小麦
「春よ恋」
[前編]

おいしいの研究

春よ恋

vol.1

研究者:竹之内 悠さん

研究者:竹之内 悠さん

ホクレン農業総合研究所 作物生産研究部 畑作物開発課 。主に春まき小麦の品種開発を担当し、圃場(ほじょう)調査をはじめ、収量や品質の分析など、年間を通じて小麦と向き合っている。趣味は研究。

パン好きが恋する、
北海道生まれのスゴ麦!

今回は、ふっくらモチモチ、ニッポンのおいしいパンに欠かせない小麦のお話。30年ほど前、単独でパンに使うのは難しいとされていた国産小麦の常識を、道産の「ハルユタカ」が変えました。そして現在は、その子どもである「春よ恋(はるよこい)」が国産パン用小麦のエースとして活躍しています。その人気の理由や開発秘話などを、小麦の品種改良に取り組んでいる竹之内さんに聞きました。

強力、中力、薄力…何が違う?

強力、中力、薄力…
何が違う?

「皆さんのお口に届くまでに2回の加工があること。これが研究者から見た小麦のおもしろさです」と目を輝かせる竹之内さん。製粉(1次加工)を経て、調理(2次加工)されるため、品種開発の際はどちらにとっても高品質な小麦を追い求める必要があるのです。言われてみれば、小麦って、粒のまま食べることはありませんよね。というわけで、小麦粉について少し確認しておきましょう!
用途によって種類があることは、ご存じのとおり。たとえば強力粉はパン、準強力粉は中華麺、中力粉はうどん、薄力粉はケーキなどに向いています。でもこれって、具体的に何が違うんですか? 「主にたんぱく質の含有量ですね。高い順に強力粉から薄力粉まであって、パン生地には、高たんぱくの強力粉や準強力粉を使うのが一般的です」

小麦王国・北海道が生んだ春のエース

小麦王国・北海道が生んだ
春のエース

今回紹介する「春よ恋」も、強力粉として主にパンづくりに用いられています。まちのパン屋さんでも「道産小麦使用」の文字をよく見かけますが、北海道は小麦の産地としてどのような位置づけなのでしょうか。「小麦の消費量は、輸入ものが約87%と高いのですが、残り13%の国産のうち、道産が6割以上を占めているんですよ」

さすが北海道! なかでも強力粉になる小麦は、北海道の生産量が圧倒的なのだとか。さらに、ブレンドせず単独でパン用にできる小麦は、その大半が「春よ恋」ということで、まさに国産パン用小麦のエースとして君臨しているのです!

ところで、どうしてこのネーミングに? 「1997年に品種登録の出願をした際、内部で募集をして選ばれたのですが、言葉のとおり、春が早く来てほしいという願いが込められているようです。このほかにも、「ハルユタカ」や「はるきらり」など、春まき小麦の名前には“春”を付ける傾向がありますね」

とっても希少な、春まき小麦

とっても希少な、
春まき小麦

春まき小麦とは、その名のとおり、4月に種をまいて8月上旬に収穫するタイプ。一方の秋まき小麦は、9月にまいて、翌年の7月下旬~8月上旬に収穫されます。「秋まきのほうが育てやすく、面積あたりの収量が高いこともあり、道内生産量の約9割が秋まきなんです」

それでも春まきが存在しているのは、大きな理由があるんですね? 「はい、秋まきよりも植わっている期間が短いため輪作体系を維持しやすく、そのうえパンづくりに適した小麦を収穫できるからです。とくに「春よ恋」は、先ほどのたんぱく質含有量だけではなく、吸水性の高さや、ふっくらモチモチとした食感、甘い風味など、パン適性が非常に高く、製粉会社やベーカリーなどから高い評価をいただいています」

んー、話を聞くほど食べたくなる、春よ恋パン! 後半では、「春よ恋」が誕生した経緯や、品種開発の時短作戦「葯培養(やくばいよう)」などについてお伝えします!