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道具から見た、台所と食卓の変化

もっとおいしくなあれ

北海道産農畜産物を楽しむための工夫や知恵、情報を発信し続けているGREEN。このコンテンツでは、「食文化」、「食卓の風景」、「調理のニーズ」、「食の嗜好や意識」をテーマに、専門家へのインタビューを通してこの50年を振り返ります。おいしい笑顔を育むために、移り変わっていったもの、いまも変わらないことをみつけてください。

Vol.02道具から見た、
台所と食卓の変化

東京合羽橋商店街振興組合理事長 本(もと) 健太郎 さん

時代の変化が、店頭に現れる

食に興味がある人なら、誰もがその名を知る「かっぱ橋道具街」。食器から製菓製パン機械器具まで、道具でプロを支える専門店がひしめく商店街です。「グルメや食べ歩きへの関心が急速に高まった約20年前から、一般の方々が多数お見えになるようになり、ここ10年ほどは海外からのお客さまも増え続けています。みなさん、調理道具のテーマパークのように楽しんでいますよ」。にこやかにそう語る本(もと)健太郎理事長に、食にまつわる道具から見た50年の大きな変化を尋ねました。
 
「それまでは炭やガスが主な熱源でしたが、電化がかなり進みました。炊飯用土釜は炊飯ジャーに、やかんは電気ポットに代わり、IH対応の多層鍋(※)や卓上コンロが登場。電子レンジや食器洗い乾燥機は厨房・台所仕事を大幅に軽減させましたが、これらの使用を避けたい金箔や銀箔、金属の粉を使った装飾のある食器や漆器は敬遠された感もあります。この他、熱源に関するものでいえば、七輪や飛騨コンロ、卓上ガスロースターは、カセットコンロやホットプレートにその座を譲りました」
 
調理道具では、材質の多様化が挙げられると本理事長は説明します。「まな板は、かつては木製が当たり前でしたが、最近は衛生面に優れたプラスチック、ゴムや樹脂が主流です。おたま、しゃもじは木、ザルは竹から、ステンレス、プラスチック、シリコンなどへシフトしています。業務用に限らず、家庭用も同じ傾向ではないでしょうか」。確かに、1979年から1981年の GREENのシリーズ企画「ひと味アップの調理道具」をめくると、まな板は木製、ザルは竹製で、杓子の材料にはシリコンはありません。いつも使っている身近な道具も、時代と共に進化していることを改めて気づかされました。
 
※鍋底の熱をより早く広げるために、表面の磁場に反応するステンレス材に、ステンレスより熱伝導の良いアルミを張り付けた鍋
 

■本 健太郎さん
大正初期からの歴史を持ち、浅草と上野の間、南北約800mにわたって広がる「かっぱ橋道具街」の第8代理事長。2019年に就任以降、13業種・150軒の”食”の専門店を取りまとめ、商店街アーケードの改修、ホームページの多言語化などに尽力する。1909年、合羽橋交差点近くに創業した業務用陶磁器専門卸「小松屋」の代表取締役も務める。
(上)1981年8月発行GREEN No.45
(中)1981年4月発行GREEN No.43
(下)1980年8月発行GREEN No.39

“食”シーンから姿を消したもの

時代の波に洗われ、かっぱ橋道具街の店頭から姿を消したものもあります。ちゃぶ台、漬物石、ささら、三角コーナー、先割れスプーン、包む竹皮、経木、食卓の虫よけかや(フードカバー)…、ご家庭にもありませんでしたか? 業務用の道具を聞いてみると、「屋台のラーメン屋さんの七つ道具だったチャルメラ、そば屋さんなどが出前をするときに使うおかもち。これらは、若い人は知らないかもしれませんね(笑)」。外国人がその精工さに感心する食品サンプル、食品サンプルを収納するショーケース、メニューブックも減っていて、それは店頭の演出や店内での注文の取り方が変わったからだそうです。また、健康志向の高まりや喫茶店の減少で、灰皿の需要も下がっているようです。
 
