6年越しの
おいしさ
ゆり根は、6年かけて食卓に届きます。種球を育てるためだけに3年かかり、4年目から畑に植えこむのですが、秋になったら取り出して春まで保存し、翌年また畑に植えるということを3年繰り返すのですから、その手間は相当です。
こだわりの強い生産者でなければ育てられないゆり根は、ほぼ北海道産。一昔前までは大半が道外に出荷され、京料理店がご贔屓(ひいき)でしたが、近頃は道内のファンも増え、スーパーでも日常的に見ることができます。
生だとリンゴのようにシャキシャキしているゆり根も、火を入れると最初ホクホク、やがてホッコリ、そしてネットリ。この味わいの変化がおもしろく、どう料理しようかと心をくすぐられる料理人は、私だけではないはずです。
以前ゆり根の生産者さんが、火を止めた薪ストーブの上にゆり根をまるごと置き、忘れた頃に、「はい、どうぞ」と振る舞ってくれたことがあります。表面はクリスピーなのに、中はネットリしていて、ものすごくおいしかった。あの感動をもう一度と、お店では塩釜包みにアレンジしたものを提供しています。
ご家庭では、ホイル焼きが手軽でしょう。洗って汚れを落としたゆり根に塩を振ってホイルに包み、ゆり根が持つ水分を使って蒸し焼きにします。作り方は簡単なのに、冬ならではのごちそうという言葉がぴったりの料理に仕上がります。
まるごと使うのは豪勢と感じる時は、1枚ずつはがしたりん片をミルクの中に入れ、弱火でクタクタになるまで煮てもおいしいです。ほんのり甘く、やさしい味わいは、お子さんにも喜ばれると思います。余談になりますが、「うちの子が食べたいと言うから」と、私のお店にお見えになるお客様もいらっしゃるように、ゆり根はお子さんにも人気の食材です。
ゆり根はオガ粉に守られるようにして流通しますが、それはぶつかっただけで色が変わるほど、デリケートだからなんです。傷や汚れは削るしかありませんが、6年越しに会えた恵みですから、削る部分はごく小さめに。食べる部分をできるだけ残さないと、もったいないです。ぜひ、大事に味わってください。