JA北ひびきのある和寒町は、北海道の北部、名寄盆地の南端に位置しています。道内の他地域と比べて冬季の気温は低く、降雪量が多い町でもあります。
『越冬キャベツ』は、雪が降る直前に収穫したキャベツを雪の下で保存し、翌年に掘り起こして出荷する雪の多い同町ならではの特産物です。その歴史は古く、1968年にさかのぼります。当時、秋キャベツが豊作で価格が暴落し、生産者はキャベツの出荷をあきらめて畑に放置しました。春になり、畑に放置してあったキャベツを見てみると、キャベツが青々としていて、しかも食べてみると甘みが増していたことから、和寒の『越冬キャベツ』としてブランド化に取り組みました。ちなみに『越冬キャベツ』は、「JA北ひびき 和寒町蔬菜組合連合会和寒キャベツ部会」が商標登録をした名称で、和寒町が『越冬キャベツ』の元祖と呼ばれるゆえんでもあります。出荷の最盛期は、例年1月中旬から3月中旬で、道内を中心に道外にも出荷されています。

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福本 国司さん(JA北ひびき)
- 和寒町出身。会社員を経て2000年に農家の4代目として就農。現在は、越冬キャベツのほかに米、そば、かぼちゃ、大豆、小麦を栽培。2023年より「JA北ひびき 和寒町蔬菜組合連合会和寒キャベツ部会」の副部会長として活躍。

JA北ひびきの特産物
『越冬キャベツ』とは?
■福本さんの1日(1月下旬の一例です)


雪の下に眠る、
キャベツを掘り取る
私たちが訪れた1月中旬、福本さんのキャベツ畑は、見渡す限り深い雪に覆われていました。福本さんが重機で器用に畑の雪を取り除いていくと、青々とした葉が顔を出しました。その様子はまるで、隠された宝物を発掘しているようです。朝8時から始まるキャベツの掘り取り作業では、雪の中から出てきたキャベツを3人のパートさんが手作業で一つ一つ拾い上げていきます。早朝はマイナス10度を下回る日もあり、厳しい寒さの中で、パートさんたちは重いもので一玉2㎏ほどになるキャベツの不要な葉をむいて、鉄製のコンテナへ積み込みます。
『越冬キャベツ』の生産者にとって、掘り取り作業は待ちに待った楽しみな作業なのだろうと思いきや、福本さんは「20年以上栽培していても、やはり自然が相手なので、毎年掘ってみるまでは不安でいっぱいです」と話します。
福本さんは、約2haもの畑に『越冬キャベツ』を作付しており、その収穫量は約100tにも上ります。しかし実際は、雪の下といってもキャベツが傷んでいる場合も多く、年によっては半数近く廃棄になることもあり、最近では鹿などの野生動物に食べられてしまうことも少なくないそうです。
掘り取り作業は16時まで続き、多い日には1日でコンテナ15基ほどの量にもなるそうです。

一度目の収穫作業は重労働
1度目のキャベツの収穫は、例年10月下旬から11月上旬にかけて行われます。福本さんによると、雪が積もる前にキャベツを収穫することが肝心で、とり遅れると球が割れてしまったり、収穫しないまま畑に置いておくと、芯の中が凍ってしまい、商品として出荷ができなくなるそうです。
「収穫前に雪が降ってしまうと4倍も5倍も手間がかかるので、タイミングを見極めて作業を終えられるように心がけています」この収穫作業が、すべての農作業の中で最も重労働だと福本さんは力説します。「収穫はすべて手作業で、朝から晩まで腰をかがめて一つ一つ刈り取ります。その作業が、あらゆる作業の中でも一番きついです。今シーズンは、パートさんやアルバイトさんなど総勢13人ほどで一気に作業を行いましたが、それでも3日はかかりました。毎年筋肉痛に苦しめられています」

品質維持のために、
抜き取り検査を毎年実施
『越冬キャベツ』は出荷までの期間が長く、6月の種まきから掘り取り作業が終わる3月まで約10カ月間にも及びます。キャベツが肥大する夏から秋にかけては病害虫の防除に気を配り、収穫に向けて大事に育てていきます。
およそ50戸の生産者で組織される「JA北ひびき 和寒町蔬菜組合連合会 和寒キャベツ部会」では、10日に1回、抜き取り検査をしています。無作為に選ばれたキャベツを、傷や形状など部会で定めた基準に沿って部会員が評価。「評価が低いと市場に出荷できない上、改善のための指導も入ります。ですから、どの生産者もプライドをかけていいものを作ろうと毎年努力しています」と福本さんは力を込めます。

シャキシャキとした食感と
上品な甘みが絶妙
福本さんが栽培しているのは、身が締まっていて、色鮮やかな『冬駒』という品種。「とれたてが一番おいしいですよ!」と福本さん。福本さんのご厚意で、畑で掘り取ったばかりの『越冬キャベツ』の葉をいただきました。ひと口かじってみると、シャキシャキとした食感も抜群で、みずみずしい甘さが口の中に広がりました。肉厚の葉はえぐみがなく、上品な味わいです。福本さんは「煮込むとさらに甘くなりますが、自分は生のまま食べるほうが好きです」と表情を緩ませます。
自宅に隣接する倉庫では、妻の征子さんとパートさんの3人が『越冬キャベツ』の選別と梱包作業を行っていました。征子さんは「一玉一玉ひっくり返して、状態を確認しながら重さを測っています」と説明し、10kg用の出荷袋に3玉から6玉のキャベツを並べ、きれいに梱包していきます。
「倉庫での保管が長くなると品質もどんどん低下してしまうので、なるべく早めに出荷できるように、スピーディーかつ丁寧な作業を心がけています」と征子さん。福本さんは、「今シーズンの収量は、昨年より若干多い見込みで、味もいいです。1年近く手間をかけて育てた和寒の『越冬キャベツ』を、多くの人に味わっていただきたいです」と話しました。