「容器の形状が変わり、消えつつあるものもあります。茶缶、しょうゆ差しなどの調味料入れは容器のパック化で売れ筋から外れ、飲料の瓶から缶への移行は栓抜きを、缶のプルトップ式のタブの普及は缶切りを追いやりつつあります。GREEN誌面に掲載されているこの調味料入れ、懐かしいじゃないですか。そういえば、茶こしや出し濾し布、テーブルクロス、鰹節削りなども、ご家庭でもあまり使われていないのではないでしょうか」。改めて指摘されると、おっしゃる通りです。「より便利なものができた、生活様式が変わったということでの引退はある意味やむを得ません。ただ、籐製品のように、材料や職人の不足によって出回る量が少なくなっているものもあり、こうした商品を残していくために何をすべきかは我々の課題の一つです」。
 
なくなってはいないものの、菜切りや柳刃(刺身用)の和包丁は牛刀タイプの洋食向けのものに、菜箸はトングに、すりばちはブレンダーにというように、主役を明け渡したものもあります。一方で、ミキサーやハサミ、スライサー、フードプロセッサーのように、みじん切りや千切りに特化するために細分化していった調理器具群はもはや定番です。道具も世に連れです。
 

(上)1980年2月発行GREEN No.36
(下)1980年10月発行GREEN No.40
(上)1983年4月発行GREEN No.55
(下)1982年12月発行GREEN No.53

人それぞれの思いが売れる理由に

振り返れば、その時々の流行を映した商品もあると本理事長。「家で食文化を楽しもうと叫ばれた時代は、茶香炉や納豆鉢が人気でした。コロナ禍以降は、自炊する人が増えたため、ご飯を炊く鍋や釜がよく売れています。最近はマッコリカップ、アルミの皿、金串など軽い食器類が人気で、これはキャンプブームの影響なんです」。
 
SDGsやエコを意識した商品も注目を集めているそうです。「使われなくなったワイン樽を再活用した箸などが好評です。また、国産の割り箸も再評価されています。割り箸は、樽材の端材の有効活用として生まれた歴史があり、現在も間伐材や建材の端材などを活用して製造されているため、実は資源を有効活用しているといえます。海外からのお客さまはエコ意識が高く、箸はもちろん、箸袋や箸箱もよく購入しています」。
 
かっぱ橋道具街のあるお店では、一般のお客さまがプロご用達の銅製のおろし金、ワサビ専用のステンレス製のおろし金、さめ皮のおろし金、さらには刺身のツマ切り機を購入することもあるそうです。「プロ向けの道具は、ぎんなんの殻を剥く道具、栗の殻を剥く道具、左利き専用のレードルなど、一つのことに特化したものが多いです。こだわりの強い方には、そうした機能性の高さも魅力なのでしょう」。
 

「私の先々代は、中華食器の雷紋マークを図案化し、いち早く陶器に取り入れました。ラーメン丼は当店のロングセラーですが、ラーメン業界の変遷に従って、現在の平均的なサイズは以前よりひと回り程度大きくなっています」(本理事長)
(上)1982年6月発行GREEN No.50
(下)1980年12月発行GREEN No.41

食への関心を道具や器の興味へ

取材中、本理事長は「和食が世界的に注目されていることを強く感じる」と繰り返しました。海外で日本食の飲食店を営むオーナーやシェフが調理道具や器を吟味しに来たり、海外からの観光客がお土産ではなく自宅で使う食器を買いに来たり。それが日常茶飯事だと、本理事長自身も実感しています。
 
「外国人の多くが目に留めるものに、蓋(ふた)付きの丼があります。保温性が高く、蓋を開けるときの楽しみがあり、自国では見かけない形だからでしょう。家族の人数分を購入する方もいらっしゃいます(笑)。和食器を選ぶ際はお国柄が出て、アメリカ人は明るい色、フランス人はシンプルな染付、中国人は金色を配したものを好みます。そうした違いはありますが、和食が好きだということは万国共通です」。
 
健康面にも良いこともあり、私たちの間でも和食を積極的に取り入れようとする意識が高まっています。ただ、本理事長には心配なことがあるそうです。「国内の道具や器の製造者さんが激減していて、残しておきたい道具が存在しなくなってしまうのではないかと。そうならないためにも、食への関心の深まりが道具や器への興味とつながるように、私たちは努力し続けていきたいと考えています」。
 
 
おいしいものを作りたい、味わいたいという気持ちは、いつの時代も、どこにいても変わりはありませんね。
北海道から全国へおいしい農畜産物を届け続けることで、私たちもその気持ちに応えていきます。