JA夕張市のある夕張市は、北海道のほぼ中央、山間地に位置しています。その地形から昼夜の寒暖差が大きく、同市特産のブランドメロン〈夕張メロン〉を筆頭に、地域性を生かした農業が行われています。
現在19人の若手生産者が所属するJA夕張市青年部では、〈夕張メロン〉に特化した活動を行っており、主にメロン栽培に関する勉強会や、JAや「メロン組合」との意見交換会、他産地を訪れて見聞を広げる道内外視察研修などを実施。さらに、夕張市内の福祉施設へメロンを寄贈するほか、地元の小学生を対象に〈夕張メロン〉の歴史や特徴について知ってもらう特別授業や見学会を行い、地域の特産品を身近に感じる食育活動にも力を入れています。

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工藤 凌司さん(JA夕張市)
- 夕張市出身。短期大学を卒業後、2014年に農家の三代目として就農。現在はメロンとながいもを栽培。2025年1月よりJA夕張市青年部の副部長として活躍。同年2月に開催された、JA全国青年大会の「JA青年組織活動実績発表全国大会」で優秀賞を受賞。

「JA夕張市青年部」とは?

門外不出の種子で、
60年以上にわたり生産
1960年に誕生した〈夕張メロン〉は、北海道の赤肉メロンの代表格で、リキュールのような芳醇な香りと、柔らかな果肉のとろけるような滑らかな食感が特徴です。
JA夕張市では、メロンの種子が市外に流出することがないよう厳重な管理体制のもと、誕生から60年以上もの間、同一品種を作り続けています。2015年には、地域の伝統を受け継ぎ、高い品質などを保つ農産物の名称の知的財産を守る、国の「地理的表示(GI)保護制度」に登録。例年、5月下旬から9月上旬にかけて出荷されています。

青年部全員がメロン生産者だからこそ、
〈夕張メロン〉のおいしさを極める挑戦を
全国区の知名度を誇る、〈夕張メロン〉。工藤さんが就農を決意したのも、〈夕張メロン〉が決め手だったそうです。
「中学時代に修学旅行の一環で、東京で〈夕張メロン〉の販売の手伝いをした時、あまりの人気ぶりに驚き、同時に誇らしい気持ちが芽生えました。それまでは自分の将来について漠然と考えていましたが、“自分もメロンを作りたい!”と決意した大きなきっかけになりました」
しかし近年、最盛期には220戸いたメロン生産者が100戸を下回り、それに伴って青年部の部員も大幅に減少しました。結果として青年部活動も縮小せねばならず、部員のモチベーションは下がる一方だったそうです。
転機が訪れたのは7年ほど前。「青年部はこれから何を目指して活動すればいいのか?」とある先輩に相談したところ、「そんなの簡単だべ、食べてうまいメロンを作るだけだろう!」という言葉が返ってきました。工藤さんは「夕張で新規就農する人は、ほぼ全員が青年部に入部し、全部員が〈夕張メロン〉を栽培しています。だからこそ、この言葉は全部員の胸に刺さりました」と振り返ります。
その後の青年部の会議では、全員がメロン農家だからこそ、「高品質で安定的な出荷を目標に、一丸となってメロンを作る」という活動方針が定まりました。

青年部員間の畑回りを強化し、
技術やアイデアを全部員で共有
そこで新たに始めた活動が、青年部員のメロンハウスを見学し合う畑回りです。種まきから収穫直前までの生育過程に合わせて毎月実施。「農家には『苗半作』という格言があるほど、苗づくりはメロンの生育に大きく影響する大切な期間です。それにもかかわらず、ほかの生産者の育苗環境を見る機会はこれまでありませんでした」と工藤さん。「実際に見てみると、接ぎ木の方法から温度・水分管理に至るまで、一軒一軒栽培方法が異なり、自分自身の栽培方法を顧みる良いきっかけになりました」。
夕張メロンは天候や土壌環境、栽培技術で品質が大きく左右されます。工藤さんは「収穫前は水やりを止めないと糖度がのらず、熟度を見誤って収穫してしまうと特有の香りが弱まります。おいしいメロンを作る方法は理解していますが、それをすべてのメロンで実現することが難しいんです。忙しい中でどれだけ満足できるものに仕上げられるか、みんなの必死さも刺激になります」と話します。

食べ比べや検査現場を見学し、
見る目を養う
そのほかに始めた活動がメロンの食べ比べです。工藤さんによると、小さい頃から現在に至るまで、家族や自分が作ったメロン以外を口にする機会はほとんどなかったといいます。
「厳正な検査に合格した〈夕張メロン〉は、すべておいしいですが、生産者目線でいうと、一つとして同じ味のメロンはありません。実際に食べ比べしたところ、糖度以上に甘く感じるものがあることが分かりました」
そこで青年部では、糖度や香り、肉質などの項目を5段階で評価し、メロンのおいしさを数値化しました。工藤さんは、「同じ点数でも、点数以上においしく感じるメロンがどのように作られているか議論を交わし、次の見学先を選定するようになりました」と説明します。
収穫したメロンは、生産者の中から審査で選ばれた検査員によって品質の良し悪しを検査され、合格したものが〈夕張メロン〉として出荷されます。作り手の目が何よりも検査に適しているという思いが技術とともに受け継がれており、青年部では検査員とマンツーマンで検査技術も学んでいます。

〈夕張メロン〉ファンを
全国に増やしたい
〈夕張メロン〉に特化した青年部活動にかじを切ったことで、栽培知識が増えただけでなく、部員の意識も大きく変化しました。「勉強の質が向上したことで一人ひとりの自信がつき、 “俺たちがブランドを守っていく!”という思いがより一層強まりました」と工藤さんは力を込めます。
こうした取り組みが評価され、JA夕張市青年部は2025年2月に開催されたJA全国青年大会の「JA青年組織活動実績発表全国大会」で優秀賞を受賞しました。工藤さんは当日のスピーチを「60年以上愛されてきた〈夕張メロン〉を、全国の皆さまのもとへ届けることが私たちの使命です。夕張の新時代は私たちが切り開きます」という力強い言葉で締めくくっています。
「僕たちは『日本一のメロンだ』という情熱とプライドを持って、〈夕張メロン〉を作っています。まだ食べたことない方はぜひ食べてほしいですし、食べたことある方には、“今年は今まで以上においしかった!”と言っていただけるように〈夕張メロン〉ファンをどんどん増やしていきたいです」と工藤さんは笑顔で話しました。