よくねた野菜
[前編]

おいしいの研究

よくねた野菜

vol.1

研究者:清水麻友美さん

研究者:清水麻友美さん

ホクレン農業総合研究所 食品検査分析センター 食品流通研究課 主査。主に青果物の貯蔵試験を担当し、現在はにんじんやかぼちゃの寝顔を日々観察中とのこと。趣味は登山。

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人間も野菜も、ぐっすり眠れば元気いっぱい!

人間も野菜も、
ぐっすり眠れば元気いっぱい!

快眠から目覚めた朝は、すっきりさわやか元気いっぱい! それは野菜もいっしょなんです。旬の時期に採れた野菜にぐっすり眠ってもらうことで、収穫期以外にも元気いっぱいの味を食卓にお届けする「よくねた野菜」シリーズ。でもどうして、数か月を経てもおいしいままなんでしょう? 野菜のぐっすりを追究している清水さんに、そのワケを聞きました。

野菜にぐっすり眠ってもらう「CA貯蔵」

野菜にぐっすり眠ってもらう
「CA貯蔵」

静かで、暗くて、暖かくて、ベッドや枕がフィットして…と、わたしたち人間にはさまざまな快眠条件がありますよね。では、野菜にとっては?「まず低温であること。さらに空気がポイントなんですよ」と清水さん。

空気を抜いて眠らせちゃうんですか? 「いえいえ、空気中には酸素と二酸化炭素が含まれていますよね。通常は酸素が21%、二酸化炭素が0.03%ほどなんですが、この濃度のバランスを変えることで野菜の眠りにベストな条件をつくっています」

このように、調整された空気(Controlled Atmosphere)の中で野菜に熟睡してもらう技術を「CA貯蔵」といい、清水さんもその研究の一端を担っているんです。上の写真は、研究所内にある試験用のCA貯蔵庫。「開けると酸素や二酸化炭素の濃度が変わり、野菜が起きてしまうので、毎日小窓から青果物の様子をチェックしています」

ぐっすり眠ると、どんないいことが?

ぐっすり眠ると、
どんないいことが?

そもそも野菜が熟睡するとは、どういうことなんでしょう。「収穫後も生きている野菜の呼吸を、できるだけ抑えるということです。そのために酸素を減らし、二酸化炭素を増やした環境で貯蔵するのですが、野菜によって適した値が異なるんですよ」。なるほど! ちなみにその値、ちょっと気になるところですが…「それはヒミツです」と笑顔の清水さん。それはそうですよね。研究職のみなさんが長い年月をかけてたどり着いた大切な研究青果、いえ成果ですから。

さて、野菜の呼吸を抑え、ぐっすり眠ってもらうと、どんないいことが? 「たとえば、芽や根が伸びないという効果があります」。冷蔵庫の奥のほうで、芽が出た野菜を発見することがありますが、CA貯蔵なら長期間保存してもそうはならず、採れたて品質をキープできるんですね。

りんごをヒントに、玉ねぎから研究開始

りんごをヒントに、
玉ねぎから研究開始

歴史的には「19世紀フランスで最古の研究報告があり、20世紀初めにはイギリスでりんごの貯蔵に実用されました」と清水さんが言うように、技術そのものは決して新しくないものの、野菜への活用はあまり試みられてこなかったそう。

しかし、清水さんがいるホクレン農業総合研究所では、その可能性に注目し、青森県にあるりんごのCA貯蔵庫メーカーやJAきたみらいとタッグを組み、2000年から玉ねぎの試験をスタート。その結果、先に紹介したように、芽や根の伸びを抑え、従来よりも2か月ほど出荷期間を延長できることがわかったのだとか。「その次に試験をしたじゃがいもでは、さらにうれしい結果が出たんですよ!」。というわけで、次回はじゃがいものCA貯蔵について深掘りしていきます!