おいしいの研究
北海道産小豆の実力
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研究者:加藤 淳 さん
農学博士。1958年、帯広市生まれ。ホクレン農業協同組合連合会 農産部特任技監(豆類に関する技術支援担当)。北海道の農業試験場や豪州クイーンズランド大学などで豆類の品質、加工特性、健康機能性などについて、約30年にわたり研究。北海道立総合研究機構・道南農業試験場長や名寄市立大学栄養学科教授、副学長などを歴任。主な著書に、『「小豆の力」はなぜスゴイ?』(キクロス出版)、『最強のあずき力』(KKロングセラーズ)、『あずき毒出しスープ』(河出書房新社)などがある。
健康維持・増進にひと役、
北海道産小豆
最近、小豆の栄養成分に対する関心が高まってきています。国産小豆の約9割を生産する北海道は、小豆研究の先進地でもあります。そこで今回は、ホクレン農産部特任技監で「小豆博士」の異名をとる加藤淳先生に、北海道産小豆の一粒一粒に凝縮されたパワーについてお聞きしました。
食物繊維とポリフェノールを含む、
栄養の宝庫
───── | 小豆は、日本の食には欠かせない豆です。海外でもよく食べられているのですか。 |
加藤先生: | 世界で豆というといんげん豆で、大豆は油を搾るための作物という位置づけです。小豆を食べているのは日本、中国、韓国、台湾くらいで、さらに日本のように豆を甘くして食べることは、世界的にはものすごくレアです。実際、私がオーストラリアのクイーンズランド大学で小豆の貯蔵に関する研究をしていた頃、オーストラリア人にあんこを差し出したら、甘すぎて食べられないと断られました。甘い豆になじみがないんです。 |
───── | 先生のお話を伺って、小豆をもっと広めたくなってきました。小豆は当然ながら、健康食品といえますよね。 |
加藤先生: | 小豆は、栄養の宝庫です。栄養成分は、主にエネルギー源として利用される炭水化物が約60%、次に多いのがタンパク質で、ビタミンやミネラル、食物繊維、抗酸化物質のポリフェノールも含んでいます。ビタミンでいえば、糖質をエネルギーに代える際に必要なB1は豚肉並みで、加えて、脂質の代謝を進め、余分な脂肪の蓄積を抑えるB2、タンパク質の分解をつかさどるB6などがあげられます。 |
───── | それらの中でも、特に先生が着目している成分はなんですか。 |
加藤先生: | 食物繊維とポリフェノールです。小豆の研究を進めていくうちに、アンチエイジングやメタボリックシンドローム予防に働きかけるこれらの成分が多いことがわかったのです。このふたつのテーマは誰もが関心を寄せていることでもありますから、あんこやお赤飯だけでなく、もっと気軽にたくさん摂取でき、甘くない食べ方の提示も必要だと考え、検討を続けてきました。私が考案した食べ方については、のちほどご説明します。 |
ごぼうやさつまいもより多い、
食物繊維
───── | では、食物繊維のお話から。そもそも、食物繊維はからだにどのような働きかけを行うのですか。 |
加藤先生: | 食物繊維は、私たちが健康に過ごすために必要なタンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルに次ぐ「第6の栄養素」といわれています。摂取することによって、腸内の悪玉菌の抑制、善玉菌の増加、便秘の解消などの効果が期待されています。 |
───── | 小豆には食物繊維はどれくらい含まれていますか。 |
加藤先生: | 生の状態で100g中どれくらい含まれているかというと、小豆は24.8gです。食物繊維が多い野菜として思い浮かぶごぼうは5.7g、さつまいもは2.3g。小豆が群を抜いています。ゆでた小豆は100g中8.7gに減りますが、それでもごぼう、さつまいも以上です。 |
───── | ごぼうやさつまいもより、小豆のほうが効率よく食物繊維を摂れると? |
加藤先生: | そうです。食物繊維は、現代の日本人に足りていない成分の代表格といわれています。厚生労働省は、30歳から64歳の成人の一日の食物繊維の摂取量は、男性21g以上、女性18g以上を推奨しています。しかし、2025年度版の「日本人の食事摂取基準」によると、摂取量中央値は13.3gと推奨値より少なくなっています。あと少しの不足分を補うには、毎日の食生活に小豆を取り入れることが有効だと考えています。 |
