木村 吉里さん
(JAえんゆう)
農家の時計

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今回の農家さん

木村 吉里さん(JAえんゆう)
生田原町(現・遠軽町)出身。高校卒業後、道内やアメリカでの酪農研修を経て1999年に酪農家の3代目として就農。2025年に「北見地区ホルスタイン改良同志会」会長、「北海道ホルスタイン改良協議会」の副会長に就任。同年10月に北海道で開催された「第16回全日本ホルスタイン共進会」で、最高位賞を受賞。

「全日本ホルスタイン共進会」とは?

「全日本ホルスタイン共進会」は、日本全国のホルスタイン種(および一部ジャージー種)の乳牛を対象に、全国各地を代表する優れた個体を一堂に集め、健康で長生きする乳牛の理想的な体型と改良の成果を競う品評会です。1951年の初開催以来、およそ5年ごとに開催されており、酪農業界では「乳牛のオリンピック」とも呼ばれています。
月齢や出産経験の有無で部門が分かれ、審査員が序列を決定。各部門の成績上位牛で決戦審査が行われ、最も優れた牛に「最高位賞」が授与されます。 また、酪農後継者を育成するプログラムも実施されており、将来の酪農を担う人材育成にも力を入れています。
「第16回全日本ホルスタイン共進会」は、2025年10月26日、27日の2日間にわたり北海道の安平町で開催されました。
 

■木村さんの1日(12月の一例です)

牛の能力を無駄にせず、
無理をさせない飼育を

「うちの牧場では、母と従業員の3人で、約100頭の乳牛を飼育しています」と話す木村さん。さらに木村さんは、約100haの面積に牧草とデントコーンを作付し、春から秋にかけて牛たちの餌となる作物を生産しています。
「餌の管理や環境の整備など、やれるだけのことをした上で牛たちには無理をさせず、牛自身に任せるのが自分の牛づくりです」と木村さん。「もともと牛たちが持っている能力をより良く保つために、今この牛に何ができるだろう、と考えながら仕事をするのが好きなんです」。餌の食いつきや休息の取り方など、木村さんは牛たちのサインを見逃さないように注意深く観察しながら、一頭一頭のポテンシャルを無駄にしない飼育を心がけています。
 

就農後、牛のために働くうちに
どんどん牛好きに

高校時代はラグビーに打ち込み、牛を触ったことがなかったという木村さん。なりたい仕事も見つからないまま、卒業後は父の勧めで道内の牧場で1年間働くことに。共進会の存在を知ったのもこの頃だそう。「いい牛を育てようと熱心に取り組む姿を、かっこよく感じました」と木村さんは話します。
アメリカ研修を経て実家で就農すると同時に、牛づくりに熱心だった父と共に道内の共進会に参加。技術と経験を積み重ねていきました。「牛の身体能力は遺伝的な影響が大きいですが、そのポテンシャルを発揮させるのは生産者の工夫次第です」と木村さん。「そう考えられるようなったのも、共進会で多くの酪農家と交流できたから。いい牧草を作ろう、子牛を健康に育てようと日々行っている仕事はすべて牛のため。気が付けば牛のことが好きになっていました」と笑顔を見せます。
 

不調から最高位を掴んだ
牛の底力に感動

全国から選抜された乳牛386頭の頂点に立った、木村さんの牛「サニーウエイ アストロ マツカチエン」。全道チャンピオン(2023年春、2024年秋)の牛ということもあり、周囲の期待は大きかったそうです。
「実は地区予選の直前に牛が体調を崩したのですが、回復するぞ!という強い気持ちで自分の期待に応えてくれました。審査当日は入賞したい気持ちよりも、地区会長として恥じない姿で出場しなければという使命感が強かったです」と木村さんは振り返ります。最高位賞の発表時はうれしさよりも、見せたかった状態で牛を披露できた安堵感でいっぱいだったと言い、「実際のところ、乳房や足腰の良さなど個々のパーツで見ると、もっといい牛がいると思いますが、この牛は、生命力の強さが何よりも優っていたと感じます。そのおかげで、牛の魅力を再認識できました」としみじみ語りました。
 

共進会に興味を持つ酪農家を
一人でも増やしたい

木村さんが考えるいい牛とは、どんな乳牛なのでしょう。「一言で言い切ることは難しいですが、子をたくさん産みながら、健康で長生きしてくれる牛です。そのためには丈夫な足腰や心肺機能など、突き詰めれば共進会の審査基準と合致するはずです」。
また、酪農家の戸数が減少傾向にある中、地域を越えた酪農家の連携の重要性は増しており、木村さんは地区会長として、共進会に興味を持つ酪農家を一人でも増やしたいと考えています。
「若手酪農家には、いい牛づくりを目指す人たちと交流できるメリットはもちろん、長生きで多産の牛を育てることは経営のプラスになることも広く伝えていきたいです」

 

すべての牛の満足度を高める
酪農を目指して

木村さんは、「最高位賞の受賞は、酪農家としての自信になる」と前置きしつつ、「あくまでも日々の結果です」と強調します。「当然ながら賞を取るために酪農をやっているわけではなく、日々の酪農が大事であることに変わりはありません」と力を込めます。
時折首を伸ばして鼻先を近づけてくる牛に、木村さんは目を細めながら「賞を取った牛だけでなく、自分にとってはみんないい牛です。ですから選んだ牛だけをひいきせず、すべての牛の満足度を高めるように世話をすれば、選ばれた牛はうちの牧場の代表として頑張ってくれる。自分はそんな気がしています」と話します。
最後に木村さんは、 “NORTHERN PRIDE(北の誇り)”とプリントされたジャンパーを見せてくれました。「日本一の酪農生産地の北海道で酪農をするからこそ、日本一の志と誇りを持って牛を育てる、という決意を込めて自作しました」と木村さん。その背中には、酪農に対する強い意志が刻まれていました。