出来栄えに、
作り手の気遣い
厳しく長い冬を抜け、北海道に清々しい春がくると、踊るように軽やかな素材が出回り始めます。中でもグリーンアスパラガスは、春のスター食材。味はもちろん色、香り、姿にも華があるところが、多くのファンを魅了する理由でしょう。
バラには棘があるように、スター食材には気難しいところがあります。収穫するや、味がみるみる落ちるのです。この時期、私の店には、そのことを知るお客様が、本州や海外から飛行機に乗っていらっしゃいます。あまりに好き過ぎて、畑に生えているグリーンアスパラガスをそのまま食べたこともある(!?)私には、お客様の気持ちがよくわかります。
グリーンに限らず、アスパラガスは、「肥料食い」といわれるほど健啖(けんたん)家で、それだけに肥料の入れ方が味や香りを左右します。肥料を入れてまもないうちは香りがきついので、1週間以上おいたものがほしいなど、気の置けない生産者にはいつもわがままをきいてもらっています。
アスパラガスは作り手の技術や気遣いなどによって、出来栄えが異なります。北海道では、「どこどこの○○さんのアスパラガス」というように、こだわった生産者自身がブランドのように扱われることが珍しくなく、飲食店でも生産者をアピールポイントに加えることがよくあります。実際、そのような生産者が作ったものを食べ比べると、味がはっきり違い、そこがおもしろく、不思議でもあります。
親しい生産者の中には、「お肉に負けないようパワフルに」、「和食で楽しめるように」と、アスパラガスに個性という付加価値をもたらそうと、頑張っている人もいます。「こんなアスパラができたから、食べてみて」と連絡が入ると、どう調理しようかとワクワクします。北海道産アスパラガスの世界は、どんどん多様化していく、それは間違いないと思います。
この時期のアスパラガスをおいしく味わっていただきたいので、上手な選び方をご紹介します。根の断面がみずみずしいか、ハカマと呼ばれる部分が正三角形に近いか、全体がふっくらしているかがポイントです。購入後すぐに調理するのが一番ですが、保存する時は新聞紙にくるみ、冷蔵庫に立てて入れてください。繰り返しますが、買ってきたら、できるだけ早く調理して、食べること。相手はスター食材、気難しいですから。