じゃがいも
「きたかむい」

おいしいの研究

じゃがいも「きたかむい」

vol.14

研究者:福田 朋彦さん

研究者:福田 朋彦さん

ホクレン農業総合研究所 作物生産研究部 畑作物水稲開発課。2006年のホクレン入会から札幌で食品の香りや味の成分に関する研究・検査に従事し、2017年から恵庭馬鈴しょ育種農場に所属。じゃがいもの品種開発に携わり5年目を迎えた。子供との遊びが度を越して左足を負傷し、現在治療中。モノノフ(ももいろクローバーZのファン)。

やわらかで甘くて強い、
道産じゃがいもの注目株

さまざまな料理に使われる、じゃがいも。約50もの品種を作付けしている北海道は、全国の収穫量の約8割を占める日本一の産地です(※)。今回は、食感がやわらかいことから洋食にも和食にも使いやすく、貯蔵にも向いている注目品種「きたかむい」を特集。その品種開発の経緯などをホクレン農業総合研究所の福田さんに聞きました。
※農林水産省「作物統計調査」2019年より

病害虫に強く、肉色が白い品種を!

病害虫に強く、
肉色が白い品種を!

今回紹介する「きたかむい」は、1997年から品種開発が始まり、2007年に北海道の優良品種に認定され、そこから種いもを増やして2010年にデビューしました。

じゃがいもの品種開発は、ジャガイモシストセンチュウとの戦いの歴史でもあったそう。「1972年の最初のシストセンチュウの発見以降、『キタアカリ』や『とうや』といったシストセンチュウ抵抗性のある品種が開発されてきました」と福田さん。

つまり、「きたかむい」の品種開発がスタートした1997年の時点ではすでに抵抗性のある品種が存在していたのに、さらに別の新しい品種が求められたということですね? 「はい、『キタアカリ』と『とうや』はどちらも肉色が黄色なんです。黄色が良くないということではないのですが、抵抗性があって、かつ『男爵薯』のように白い品種も求められたということですね」

黄色いいも同士から白いいもが生まれる?

黄色いいも同士から
白いいもが生まれる?

では「きたかむい」は具体的にどのようにして生まれたのでしょう。「『とうや』と、アメリカ生まれの『イエローシャーク』を交配しました。どちらも肉色は黄色なんですよ」。黄色の両親から白い子どもを!? 「はい、黄色と黄色からほとんど黄色しか出ない掛け合わせもありますし、白が2割ほど出る掛け合わせもあります。これは両親の遺伝子を調べれば予測できることなんです。中学校で習うメンデルの法則ですね」

たしかに習った記憶が! ちなみに、肉色が赤や紫のじゃがいももありますが、それは黄色と黄色の交配では生まれない? 「生まれませんね。赤や紫になるスイッチは、黄色になるスイッチとは異なるので。じゃがいもは黄色系か赤紫系に分けることができ、遺伝の仕方で微妙に色合いが変わります。たとえば『インカのめざめ』はオレンジ色のように濃い黄色ですね。そして、どちらのスイッチも働かなければ白になるわけです」。なるほど、色を意識してじゃがいもを選ぶのもおもしろいですよね。

10年の歳月をかけて厳選されたエリート

10年の歳月をかけて
厳選されたエリート

じゃがいもの交配はどのように進められるのでしょう。「まず、両親となる品種の組み合わせを150から200パターンほど決めます。そうして一方の品種のめしべに、もう一方の品種の花粉を受粉させ、その果実から種子を取り出します。これが1年目の作業ですね」

そういえば、じゃがいもの果実って見たことがありません。どんな感じなんですか? 「サイズも形も同じナス科のミニトマトのようで、緑色をしています。その中にこのような種子(写真)が入っているので、2年目に全部で10万粒程度をポットに植えます。すると1つの株に小さないもが1~3個つくので、その色や耐病性などを調べます。そうして選んだいもを、今度は種いもとして育て、できたいもをまた選抜し…ということを繰り返しながら、10年かけて絞り込んでいくわけです」

とても長い期間ですが、それだけ厳選を重ねた超エリートが品種に認定されるということですね。品種が誕生するペースは? 「ホクレン農業総合研究所では5〜10年に一度くらいでしょうか。2007年の『きたかむい』の次に1つだけ、でんぷん用の品種が生まれました。国内では2年に一度くらいだと思います。ちなみにじゃがいもの品種開発を行っている人間は国内に20人ほどしかいないんですよ」。そんなに少ないんですか! それこそ選ばれし者という感じですね。

じゃがいもVS病害虫、その驚きの結果とは…

じゃがいもVS病害虫、
その驚きの結果とは…

さて、「きたかむい」などのセンチュウ抵抗性とは、具体的にどのような性質なのでしょう。「抵抗性がない品種を育てると、畑の中のセンチュウが増えるのですが、抵抗性がある品種を育てると、逆に減るんです。植物の病害虫への抵抗性には2種類あって、一方は侵入させないタイプ。一般的に病気に強いというイメージで、これがほとんどです。もう一方はかなり珍しいのですが、侵入した病害虫をやっつけてしまうタイプ。じつはこれがジャガイモシストセンチュウ抵抗性にあたるものなんです」

すごい、それは最強ですね! 「抵抗性のある品種を育てたとしても、センチュウはゼロにはなりませんが、さまざまな品種や畑の健康を守るために大活躍してくれているんですよ」。「きたかむい」は、じゃがいも畑にとってのかむい(神)のような存在でもあるんですね。

ホクホク、なめらか、どうして食感が違う?

ホクホク、なめらか、
どうして食感が違う?

ところで、ホクホクやなめらかといった食感の違いは、でんぷんの含有量の差から生じるのでしょうか。「品種ごとにそれらの数値は異なりますが、食感とはあまり相関がないです」。では、食感の謎は未解明? 「いえ、でんぷんがいも全体に均一に分布しているとなめらかに感じられ、外側に多く分布していると表面付近が崩れやすく、それがホクホク感につながることがわかっています」

食感がなめらかな「きたかむい」はでんぷんが均一に分布していると。そのほか「きたかむい」の食味の特徴を教えてください。「じゃがいもを貯蔵すると、でんぷんが糖に変化するのですが、『きたかむい』はその量が多いため、とても甘くなります。芽が伸びづらいので長期貯蔵にも向いていますね。ホクレンの『よくねたいも』シリーズにもラインナップされていますが、最も後発で出荷できる品種です。翌年の夏に出回ることもあるほど、ぐっすりよく眠ってくれるんです」

まとめると、「きたかむい」は肉色が白く、なめらかでやわらかく、貯蔵すると甘みも出て、さらには大敵も退治してしまうという、すごいじゃがいもなんですね。ちなみに現在はどのような品種を開発しているんですか? 「やはり、新世代の『男爵薯』になり得るようなものがメインターゲットです。つまりはセンチュウ抵抗性があり、白くてホクホクしているもの。これが本当に難しいのですが、その分やりがいも感じています」