北海道とつくるおいしさ[05]
国稀酒造(株)

はるばる来たぜ、食卓へはるばる来たぜ、食卓へ

北海道とつくるおいしさ05

北海道を代表する日本酒の銘柄の一つ「国稀」は、日本最北の酒蔵、北海道増毛町の国稀酒造(株)で醸造されています。同蔵では北海道産の酒造好適米が生まれる前から、北海道米を使った酒造りに挑戦してきました。
北海道産の酒米「吟風」や「きたしずく」を使った酒をそろえ、「彗星」を使った新商品も発売予定です。洗米から仕込みまで、蔵で使う水は全て暑寒別(しょかんべつ)岳の伏流水。同町の生産者との交流も深めながら、「原材料がオール増毛町産のここでしか生まれない酒」の醸造にも力を入れています。そんな酒造りへの思いを聞きました。

明治生まれの酒蔵は国指定重要文化財

北海道北西部の海沿いに広がる風光明媚(めいび)な増毛町に、国稀酒造(株)が創業したのは、1882(明治15)年。その後、ニシンの豊漁で好景気が続き、酒の需要が増えたことから、1902(明治35)年には、より広い酒蔵を新築。地元の軟石で建てたこの酒蔵は現在も使用され、少し離れた場所に残る創業時の建物は、国指定重要文化財「旧商家丸一本間家」として一般公開されています。

その名は、
乃木希典にちなむ「国稀」

酒の代表銘柄「国稀」の名称は、大正時代から使われてきました。以前は「国の誉」という名称でしたが、戦没者慰霊碑建立の世話人として、元陸軍大将の乃木希典と面会し、彼の人間性に大変感銘を受けたという同蔵創業者の本間泰蔵氏が、希典の希の字にちなんで「国稀」と銘打ったのです。「希の字をそのまま使うのはおこがましいと感じたようで、稀にしたと聞いています」とは本間櫻企画室長。「国に稀な良いお酒」という意味も持たせているといいます。

北海道産の酒米「吟風」などを使用

商品は多彩にそろい、「純米 吟風国稀」、「上撰国稀」、北海道限定発売の「純米吟醸 国稀」、そして留萌管内限定発売の「純米 暑寒しずく」「暑寒美人」は、いずれも北海道産の酒米「吟風」を100%使用。ほかにも「きたしずく」の酒があり、2年ほど前に試験的に販売した「彗星」の酒は、今年度より本格的に醸造を始める予定です。

89年から、北海道産の米で酒造り

同蔵で北海道産の米を使った酒造りを始めたのは、89年から。当時の北海道には酒米がなく、最初のうちは、いろいろな品種のうるち米や開発途上の酒米を使った酒造りに挑戦してきました。「当然、最初からおいしい酒が造れたわけではありません。酒の味は原料米の良しあしで左右されるところも多く、低タンパクの良い酒米がないと、どんなに頑張っても良い酒にはならないんです」と話すのは、製造部部長の東谷浩樹杜氏です。

道産の酒米を使いこなすまでに何年も

実際に、納得できる酒が造れるようになったのは、北海道初の酒米「初雫(しずく)」の次に出た、「吟風」を使い始めた頃から。本間企画室長は、「それでも最初は難しかったようで、その時の杜氏は、米の性質をつかんで使いこなすまでに、何年もかかっていました。理想とする味を、安定して造り続けることができたのは、最初の苦労があったからですね」と当時を振り返ります。

まろやかでやさしい辛さを目指す

「吟風」の酒は、同蔵を代表する「辛口でうまみのある玄人向けの酒」とは、ひと味違いました。同じ辛口でも、日本酒を飲み慣れていない人にもお勧めできそうな軽くて爽やかな飲み口で、食事のお供としても相性が良く、飽きずに楽しめる味わいです。東谷杜氏は「ただ辛いだけでなく、まろやかでやさしい辛さを目指しています」と話します。

麹米に含まれる水分量がカギ

おいしい酒を造る大事なポイントは、「酵素活性が高い良質の麹米を造ること」と東谷杜氏。そのためには、麹米に含まれる水分量が、適量でなくてはならないといいます。「麹米の出来不出来は、精米後の最初の行程である、洗米と浸漬の段階で決まるといっても過言ではありません。もろみを仕込む時に使う掛米もそうなんですが、洗米と浸漬の時に米が吸う水の量が、多過ぎても少な過ぎてもダメなんです。目で確認し、さらに測定器でも量って調整しています」

「ここでしか生まれない酒」を追求

同蔵で使っているのは、軟水の中でも特に硬度が低いという暑寒別岳の伏流水。同町の酒米生産者が、田んぼに使っている水と同じものです。「酒の成分の85%は水ですので、この水の持ち味を生かした、水にマッチした味にしたいと思っているんですよ」。近年は「ここでしか生まれない酒」を追求し、同町産の酒米だけを用いた酒造りにも取り組み中。2018年度に同蔵で使用した北海道産酒米のうち、同町産酒米の使用割合は全体の約96%でした。

楽しんで生み出し、飲む人も楽しく

東谷杜氏は「原材料のオール増毛町産を目指すようになってから、地元の田んぼに出向くようになりました。作業を見ていると、生産者さんの懸命さが伝わってきて、おいしい酒を造らなくてはと気が引き締まります。生産者の皆さん、これからも楽しく、米作りと酒造りを続けていきましょう。楽しんで生み出した酒は、飲む人をも楽しくします」と笑顔を見せてくれました。

土地の米、土地の水、土地を知る杜氏が三位一体となって醸す、おいしい酒。地元の生産者と歩みを共にする日本最北の酒蔵だからこそ造ることができる、「ここでしか生まれない酒」に酔いしれたいですね。