Vol.49
北海道静内農業高等学校
西館 太壱さん



わたし × 農業

私が農業に恋した理由
北海道の高校、専門学校、短大、
大学では、たくさんの学生さんが
農業を学んでいます。
農業のどんなところが魅力?
学んでみて知った醍醐味は?
好きだけど大変と感じることは?
青春ど真ん中の日々での実感、
将来の夢などを聞いていきます。

北海道静内農業高等学校

北海道静内農業高等学校 西館 太壱さん

1978年に創立した全日制農業高校。現在は食品科学科と生産科学科で、同校の伝統である農業・自然科学を柱とした実践教育を行っています。さらに、探究的な学びや農業クラブ活動の積み重ねの上に、地域が抱える新たな課題を研究課題とする学習活動を進めていて、なかでも全国唯一の軽種馬生産に携わる馬事教育や資源循環型農業の実践、地域産業界などと連携した商品開発は、地域はもとより各方面から高い評価を得ています。

北海道静内農業高等学校
056-0144 新ひだか町静内田原797番地
http://www.shizunainougyou.hokkaido-c.ed.jp/
TEL:0146-46-2101

  • 西館さん

    西館さん

  • GREEN編集室

    GREEN編集室

GREEN編集部 静内農業高校がある新ひだか町は、国内有数の競走馬の産地としてはもちろん、ミニトマトの産地としても有名ですね。

西館さん はい、ミニトマトは「太陽の瞳」という地域ブランドで販売されています。涼やかなブルー系の花を咲かせるデルフィニウムも町の特産で、僕たちも高校の敷地内にあるハウスでミニトマト、デルフィニウムなどを栽培しています。

GREEN編集部 西館さんは、生産科学科園芸コースの2年生で、野菜研究班の班長と聞きました。どのような研究を行っているんですか。

西館さん 「バイオ炭」を活用したミニトマトの栽培試験を行っています。栽培試験は2023年に始まり、僕は2年目から参加しています。

GREEN編集部 「バイオ炭」とは、どういうものですか?

西館さん 有機物を燃焼させ、炭化させたものの総称です。ですから、種類もたくさんあります。静内農業高校の先輩方は、地域の生産者さんから廃棄に困っているアスパラガス、ピーマン、ミニトマトの残渣(ざんさ)をいただいて、「バイオ炭」を自家製造するところから始めました。3種類とも「バイオ炭」にすることはできましたが、ミニトマトとピーマンは出来上がりの量が少なく、一方、アスパラガスは効率が良く、たくさんできたそうです。「バイオ炭」の材料でいえば、間伐材を使ったものは市販されてもいます。

GREEN編集部 高校では「バイオ炭」をどのように使うのですか。また、「バイオ炭」はどのような働きをすると考えたのですか。

西館さん 「バイオ炭」は試験圃場の土に直接混ぜます。その土壌でミニトマトを栽培したら、二酸化炭素の抑制、土壌改善を図ることができ、ミニトマトの成長に良い影響を与えるのではないかと考えました。

GREEN編集部 もしかすると、最初に二酸化炭素の抑制、土壌改善という目的があって、そこに向かって始めた研究なんでしょうか。

西館さん そうなんです。新ひだか町は、夏は涼しく冬は雪が少ないことから、ミニトマトは2期作2本仕立て栽培が盛んです。2本仕立てとは、主となる幹と、もう一本の脇芽を主要な枝として育てる方法です。収量は増えますが、株に負担がかかり、長期収穫には向かないことから、新ひだか町では2期作によって、通年でハウスを利用するのが一般的です。

GREEN編集部 ミニトマトの栽培方法も、地域によって特徴があるんですね。

西館さん はい。ただ、このやり方には緑肥による土壌改善が難しいこと、連作障害による病気の発生などの課題があり、また、収穫後の植物残渣は長い年月をかけて堆肥化されますが、それまでの間二酸化炭素が排出され続けることも問題です。地域の生産者さんにとって、2期作2本仕立て栽培と、環境に配慮した持続可能な農業の実践の両立が大きな課題だと知った先輩方は、農林水産省が推奨した「バイオ炭」に着目し、研究を始めました。現在、この活動は、役場、JA、振興局と連携して行っています。

GREEN編集部 地域を挙げてのプロジェクトなんですね。実際に、どのような方法で試験を行ったのですか。

西館さん 2024年は、先輩方がアスパラガスで作った自家製バイオ炭区、「しもかわ炭素」による市販のバイオ炭区、バイオ炭を使わない慣行区の3つの試験区で生育および収量の調査を行いました。

GREEN編集部 なぜ、「しもかわ炭素」を選んだのですか。

西館さん 炭はそもそも土壌をアルカリ性にするため、「バイオ炭」の種類によっては、土壌のpHが大きく上がってしまう危険性があるそうです。栽培試験の1年目で3種類の「バイオ炭」で土壌のpHの変動試験を行ったところ、「しもかわ炭素」がpHの変動が最も少なかったことから今年も使用しています。

GREEN編集部 3試験区の結果はどうでしたか。

西館さん 生育には大きな違いはありませんでしたが、収量では自家製バイオ炭区の収量が多い結果となりました。試験区ごとの収量を合計すると、慣行区に対して自家製バイオ炭区が約1.5倍多くなりました。ただ、同じ試験区でも数値にばらつきも出ました。これは、ハウス内の温度や日当たりの違いが影響している可能性もあるので、次年度は試験区の位置を変えて試験を行おうかという意見も出ています。

GREEN編集部 かなり専門的なところまで踏み込んだ研究ですね。

西館さん 顧問の前道先生(写真下)や、役場、JA、振興局の皆さんと一緒に行っているからこそ、研究を深められるのだと感じています。「バイオ炭」栽培が地域の栽培のスタンダードになれば良いと思っているので、後輩たちにも研究を続けてほしいです。

GREEN編集部 そうですね。たくさんの方々の思いが託された研究ですからね。ところで、話がガラッと変わるのですが、西館さんが着ている作業着、とてもかわいいですね。それは、静内農業高校のオリジナルですか?

西館さん ありがとうございます!農業への関心や意欲を高めるには見た目も大事ですし、僕たち自身もカッコイイ作業着で実習をしたいですから、カジュアルウェアメーカーと連携して、自分たちもデザインから開発に加わらせていただきました。実は、海外ブランドの特注品なんです。もしかしたら、オーバーオール作業着を実習服にしているのは、全国でも静内農業高校だけかもしれません。ちょっと自慢です(笑)。

GREEN編集部 最後に、北海道の農業や生産者さんをより輝かせるために、西館さんのアイデアを聞かせてください。

西館さん SNSなどの発信力を生かして、農業の魅力をもっともっとPRしていくことが大切だと思います。

GREEN編集部 今回は高校生とは思えない高度な研究と、高校生らしい新しい視点にふれることができました。ありがとうございます。