北海道米
「ゆめぴりか」
[前編]

おいしいの研究

ゆめぴりか

vol.4

研究者:粕谷 雅志さん

研究者:粕谷 雅志さん

北海道立総合研究機構 上川農業試験場 研究部 水稲グループ研究主任。本機構の研究職員として、上川農試で水稲を8年間、北見農試で麦を7年間担当し、今春再び上川農試に戻り、「ゆめぴりか」の次を担う品種などを開発中。趣味は読書。

「たくさん」から「おいしい」へ、
北海道米の歩み

つややかな炊き上がり、もっちりとした食感、豊かな甘み…北海道米の最高峰として、道内外の幅広い年代に愛されている「ゆめぴりか」。もうこれなしでは生きていけない!なんて人もいるのでは? 前編では、この最上級ブランド米にたどり着くまでの品種開発の歴史や、おいしいお米の条件などについて粕谷さんに聞きました。

「やっかいどう米(まい)」とは言わせない!

「やっかいどう米(まい)」とは
言わせない!

まず、北海道の米づくりの歴史を確認しておきましょう。明治初期の1873年、北海道稲作の父と呼ばれる中山久蔵が「赤毛」という品種で米づくりに成功しました。1915年には上川農試の前身施設で品種改良に着手。今からちょうど100年前の1919年に最初の優良品種「坊主1号」が登録されました。じつはこの2つ、「ゆめぴりか」のご先祖様でもあるんです。それから徐々に米の作付面積が増えて、日本でも有数の米の産地となっていきます。

「その頃までは、寒さに強く、たくさん採れる品種を求めて改良が進められてきました」と粕谷さん。裏を返せば、味は二の次であり、米が余るようになった1970年代からは「やっかいどう米」と揶揄されることに。そんなピンチからの逆転をめざし、1980年に官民一体で始まったのが「優良米早期開発プロジェクト」。「コシヒカリなど、本州のお米に並ぶものをつくろうと、先輩方が相当な努力をされたと聞いています」

そうして上川農試からは、1988年には「きらら397」という、現在も栽培されている品種が誕生。「それまでの北海道米よりも食味がワンランク上がり、府県の標準的なお米に追いつくことができました」

おいしいお米は、なぜおいしい?

おいしいお米は、
なぜおいしい?

お米には「ふっくら」「もちもち」などの食味に関する表現がありますが、品種によってその程度に差が出るのはどうしてですか? 「お米に含まれているアミロースというデンプンやタンパク質の量に関係しています。アミロースが少ないほど、炊いたときに粘りが出て、タンパク質が少ないほど柔らかく炊き上がるんです」。つまり、この2つがおいしさの鍵を握っている!ということですね。

「はい。以前の北海道米は両方とも多かったので、パサパサと硬い傾向にありました。そこで先ほどの開発プロジェクトでは、アミロースを高速で測定できる機器を導入し、含有量の低い個体を効率よく選抜したんです。全国的にも画期的なことでした。現在も同様の機器を使っています」

ちなみに実際に食べてみたりは? 「もちろん、食味官能試験もしていますよ(写真)。毎年12月から1月にかけて、毎日お昼と15時に」。ランチとおやつの時間ですね! 「そうなんですが、おかずと一緒に食べるわけではありませんし、かなり神経を使いますので、楽しいひとときというわけではありません(笑)」

デビューできるのは数年に1品種だけ

デビューできるのは
数年に1品種だけ

このような日々の研究が積み重ねられ、「きらら397」以降は、さらに食味のよい「ななつぼし」や「ふっくりんこ」、そして2009年には今回の主役「ゆめぴりか」がデビュー! こうして名前を並べると、「きらら」に付いた数字が気になってしまうのですが。「新しい品種がデビューするまでには、最初の交配から10年ほどかかります。その間、より優れたものが段階的に絞り込まれ、最終段階の試験まで残ったものには特別な試験番号が付けられます」

なるほど、その番号の名残なんですね? 「はい、『きらら397』の命名前の呼び名は上育397号でした。“上”は上川農試の略称です。『ゆめぴりか』は上育453号ですね。ただ、この番号が付いても、最終試験までクリアできるものはごくわずかです。397と453の間の約20年のうち、晴れて新品種となったものは418の『ほしのゆめ』や433の『あやひめ』など数種しかないんです」。そう考えると、私たちが普段食べているお米ってスーパーエリートなんですね! 後編では、なかでも最高評価を受けている「ゆめぴりか」のおいしさについて掘り下げます!