北海道とつくるおいしさ[02]
兵庫県手延
素麵協同組合

はるばる来たぜ、食卓へはるばる来たぜ、食卓へ

北海道とつくるおいしさ02

手延べそうめんの生産量で全国トップの座を守り続けている「揖保乃糸(いぼのいと)」。主原料は小麦粉で、近年、使用割合が高まっている国産小麦の中心を北海道産(以下道産)が担っています。約430軒の「揖保乃糸」生産者で組織する兵庫県手延素麵(そうめん)協同組合を訪ね、歴史に裏打ちされたこだわりの製法や徹底した品質管理の実際を取材しました。

揖保川がもたらす恵み

「この地には、揖保川の良質な水、播州平野で収穫される小麦、隣接エリアの赤穂の塩という、そうめん作りに欠かせない原材料がありました。さらに、豊かな河川を利用した水運や、水車による製粉の発達、天日乾燥に適した冬の気候など、産地となる条件がそろっていました」。こう語るのは、兵庫県手延素麵協同組合(以下組合)の井上猛理事長。単一メーカーではなく、約430軒の組合員が生産を担い、原料調達や製法・品質管理、販売などを組合が一元管理する独自の体制を敷いています。「生産者である組合員には、製品にバラつきがでないよう、自分の作った製品の全てに責任を持つことを徹底してきました。結果的にそれは、全体的な品質の維持、向上にもつながっていると思っています」。

龍野藩が育てた伝統産業

この地域に残る古文書によると、1700年代後半には、そうめんの製造が本格化したと考えられています。そうめん作りは、龍野藩の許可業種として保護、育成されてきましたが、明治期に入り、藩の保護がなくなったことから、1887年に生産者が現組合のルーツである組合組織を設立。1906年には、「揖保乃糸」が商標登録されました。戦後しばらくの間、組合は原料不足から存亡の危機に立たされましたが、そうめん需要の回復を受け、原料小麦の品質均一化に向け水車製粉の廃止、製粉会社の小麦粉導入を決断。組織名も改称して現在に至っています。組合の舵取りを担って17年目になる井上理事長は「伝統の『揖保乃糸』というブランドをどう守り、どう育てていくか。できるだけ国産小麦を使うことで、『揖保乃糸』の個性をもっと引き立たせることはできないか。これまで、そんなことばかり考えてきましたね」と振り返ります。

昔ながらの製法受け継ぐ

「揖保乃糸」は、昔ながらの手延べ製法を踏襲しています。小麦粉に食塩水を加え、よくこねた「めん生地」を縒(より)をかけながら限界まで引き延ばしては熟成させる、「延ばし」と「ねかし」を繰り返し、さらに「掛巻(かけば)」「小引き」などの工程で細く長いひも状にしていきます。その後、かつての屋外での天日干しを意味する「門干し」に進み、すだれ状のそうめん同士が引っつかないよう長い箸でさばきながら乾燥させます。11もの工程は道具や扇風機を使い、手作業で行われます。乾燥後は切断、計量などを経て、生産者番号が刻印された帯で結束し箱詰めされます。

道産小麦使用「縒つむぎ」

「揖保乃糸」は、使用した小麦粉の質やめんの細さ、製造時期などによって、いくつかの等級に分けられます。組合が選抜指定したわずかな熟練者しか作れない太さ0.6mm以下の最高級品「三神(さんしん)」、それに次ぐ「特級品」、全生産量の8割以上を占める定番の「上級品」のほか、複数の道産小麦をブレンドして作り上げた「縒つむぎ」、道産小麦「きたほなみ」使用を明示した「太づくり」などで、それぞれが違った色の帯で束ねられています。「縒つむぎ」について井上理事長は、「道産小麦を使うことで、より風味があり、みずみずしく、ソフトでコシのあるめんを実現しました。これは私が求める理想のそうめんに近く、16年前に開発して以来、高い評価をいただいている自信作の一つです」と胸を張ります。

国産小麦の中核担う道産

「『縒つむぎ』『太づくり』の原料小麦は全てが道産です。『揖保乃糸』のそれ以外のほとんどの商品にも、ブレンド割合は違うものの道産小麦が含まれています。個人的には、道産小麦で作っためんの噛んだときの粘弾性の良さが特に気に入っていますね」。理事長付業務課担当の八木茂樹さんはこう話し、「道産小麦は品質が安定していて、管理もしっかりしているので安心して使わせていただいています」と評価します。かつて「揖保乃糸」は、地元産の小麦を主原料としていましたが、現在は生産量の減少などで、それを使用しているのは「播州小麦」という名を冠した商品などに限られています。国産小麦ならではの風味を出すには、道産小麦が欠かせない存在になっているのだといいます。

そうめんの魅力を世界に

「揖保乃糸」の製造期間は例年、10月から翌年4月ころまでですが、1シーズンの生産量は100万ケース(1ケース18kg換算)を超えており、近年は中国市場をはじめとする海外展開にも力を入れています。井上理事長は、今後の抱負をこう語ります。「私たちは『揖保乃糸』を世界一のめんにしたいという思いで育ててきましたし、すでにそのレベルに達しているとの自負もあります。『揖保乃糸』で、そうめんのおいしさを世界に伝えていきたいですし、それが日本の小麦そのものの豊かな風味を世界の人々に知ってもらうことにもつながると思っています」。
長い伝統を通して味を磨いてきた「揖保乃糸」は、原料や製法にこだわる組合の皆さんと、全国そして海外のめんファンをつなぐ、まさに「糸」でもあるのですね。