
いい原料を使い、そのおいしさをしっかり生かす作り方で、健康で安心・安全な食品を食卓へ届ける-。これは、1960年にフジッコ(株)(旧:株式会社富士昆布)を創業した山岸八郎氏の信念であり、同社のものづくりの指針です。とろろ昆布「磯の雪」を皮切りに第二、第三の昆布製品を開発し、煮豆「おまめさん」の販売を開始したのは76年。現在4シリーズ全22種ある「おまめさん」シリーズの豆や砂糖には、北海道産が多く使われています。今回は、同社の最も伝統ある製造拠点、和田山工場(兵庫県朝来市)を訪ね、北海道産砂糖がどのようなおいしさを育んでいるのかを聞きました。
82年、全製品の合成保存料撤廃を達成
同社は、創業した1960年に第1号商品とろろ昆布「磯の雪」を販売します。当時は、食品には人工甘味料が当たり前のように使われていましたが、69年、その使用が大きな社会問題となります。この事態を重く見た同社は、とろろ昆布の製造でも一般的に使われていた人工甘味料の不使用を決定。英断ともいえる画期的な取り組みは、社会に大きなインパクトを与え、その後、とろろ昆布の製造において合成酢・酢酸も使わない製法を見出しました。76年には新製品の「おまめさん」を無漂白・無着色・合成保存料無添加で開発、82年には全製品の合成保存料撤廃を達成します。同社が現在掲げる企業スローガンは、「おいしさ、けんこう、つぎつぎ、わくわく。」。この言葉には、健やかなおいしさを求め続ける挑戦の歴史が刻まれています。

砂糖は「おまめさん」の味づくりのど真ん中
「食はおいしいだけでなく、健康に良くなければなりません。私たちは何をつくるにしても、まずは原料自体が健康であることを起点にしています」。こう語るのは、コア事業本部 豆事業部の入道知生部長(左の写真右下)。広報室の青木祐緯さん(左の写真左下)は、「業務用を含む200以上の商品すべてに対して、この考え方は貫かれています」と付け加えます。続けて入道部長は、「『おまめさん』のおいしさをつくりあげているのは砂糖で、砂糖はいわば味づくりのど真ん中。当社では甘さの出し方など、かなりこだわってやっています。和田山工場では、『おまめさん』、『塩昆布』に使う砂糖は20年以上ホクレンのビートグラニュ糖だけです。原料は北海道産100%のてん菜ですから、安心して使えます」と説明します。

すっきりした甘さ、きれいな仕上がり
「おまめさん」が生まれて、まもなく50年。和田山工場の安達豊工場長(写真右)は、「以前に比べて、いまは甘味がすっきりしています」と言います。その言葉を受けて、同工場資材グループの朝倉正人係長(写真左)がビートグラニュ糖を使う理由をこう説明します。「ビートグラニュ糖は、豆への浸透がとても良く、甘さ控えめのニーズに合うすっきりした甘さに仕上がります。私たちは、皮がむけた豆、割れた豆ははじくなど、見栄えにもとてもこだわりを持っています。豆を加熱するとメイラード反応(※)が起き、豆の色を変えてしまうことがあるのですが、ビートグラニュ糖は熱に強いせいか、そうした影響がほぼないです。味の面でも見栄えの面でも、『おまめさん』にはビートグラニュ糖が適していると感じています」。
※食品に含まれる糖とタンパク質が加熱されて、褐色に色づくこと。プリンのカラメル、肉や魚の照り焼きなどは、メイラード反応による

豆は動かさず、調味液が動く製法
北海道産大正金時豆を使った「おまめさん きんとき」の製造現場で、安達工場長の説明を受けました。「豆は15時間程度水につけてふくらませた後、やわらかくするために水煮にします。豆を引き上げるタイミングは、色や顔を見ながら職人が決めます。次に、ビートグラニュ糖、しょうゆなどを調合した調味液に豆を数時間つけます(写真左)。かつては、この作業は大きな窯で行っていましたが、窯の中で混ぜると豆がダメージを受けるため、豆は動かさず、調味液が動く製法に切り替えました。きれいで、かつ、おいしさが均一になる仕上がりを目指してのことです」。豆はその後一旦冷やし、計量そして袋詰め(写真中・右)され、さらに高温殺菌して風味を高めます。最後に品質検査を通ったものだけが、箱詰めされて、出荷されます。

ビートグラニュ糖をベースにトレンドに応える
同社では定期的に商品のリフレッシュを行っていて、この秋、「おまめさん きんとき」も味を見直しました。「当社では購入者にお集まりいただき、目隠し評価などを行っています。甘さ控えめが支持される傾向は続いていて、それに加えて最近は、口に含んだ時はパッと甘さを感じるけれど、スッと消える甘さが好まれています」と入道部長。甘さを控えながら、トレンドに応える甘さに調え、しかもおいしさを維持するために、和田山工場ではホクレンのビートグラニュ糖をベースにしながら配合や使い方を試行錯誤し、甘さを調整。そしてその調整は、「おまめさん きんとき」でも、写真の「おまめさんレギュラー」の他、「おまめさん豆小鉢」、「甘さをひかえたおまめさん」それぞれに行われているそうです。

北海道でのてん菜づくりをこれからも
「おまめさん」では、国内で生産量の多い原材料については基本的に国内原料を使用しています。入道部長は、「北海道産100%のてん菜を原料に、北海道で安定的に生産されているホクレンの砂糖は、我々が考える信念ともマッチしています」とした上で、「多様なお客さまに愛され、選ばれる商品をつくり、日本の伝統食文化を守っていきたい」と使命感をにじませます。朝倉係長は、北海道のてん菜生産者に応援メッセージを寄せてくれました。「天候不順や高齢化、後継者不足などのご苦労もおありでしょうが、プライドを持っててん菜を生産されていることは素晴らしいことです。和田山工場でも継続して使わせていただきますので、これからも頑張ってください」。

フジッコ(株)は、主力商品の原料が昆布と豆であることから、北海道とのつながりが強い会社です。創業者の山岸八郎氏は「北海道に恩返しがしたい」と、北海道で工場を持つことが長年の夢と語っていたとも伝えられており、2013年に千歳市に「カスピ海ヨーグルト」の工場が竣工した翌年に逝去されています。今回の取材では、ひとり一人の思いが北海道とつくるおいしさを支えていることを改めて感じました。
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