新品種
じゃがいも
「ゆめいころ」

おいしいの研究

新品種じゃがいも
「ゆめいころ」

vol.27

研究者:品田 博史さん

研究者:品田 博史さん

北海道立総合研究機構 北見農業試験場 馬鈴しょ・牧草グループ 主査。新潟県出身。大学進学をきっかけに北海道へ。大学では遺伝子工学分野の研究に従事し、その知見を生かして農業に貢献したいと入職。これまで稲や大豆の品種開発を経験し、2016年から北見農業試験場で馬鈴しょを担当し、ゆめいころの品種開発に大きく貢献。

「男爵薯」を母に持つ、
期待の新品種「ゆめいころ」

北海道産じゃがいもには、たくさんの種類があり食味のバリエーションも豊かです。中でも「男爵薯」は長年にわたって人気を博す代表品種。その「男爵薯」を母とし、病害虫に抵抗性を持つ品種として新たに「ゆめいころ」が誕生しました。開発に携わった北見農業試験場の品田博史さんにお話を聞きました。

病害虫に強く、かつ“母”に似た品種を目指して

病害虫に強く、
かつ“母”に似た品種を目指して

───── 2021年に品種登録された「ゆめいころ」の栽培が広がりを見せているそうです。大きな期待も寄せられていますが、新品種「ゆめいころ」を開発した背景を教えてください。

 

品田さん: 北海道産じゃがいもとして、根強い人気を博しているのがホクホク系の代表格「男爵薯」です。とてもおいしく、ブランド力の高い品種なのですが、実はジャガイモシストセンチュウという害虫に弱いという短所があります。その害虫は、じゃがいもの根に寄生して栄養分を吸収し収量を大幅に減らしてしまう厄介ものです。そこで生産者さんをはじめ各地のJAからも、この害虫への抵抗性があり、なおかつ「男爵薯」と同じようにおいしい品種の開発を求める声が高まっていました。
 
害虫を減らす農薬もありますが、農薬を使うには労力も費用もかかりますから、抵抗性のある品種を開発するのが一番の対策だろうということで、先輩たちの時代から地道な努力を重ねてきました。

 

───── どのようにして、「ゆめいころ」に辿り着いたのですか。

 

品田さん: 害虫に抵抗性を持つことが大前提ですが、「男爵薯」と同じように早生であること、いもの肥大性がいいこと、食味も似ていることを実現するのに、苦労がありました。「ゆめいころ」の開発は、2010年に「男爵薯」を母に、ジャガイモシストセンチュウに抵抗性のある早生系統「北系39号」を父として交配することから始まりました。交配が成功するとミニトマトに似た緑色の実がなります。その実から4039粒の種を取り、2011年に2000粒をまきました。そこから毎年、種いもを作って植え、選抜してはまた種いもを作って植えというのを繰り返し、ある程度の成績が見込めるようになったところで、道内各地で試験栽培を実施。2021年にようやく北海道の優良品種に認定され、「ゆめいころ」という名で品種登録出願をすることができました。北海道では1年1作ですから、どうしても時間がかかります。「ゆめいころ」の開発には15名の職員が携わりました。先輩たちの代からバトンをつなぎ、2000分の1の確率で「ゆめいころ」が選ばれたことになります。

 

栽培、貯蔵、加工、調理、あらゆる工程にメリット

栽培、貯蔵、加工、調理、
あらゆる工程にメリット

───── 「ゆめいころ」は、“両親のいいとこ取り”をした品種なんですね。

 

品田さん: その通りです。加えて、球揃いが「男爵薯」よりも良いのが特徴です。青果物として売るのにちょうどいいサイズのいもが「男爵薯」より10%程度多いというデータもありますから、収量面でも生産者さんにメリットをもたらすと期待しています。

 

───── とても素敵な名前ですが、「ゆめいころ」には、どのような思いが込められているのですか?

 

品田さん: 「ゆめ」は、「ゆめぴりか」など北海道産らしい言葉ですし、「いころ」はアイヌ語で「宝物」を意味する言葉です。この品種が、長く大切にされ北海道の宝物になってくれたらという願いが込められています。

 

───── 宝物のようなじゃがいも、味の面ではいかがですか。

 

品田さん: 「男爵薯」に比べて、肉質はややしっとり系、風味はあっさりとしているのが特徴です。いわゆる「いも臭さ」が少ない分、貯蔵後は甘みをしっかり感じられる品種です。「男爵薯」とまったく同じかというと、そうではありませんが、ほかの品種とも比較すると「男爵薯」に近い特徴があります。また「男爵薯」より目(将来芽が出るくぼみ)が浅いので調理しやすく、ご家庭で利用する消費者の皆さんや加工業者にも大きなメリットになります。
それから、「ゆめいころ」は「男爵薯」に比べて、貯蔵中に芽が伸びにくい傾向にあることも分かりました。これは流通や貯蔵管理においてもメリットと言えるでしょう。

 

───── 「ゆめいころ」には、作る人、食べる人、扱う人、すべてにメリットがありますね。

 

品田さん: そう言っていただけると大変ありがたいですね。
栽培方法は生産者さんたちのこれまでの経験を生かして「男爵薯」と同じように試していただければと考えています。ただ、「男爵薯」は本当に人気の高い品種です。いきなり「ゆめいころ」に置き換えるのは、難しい選択かもしれませんが、ジャガイモシストセンチュウへの不安がなくなるというのは、生産者さんにとって大きな安心材料になると思います。

 

これからも続く、北海道産じゃがいもの品種開発

これからも続く、
北海道産じゃがいもの品種開発

───── 「ゆめいころ」の誕生で一区切りではなく、北海道産じゃがいもの品種改良はまだまだ続くのでしょうか。

 

品田さん: 私たちは生産者さん、消費者の皆さんにとってメリットとなることを前提に、新たな品種を開発しています。私たちがやっている品種育成というのは、一つの品種の開発で終わりというわけではなく、今後も必要なものだと思っています。気候変動のこともありますし、新たな病害虫が発生するかもしれません。直近としては、暑さに強い品種が求められてくるでしょう。
農家さんの戸数も減っていますので、栽培に関わる労力を減らすことも視野に、より優れた品種を模索し続けます。

 

───── 大切な日本の食料を安定的に守るためにも、とても力強いお言葉をいただきました。「ゆめいころ」の未来をどんな風に描いていますか?

 

品田さん: 2024年から道内で一般栽培が始まり、徐々に作付面積も増えてきています。じゃがいもは、種いもの生産が増えなければ作付面積も増えていきませんので、急には無理ですがこの先、北海道で「ゆめいころ」の作付面積が広がっていく予定です。先輩から引き継ぎ、多くの関係機関の協力もいただき開発した品種ですが、ここから先は消費者の皆さんがどう評価してくださるかです。
おいしさ、使いやすさを知っていただき、「ゆめいころ」が北海道産じゃがいもを代表する品種になってくれたらと願っています。

 

───── 早くたくさんの消費者の元へ届くといいですね。品田さんご自身は、「ゆめいころ」の魅力をどんなところに感じていますか。

 

品田さん: 個人的には、煮物にして食べるとおいしいなと思っています。煮崩れしないのにしっとりやわらかく、味が染み込みやすいのでおいしいんですよ。

 

───── 「男爵薯」に似ているのに、煮崩れしないのはうれしいですね。カレーやシチューにも良さそうです。「ゆめいころ」がたくさんの人たちの期待を背負い、とても大切に開発されたことが分かりました。ありがとうございました。