抗酸化物質・ポリフェノールが
赤ワイン以上
───── | 次にポリフェノールですが、小豆にはどれくらい含まれているのでしょう。 |
加藤先生: | 私が調べたところ、北海道産小豆のポリフェノール含有量は100g中300~600mg程度で、これは、同量の赤ワインの1.5~2倍に相当します。 |
───── | 赤ワインの1.5~2倍とはすごいですね。ポリフェノールは、どのような効果をもたらすのですか。 |
加藤先生: | ポリフェノールは、活性酸素を取り除いてくれる抗酸化物質です。活性酸素は細胞をサビつかせ、その結果として、身体機能の衰え、物忘れ、皮膚のシワやシミ、動脈硬化などの老化現象が現れます。活性酸素は、体内に侵入した細菌やウイルスを退治するときや、日常的なストレスや紫外線などから発生します。これらの原因を招き入れないようにするにも限界がありますから、抗酸化物質を日常的に摂ることが大切です。 |
───── | ポリフェノールは、メタボリックシンドローム予防にも良いと聞いたことがありますが。 |
加藤先生: | メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪が蓄積し、高血圧症、高脂血症、糖尿病など複数の生活習慣病を合併する状態をいいますね。これについては、以前に帯広畜産大学では血糖値、青森県立保健大学では高血圧症を対象に共同で動物実験を行ったところ、餌に小豆のポリフェノールを混ぜた群は、そうではない群と比べて血糖値の上昇がゆるやかだったり、高血圧にならずに済んだりという結果が出ました。 |
ほうれんそうのおひたしより、
大福もち1個
───── | ここまでに挙がっていないミネラルなどの中で、特徴的なものはありますか。 |
加藤先生: | 特筆すべきは、血液をつくる上で必要不可欠な鉄です。鉄は一日当たり成人男性で7~7.5mg、成人女性で10.5~11mg摂取すると良いとされています。小豆には100g中5.5mgの鉄が含まれ、これはほうれんそうの2.8倍になります。ほうれんそうのおひたしの小鉢分(50g)と、大福1個(小豆餡70g)を比べると、大福はおひたしの約2倍の鉄分を摂れる計算になります。 |
───── | 大福1個なら、おやつにもなり手軽です。他にもありますか。 |
加藤先生: | 高血圧の原因となる塩分を排出してくれるカリウムはバナナより多く、また、中性脂肪や過酸化脂質の生成を抑えるサポニンも含んでいます。 |
───── | スーパーフードのようですね。そんな小豆のパワーをむだなく摂るコツはありますか。 |
加藤先生: | 私が考案し、おすすめしているのが、「煮小豆」です。小豆の成分は、ポリフェノールをはじめ、水に溶けやすい性質を持つものが多く、煮ている間にゆで汁に流れ出てしまいます。「煮小豆」はゆで汁を捨てることなく、小豆にすべて含ませる作り方で、味付けを一切しないため、いろいろな料理に使えます。 |
健康のためにも、
小豆を食べることを習慣に
───── | 先生は、「煮小豆」をどのように食べていますか。 |
加藤先生: | 「煮小豆」は味付けをしていませんから、洋風料理にも合います。なかでも、一度にたくさん食べられるのはスープです。おすすめはトマト味で、私はミネストローネに加えて食べるのが一番好きです。小豆はスーパーフードですが、ビタミンCやベータカロテンが含まれていません。トマトは、このふたつを含んでいますから、栄養面でも良い組み合わせです。他にも、ひき肉の代わりに「煮小豆」を使ったミートソース、「煮小豆」でつくるポークビーンズ、オムレツなどもおいしいですし、お米と炊いたり、おかゆに入れたり。相性の良い牛乳やヨーグルト、乳製品ともよく合わせています。 |
───── | 日々、どれくらいの量を食べたらいいのでしょう。 |
加藤先生: | 日本人の一日当たりの豆の摂取量は、平均すると55g程度です。食物繊維の不足分を小豆で補おうとすると、あと30g程度が必要です。小豆300gからは、約600gの煮小豆がつくれます。健康のためにも、いろいろな食べ方で小豆を食べることを習慣にしてほしいと思います。 |
───── | 小豆には、あんこだけではなく、いろいろな食べ方があることがよくわかりました。さっそく、「煮小豆」をつくってみます。本日はありがとうございました。 |