ホクレン営農技術情報誌 あぐりぽーと
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 米政策改革とともに助成金体系も大きく変わり、転作の取り組みにも一段の努力が求められようとしています。そこで、そうした体型の変化と転作作物の高品質・安定・多収の必要性をJA北海道中央会に、その基本である圃場の畑地  化に向けた土壌管理技術、栽培技術を道立中央農試に解説していただきました。また、長年にわたって高収益作物の産地化を進めてこられたJAしんしのつ、JA南幌町には、取り組みのご苦労やご努力をお聞かせいただきました。所得確保の展望を描く一助にしていただければ幸いです。


収穫・品質向上を目指した転作の必要性
【JA北海道中央会 水田農業課長 清水 周】

 今年度から米政策改革がスタートしました。この柱は担い手の確保や規模拡大などの水田農業構造改革と売れる農産物づくりです。このような産地を形成するために、地域水田農業ビジョンの策定と、これを実践するために、地域の裁量で助成内容を決定できる産地づくり対策交付金が措置されました。当然、改革のゴールである平成22年には産地づくり対策交付金がなくなることが想定されています。その後も生産調整補助金が継続するかどうかは明確になっていませんが、将来なくなることは間違いありません。今回、その背景となぜ転作で収量・品質向上が必要なのかについて記述します。

1. 農業予算の削減

 16年度の財政事情は、歳入に占める公債依存度が44.6%であり、国債ならびに借入金残高は過去に例を見ない厳しい状況となっています。また、国内総生産額(GDP)に占める国、地方債務残高は年々増加しており、16年においては163.4%と先進国の中で最も高くなっています。そのため早急な財政の建て直しが必要であり、各省庁とも今後予算の削減が想定されています。事実、従来の生産調整補助金に代わって予算措置された16年度の産地づくり交付金は、国費ベースで14年度と比較し2割も減少しています。(表1)

表1 産地づくり交付金試算(北海道分) 単位:億円
16年試算 14年
受取
実績
D
14年
国費
実績
E
産地づくり
交付金 A
3階建て 合計
現状 100% 現状B 100%C
372 16 30 388 402 576 486

対比%
受取実績 国費実績
A/D B/D C/D A/E B/E C/E
65 67 70 77 80 83


(水田農業確立対策)
作物 基本要件 技術要件
小麦、大豆 団地化(12ha以上)
土地利用集積
(10ha以上)
6以上の技術

(産地づくり対策)
作物 品質要件 担い手要件
 小麦    検査等級1等
  容積重
  タンパク含有量

認定農業者
特定農業団体
作業受託組織
 大豆   検査等級1、2等
  契約栽培
図1 補助金要件

2.補助金要件がより品質向上、担い手へ

 今後の日本農政のあり方を検討する食料・農業・農村基本計画の見直しが17年春に策定されることになっています。その中で、施策を基本的に担い手に集中・重点化することと、品質向上を促すことにしています。本年度から措置された従来の生産調整補助金の3階建てに相当する重点作物特別対策では、小麦、大豆については品質要件と担い手要件を盛り込んでいます。
 従来は技術要件に合わせ団地化もしくは土地利用集積を行えば、小麦、大豆を誰が作っても、品質がどうであっても補助金が交付されましたが、今回は団地化や作業集積要件の代わりに品質要件と担い手要件が定められています
(図1)
 このことによって、今まではほとんど交付された3階建て部分が、従来の品質で試算すると、予算の50%程度しか交付されません。
 折角、農業予算が確保されたとしても、良いものを生産し担い手がいなければ、交付されないことになります。

3.水田経営の所得確保

 米価低落もあって、14年産の米の所得は2万円台/10aとなっており、小麦所得にも及ばないほど収益性が落ちています(表2)。15年度は不作の影響によって収量が減少したものの価格が高騰したことから所得は47千円/10aと回復しましたが、今後このような米価上昇の見込みは少なく、米単体での所得確保は難しくなってきています。
 一方、転作の主要作物である麦、大豆は生産性が低く、品質も劣っています。特に米主産地である空知、上川の小麦の単収は、十勝の単収の約半分程度と生産性が低くなっています(表3)
 したがって、水田農業の所得確保のためには米よりも収益性のある小麦などの転作部門で所得確保を目指すことが、水田地帯の差し迫った大きな課題です。そのために、単収向上と実需が求める品質の良い作物生産に取り組むことが必要です。

表3 水田地帯と畑作地帯の品質格差
(単位:t、%)





支庁名 収穫量 1等比率
石狩、空知 118,089 4.8
網走、十勝 118,089 81.9
全道計 600,074 61.1






支庁名 収穫量 1等比率
石狩、上川 14,845 11,7
十勝 8,706 27,4
全道計 35,401 15,6
注)小麦:14年産、大豆:13年産
10年間(4〜13年)小麦単収
(単位:kg/10a、%)
地区 平均 10中8* 変動
系数
実数 比較 実数 比較
全道 352 100.0 356 100.0 17
石狩 276 78.5 280 78.6 26
空知 229 65.0 229 64.2 21
上川 245 69.7 244 68.4 23
十勝 425 120.8 431 120.9 19
網走 370 105.1 381 107.0 22
*最高、最低を除いた、8年間の平均値

表2 米、小麦、大豆生産費比較(統計事務所調べ)                    (単位:円、ha)
項 目 14年産米a 14年産小麦b 比較a/b % 13年産大豆
10a 60kg 10a 60kg 10a 60kg 10kg 60kg



物財費 64,193 7,672 44,670 5,297 143.7 144.8 40,230 10,633
労働費 35,750 4,273 5,516 654 648.1 653.3 17,830 4,713
費用合計 99,943 11,945 50,186 5,951 199.1 200.7 58,060 15,346
生産費 95,520 11,417 47,721 5,659 200.2 201.7 57,967 15,322



収量 502 8.4 506 8.4 99.2 99.2 227 3.8
粗収益 94,922 11,345 76,538 9,076 124.0 143.7 46,472 12,283
所得 24,710 2,953 28,888 3,425 85.5 144.9 2,521 666
作付面積 5.83 6.15 94.8 2.15
*生産費:副産物差し引き

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