理などの適切な栽培管理技術、適正な肥培管理・防除技術など試験研究機関による技術開発、これらの品種や技術を農業者へ普及している農業改良普及センター等の寄与、そして農業者自身の努力の賜物と考えられます。また、このような品種の能力や新たな技術の効果を発揮させ、適切な管理を可能としている土地基盤の整備も大きく貢献をしています。

図1 北海道における水稲収量の推移
(「北海道農業研究100年のあゆみ」より(刈屋 原図)

北海道における水稲収量の推移

図2 十勝における6〜9月平均気温と小豆収量
(「北海道農業研究100年のあゆみ」より(村田 原図)

十勝における6〜9月平均気温と小豆収量
  さらに、水稲では2003年の出穂の遅れに伴う生育後期の水確保の要望に対して通水期間の延長が認められました。これにより登熟期に適正な土壌水分が維持されて収量を高めることができたことに象徴されるような、関係機関が気象変動に対して迅速な理解・対応をしてもらえる状況になったことも大きく寄与しています。
 2004年は、数多くの台風が接近又は上陸して、本道農業に甚大な被害を及ぼしました。特に、台風第18号は、50年前の洞爺丸台風以来の猛烈な風台風でした。最も強いところでは50メートルを超える最大瞬間風速を、また数多くの地域でもこれまでの記録を上回り、多くの作物に倒伏や脱粒被害(写真1)、施設の損壊、さらには潮風による害(塩害:写真2)などをもたらしました。特に、潮風害については、防風林や防風ネットなどの事前対策、潮風を受けた直後の水散布による洗い流しなどを対策としていますが、より具体的な技術的対策はこれからという状況にあります。現在、実態の把握とその解析に基づく技術的対策について検討を進めているところです。特に、果樹を中心とした永年性作物については、過去の府県の柑橘類に対する潮風害のデータによれば、数ヵ年に渡り影響する場合があると指摘されており、葉や樹体被害の影響がどの程度続くのか試験研究部門と連携して継続調査を行う予定です。

 気象変動に対応する営農技術については、まだまだ取り組まなければならないことが山積しています。2003年の水稲の作況指数は73で1993年に比べて被害を軽減できたと申し上げましたが、大きな被害を受けたことは紛れもない事実であり、作物や施設の被害を少しでも減らしていくため、今後更なる被害軽減技術の開発や基盤整備の充実をしていく必要があります。
 また、現在進行している地球温暖化に伴う地域的な気候変化についても、気象台によれば100年後の年平均気温については、オホーツク海の気温が高まり北海道東部で約3度から5度上昇すると予測しています。今後このような気温上昇に対して技術的な面を含めた総合的対策が求められることになると考えられます。
 農業をより継続的に発展させていくために、気象変動に対する営農(技術)改善の取り組みは、農業者・関係機関をはじめ行政・研究・普及が一体となって、継続・実施しなければならない課題であることを再度確認する必要があると思います。

写真1
 脱粒被害
(提供:空知中央地区農業改良普及センター)

脱粒被害

写真2
 潮風による害
(提供:渡島支庁農業振興部農務課)
潮風による害

戻る