酒米生産者と酒蔵が手を携えて日本一の酒に
(左)男山株式会社 取締役 杜氏 製造部長 北村 秀文さん
1965年生まれ。帯広畜産大学卒業後、『北の誉酒造株式会社』を経て、2005年『男山』に入社。
(右)酒米生産者 今野 雅義さん
1971年生まれ。酒米『吟風』や黒豆を栽培。2018年「上川地区酒米生産協議会」の会長に就任。
元来、酒造りとは米どころの仕事
大雪山系からの伏流水に恵まれ、昔から酒造りが盛んな旭川市。道内屈指の米どころでもあるこの地で稲作農家の三代目として酒米『吟風』を栽培するのが今野雅義さんです。
「自分の作った米が旨い酒になるのは、誇らしいですよ」と稲穂を見つめる今野さん。
その隣で「顔を見知った農家さんの米を使っての酒造りは、一層力が入りますね」と話すのは、北海道を代表する酒蔵『男山』の杜氏、北村秀文さん。岐阜県出身の北村さんは、帯広畜産大学で食料生産や農業を学び、恩師の薦めで酒造りの道へ。杜氏になって10年が経ちます。
旭川の『男山』は、江戸時代に美酒の代名詞として知られた伊丹の酒、正統『男山』の伝統を受け継ぎ、長い間、原料米は『山田錦』などの他府県産が主でした。道産酒米で作った銘柄を発売したのは2011年のこと。「地元の米で酒が造れるのは、杜氏としてうれしいですね。元来、酒造りは米どころで行われてきたものですから」と北村さん。しかし「米どころ」とはいえ、道内での酒米栽培は歴史が浅く、「当初はなかなか思うような出来栄えにならなかった」と今野さんは振り返ります。
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「酒造りに大切なのは、杜氏が原材料と同じ風土を肌で感じること」と稲穂に触れる北村さん
2人の“親”が育てる酒米と日本酒
年々、評価が上がる道産の酒米ですが、「はじめは作るだけで精一杯でした」と今野さん。ある日、杜氏から、「低タンパクの米がほしい。タンパクが多いと、酒に雑味が残り、香りも損なわれてしまう」と聞き、試行錯誤が始まります。その後は何度も杜氏に意見を求め、栽培の工夫に労を惜しみませんでした。「肥料や水の管理だけでなく、天候の影響もある。こればかりは正解がない」という今野さんに、北村さんは「私たちも同じですよ」とうなずきます。「毎年、収穫前から米の状態を予想して酒造りの計画を考える。だから生産者との対話が肝心です」
酒造りには、酒米生産者と杜氏のコミュニケーションが欠かせません。そこで2018年、酒米生産者と4つの酒蔵、日本酒の販売店や飲食店で組織する「上川地区酒米生産協議会」が立ち上がりました。
「会が目指すのは酒米の品質向上と業種間の連携です。将来的には日本酒の普及活動にも取り組みたい」と初代会長の今野さんは意気込みます。
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「米も酒も作った人の性格がよく出ますよね」と北村さん。「その通り」と笑う今野さん
「我々には道産酒米をおいしい酒にする責任がある。酒の評価が農家さんや販売店の経営に直結するだけでなく、道外の酒蔵に道産酒米を広めることにもつながります」と北村さん。
「酒米農家にとって酒蔵は、自分の子どもを送り出し、立派な大人にしてもらう場所という感覚かな」と言葉を選ぶ今野さん。では、立派な大人=日本酒となった「我が子」をどんな思いで見るのでしょう。「新酒を飲むときは、ただただうれしくて」と目を細めます。それを聞いた北村さんは「私たちにとっては一番緊張する瞬間ですよ」と照れ笑いを浮かべます。
酒米生産者と杜氏とは、産みの親と育ての親にも似た関係。子を思う気持ちは同じです。2人の思いが醸す今年の日本酒は、どんな味がするのでしょう。
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道産の酒米を使う「男山」のラインアップ。左から「きたしずく100%純米酒」、豊潤な『吟風』が香る「特別純米 北の稲穂」、『彗星』の持ち味を生かした「北の稲穂 大吟醸」