
「クリーン大地 とうや湖」をキャッチフレーズに掲げる、JAとうや湖。社会の関心が高まる前から、環境に負荷をかけない農業に舵を切り、2009年には、JAとして日本で初めて、安全性を評価する国際基準「GLOBAL GAP認証」を取得しています。今回スポットを当てるのは、同JAが所有し管理する雪蔵野菜貯蔵施設。自然エネルギーの雪を活用することで電力とCO2の削減を図り、さらに特産のじゃがいものおいしさアップもかなえました。雪を味方につけた施設の仕組みを中心に、環境配慮をさらに進める同JAの次の一手も紹介します。
クリーン農業先進地、JAとうや湖
環境に優しいクリーンな農業へ。同JAにその機運が生まれたのは、30年以上前のこと。作業面の安全、安心を検討していたある生産者が農薬の低減を試みたところ、問題意識を同じくする賛同者の輪が徐々に広がっていきました。2002年にはJA・生産者・行政がクリーン農業協議会を設立。農業資材の適正処理、緑肥の景観づくりにまで取り組むようになっていきます。同JAのこうした歩みは、09年、「GLOBAL GAP認証」に繋がりました。

雪蔵の芽は、氷室研究会から
北海道は広く、地域によって雪の多少も異なります。同JAの大半は、生産者が除雪に骨を折るほど雪が多いエリアです。「雪蔵貯蔵は、JAとうや湖の氷室研究会の有志が雪氷貯蔵向けに建てた倉庫の中へしっかり雪を蓄え、野菜を貯蔵したのがはじまりです」。そう語るのは、同JAクリーン農業推進課の黄金崎順一課長。その結果が良好だったことが、雪活用の研究のきっかけになったそうです。

CO2削減量は、約11,000本の植樹相当
2008年、同JAの雪蔵野菜貯蔵施設が稼働を開始します。一つの建物の中に雪を貯蔵する「雪氷庫」と農産物を貯蔵する「貯蔵庫」を設けた構造で、毎年2月初旬、同JAの生産者が雪氷庫へ雪を入れ、7月まで雪を保持し、その冷気を活用します。黄金崎課長はその効用について、「年間約280MWhの商用電力を軽減し、年間約155tのCO2を削減します。これは、杉の木約11,000本を植えた計算になるとされています」と解説します。さらに、この施設は保管コストの削減も実現しています。

『JAとうや湖の雪蔵貯蔵野菜』
雪蔵野菜貯蔵施設は、おいしさを育むことにも一役買っています。主に貯蔵されている同JA特産のじゃがいもは、低温でねかせることで甘さが増します。さらに、とけだした雪水が湿度を90%以上に保つため、表面の乾燥を防ぎ、品質も維持されるのだそうです。現在2棟ある貯蔵施設の貯蔵量は計1,500t。ここで貯蔵されたじゃがいもなどは『JAとうや湖の雪蔵貯蔵野菜』と銘打たれ、大手流通メーカーや札幌市内の学校などに届けられています。

じゃがいもにキャベツが続く?
同JAでは、雪蔵貯蔵に向いているだけでなく、雪蔵貯蔵することで一層おいしくなる作物をみつけようと、調査・研究を続けています。これまで、じゃがいもの他にはにんじん、ごぼう、ながいもなどを試しました。また、数年前からトライしているキャベツには、可能性と手応えを感じているようです。同JAの雪が多い地方では、冬の冷気を利用した葉物「寒締め野菜」も生産されていることから、その連携も視野に入れています。

特別栽培への関心が高まる
減農薬、雪蔵貯蔵ときた流れをさらに進めようと、同JAの生産者の間では特別栽培への関心が高まっているそうです。「JAとうや湖の生産者さんは意識が高く、よく勉強されている」と黄金崎課長。そうした意欲に応えるために、同JAでは、クリーンな農業の取り組みをわかりやすく伝える仕組みづくりや、生産者が消費者と交流を深められる販売会の実施などを検討中です。

JAとうや湖でしか作れないもの
同JAでは、3年前から若手職員を中心に、休耕地活用の一貫として、さつまいも栽培を行っています。黄金崎課長は「すべては、JAとうや湖のものをもっと食べたいと、多くの消費者の皆さんに言っていただけるようになりたい、その一心から。皆さんの声は生産者のやりがいや自信となり、力強く前へ進んでいくパワーの源です」。JAと生産者がひとつになって進む、JAとうや湖。この先も、新たな取り組みで食卓をにぎわせてくれそうです。
北国ではやっかいもの扱いされることの多い雪を、環境保全とよりおいしいものづくりに役立てているJAとうや湖。柔軟な発想とたゆまぬ努力で、「雪蔵貯蔵野菜」シリーズを増やしていってくれると確信しました。
