北海道産
さつまいも

おいしいの研究

北海道産さつまいも

vol.24

研究者:田中 由紀さん

研究者:田中 由紀さん

ホクレン農業総合研究所 食品検査分析センター 食品流通研究課 主幹。2005年にホクレン入会。春まき小麦の品種改良、北海道産でんぷんの分析などに携わった後、21年より現職。現在は、北海道産さつまいもの品質調査をメインに、大豆ミートの食品分析、冷凍食品の調理条件の検証、食肉の官能調査、馬鈴しょの品質調査などを担当。趣味は読書で、好きな作家は自身と同じ農学部出身の岩井圭也。

北海道産さつまいもの
「持ち味」を探る

ここ数年、北海道内ではさつまいもの栽培が活発化しています。主要品種は、「シルクスイート」、「べにはるか」、「ベニアズマ」。全国的にメジャーなこれらの苗を北の大地に植えて育てると、味や食感がひと味違うさつまいもになるといいます。なにがどう違うのか? ホクレン農業総合研究所の田中由紀さんに聞きました。

北海道産はしっとりしやすく、早く甘くなる

北海道産はしっとりしやすく、
早く甘くなる

───── 北海道産さつまいもには、どのような特徴があるのですか?

 

田中さん: 北海道産はしっとりしやすいことがわかりました。これは、北海道で栽培されている主要品種「シルクスイート」、「べにはるか」、「ベニアズマ」に共通した特徴です。

 

───── 本来、「シルクスイート」、「べにはるか」はしっとり系、「ベニアズマ」はホクホク系ですが、同じ傾向が出たと?

 

田中さん: しっとり系かホクホク系かは、さつまいもに含まれるでんぷんの量によります。でんぷんの量は植え付け後の積算温度(平均気温を合算したもの)と関わりがあり、この温度が高いとでんぷんの量が増えてホクホク感が強くなり、低いとしっとりした食感になります。北海道でも、収穫までに必要とされる積算温度を確保しやすくなりましたが、府県よりは少ないんですね。そのため、でんぷんの量が低めになり、品種を問わず、しっとりしやすいのだと考えられます。また、さつまいもは低温に弱いため、北海道では霜が降りる前に収穫をしなければなりません。さつまいもが畑にいる期間が短いことも積算温度に影響を与えているでしょうね。もうひとつの特徴が、府県産ほど長く貯蔵しなくても甘くなることです。

 

───── ということは、もしかすると、収穫まもないさつまいもは甘くないということですか?

 

田中さん: さつまいもは、貯蔵や加熱ででんぷんが糖に変わり、甘くなる作物です。道内で栽培された「シルクスイート」を分析したところ、収穫から2、3週間で甘くなりました。一般に、府県産は甘くなるまでにもっと時間がかかります。この理由の一つとして、北海道のような寒冷地で育てると、府県産よりでん粉が糖に変わりやすい状態になるためと考えられています。そのため、甘くなるのも早いと考えられます。北海道は府県より収穫が早く、しかも貯蔵も短くて済みますから、府県産が出回る前の時期に流通できれば需要も高く、有利だと思います。

 

品種によって、貯蔵中の変化に違いも

品種によって、
貯蔵中の変化に違いも

───── さつまいもは貯蔵が必要というお話がありました。貯蔵の研究も行っているのですか?

 

田中さん: 室温13度、湿度90%に設定した当センターの貯蔵庫に3品種を数十本ずつ保管し、毎月重量を測定し、傷み具合を調べました。収穫後から8カ月間の変化をみたところ、「シルクスイート」と「べにはるか」は「ベニアズマ」より長持ちすることがわかりました。また、キュアリングも効果があるという結果が出ました。

 

───── キュアリングとはどういうことですか?

 

田中さん: さつまいもを高温多湿の環境に数日間おいて、収穫時についた傷をふさぐことをキュアリングと言います。これによって、さつまいもを病原菌から守り、長く貯蔵させることができるんです。北海道は栽培が始まったばかりなので専用施設はほとんどありませんが、府県ではほぼ全量、キュアリングを実施している県もあるようです。

 

───── では、そろそろ、北海道産さつまいものおいしい食べ方をお聞きできますか。

 

田中さん: 職員約20人で、北海道産と府県産の官能評価を行いました。焼きいもは北海道産の方が甘く、食感がしっとりしているという結果で、スイートポテトでは北海道産は甘みが強く、総合評価が高かったです。

 

───── 焼いただけでも、加工してもおいしいということですね!

 

田中さん: お菓子のメーカーさんなどからは、北海道産さつまいもを積極的に使って応援していこうという声も届いているんですよ。

土壌と食味の関係、品種開発なども視野に

土壌と食味の関係、
品種開発なども視野に

───── さつまいもの研究に携わって、何年ですか。

 

田中さん: 私は丸3年ですが、その2年前から前任者が取り組んでいました。この間の研究の蓄積によって、3品種の特徴はおおよそ把握できましたし、北海道に適している品種もわかりました。北海道産さつまいもに関しては知見をストックしていく段階なので、さまざまなことが研究対象になります。とても面白いです。

 

───── 今後はどのような分野、テーマが研究対象になりそうですか。

 

田中さん: まずは、食味の評価方法の簡易化です。現状、評価対象のさつまいもはすべて焼きいもにして、担当者が食味をチェックしています。今後、収穫量が増えていくことを考えると、糖度などを計測する機器の活用も検討しなければならないでしょう。その他、土壌と食味の関係の調査、品種開発のサポートも見据えています。個人的には、さつまいもの有機酸やアミノ酸に焦点を当てた研究にも取り組んでみたいです。

 

───── 最後に、田中さんが研究者として大切にしていることを聞かせてください。

 

田中さん: 当センターでの研究は、ホクレン内外のさまざまな方々とコミュニケーションを図り、協力し合って進めていくものです。生産者さんが良い作物をたくさん収穫できるようにバックアップして、全国の消費者の皆さんにおいしいものを食べていただく。それが一番いいことであり、目指すべきゴールだと思っています。

 

───── 北海道産さつまいもの今後が楽しみになるお話を、ありがとうございました。