北海道とつくるおいしさ[14]
日本清酒(株)

はるばる来たぜ、食卓へはるばる来たぜ、食卓へ

北海道とつくるおいしさ14

日本清酒(株)は、197万人都市・札幌唯一の酒蔵です。創業から152年、札幌南部の緑豊かな山々を水源とする豊平川の伏流水が湧く地を離れることなく、「北海道の酒、札幌の酒」を造り続けています。2023年1月には64年ぶりに蔵を建て替え、その蔵で新たに醸した商品を発売。挑戦する老舗としての存在感を示しました。今回は、北海道産の酒造好適米(酒米)生産者との信頼と協働をベースに、一粒一粒の秘めた力まで引き出すことに注力する同社の酒造りを聞きました。

道民の間では、日本酒といえば「千歳鶴」

日本清酒(株)は、1872年に札幌で初めて酒造りに挑んだ柴田酒造店を出発点に、1928年に札幌・小樽・旭川の蔵元8社によって創立されました。道民の間では、日本酒といえば「千歳鶴」が代名詞。「『千歳鶴』には、日本の國酒として良き日本酒の伝統を継承しようという、先人の心意気が込められています」と営業本部商品企画部の金野淳也次長(写真右上)。「当社のシンボルには、厳冬期に雪清水をもって米を洗米し、精魂込めて仕込みをする蔵人の姿を重ね合わせ、北海道に生息する丹頂鶴を用いています」と同部の柴田朝美さん(写真右下)は付け加えます。

原料や工程が同じでも異なる味に

酒造りは水が命と言われます。「当社は創業時から一貫して、札幌市中心部を流れる豊平川の伏流水を使っています。この水は非常に澄んでいておいしく、酒造りにはもってこいです」。そう語るのは、酒造りに約20年携わっている六代目杜氏、市澤智子さん。「日本酒造りは、醸造酒分野では他に類がないほど複雑です。しかも、原料の酒米は、生産年や作り手によって異なります。酒米の品種や工程が同じでもできあがる味は都度異なり、その理由はデータからは解明できません。だからこそ、五感を研ぎ澄ませ、働かせることが重要で、私は麹菌を振った酒米の変化を注意深く観察するなどして、見た目、音、ガスの出具合をはじめ、気づいたことは漏らさずに記録をとっています」。

生産者と心をひとつに、切磋琢磨

同社が使用する酒米はほぼ道産で、その生産はJAピンネ酒米生産組合(新十津川町)などの生産者達に支えられています。同社と同組合との交流は先代の杜氏の時代からと長く、毎年、社員が田植えと稲刈りを体験し、市澤さんはその年の稲作の作業暦を決める「幼穂(イネの赤ちゃん)判定会」にも参加しているそうです。「皆さんが丹精込めて作ってくださった酒米でいい酒を造ることはもちろん、道産の酒米の可能性を広げることも私の務めです。2023年は北海道も記録的猛暑で酒米づくりは大変だったはずですが、今後も生産者さんと心をひとつに、切磋琢磨しながら、よりおいしい酒造りをしていきたいです」。

「日本酒アワード2023」で
「専門家・流通・飲食店部門賞」

2023年1月、同社は64年ぶりに蔵を建て替えました。市澤さんの提案を随所に取り入れたこの蔵で、初めて仕込んだ酒が「千歳鶴 初仕込 純米吟醸 きたしずく」です。この記念すべき1本が、2021年から道産の日本酒・酒米のブランド力、認知度向上を目的に実施しているコンテスト「-北海道米でつくる-日本酒アワード(主催:北海道)」の2023年「専門家・流通・飲食店部門賞」を受賞しました。「さわやかな香りとみずみずしく心地よい甘み、酸味が印象的な酒です。私は、食中酒としておすすめしたかったので、飲食店さんらからの評価は合格をもらえたようでうれしかったです」。そう語る市澤さんから、思わず笑みがこぼれました。

「吟風」と「きたしずく」への思い

道産の酒米には「吟風」、「彗星」、「きたしずく」の3品種があります。同社でもこの3品種を使用していますが、JAピンネ酒米生産組合が生産する「吟風」と「きたしずく」を中心に酒造りを行っています。「吟風」は道産の酒米を原料とした酒造りが広がるきっかけとなった代表品種で、芳醇でコクのある酒を生み出します。一方、「きたしずく」は新鋭で、軽く、やわらかな酒が期待できます。市澤さんは、これまで主力だった「吟風」を尊重しつつ、「きたしずく」に力を入れたいと語ります。「当社が『きたしずく』で造った純米大吟醸が2019年の全国新酒鑑評会で初の全国金賞を受賞し、『きたしずく』はしっかりした酒を造り込める酒米だとアピールできました。新しい蔵でも、『きたしずく』でさまざまなトライをしたいと考えています」。

持ち味の違いを楽しめる、3つの新商品

この冬、同社は3つの新商品を発売しました。「千歳鶴 新醸造棟限定仕込 純米吟醸 きたしずく」(写真右)は、のどごしすっきり、後味の良さが特徴です。「吟風」を40%まで磨き上げ、なめらかでコクのある味わいに仕上げた「千歳鶴 新醸造棟限定仕込 純米大吟醸 吟風」(写真中)は、香りに頼らない純米大吟醸で、同社ではこれまでにない造りです。「千歳鶴 純米 新酒しぼりたて」(写真左)も「吟風」を使用し、酒米の甘みと旨み、フレッシュな香りのバランスが良い1本。「純米吟醸 きたしずく」は刺身や焼き鳥、「純米大吟醸 吟風」はチーズやバターを使った料理がよく合い、「純米 新酒しぼりたて」はムニエルやタルタルソースを添えた料理もおいしくいただけるそうです。

直営の飲食店・売店、
オンラインショップも充実

「千歳鶴」と銘打つお酒は、一般酒から吟醸酒まで約50種類。札幌市内には同社の直営飲食店が3店舗あり、常時、約30種類を取り揃えています。道産の酒米と札幌の水で造られた「千歳鶴」は、新鮮な山海の幸を楽しめる北海道料理とよく合い、季節の旬も引き立てます。また、同社の本社敷地内にある直営売店「千歳鶴 酒ミュージアム」では、蔵元限定の銘柄、直詰めした希少な一本も販売していて、甘酒、酒粕ソフトクリームなども人気です。遠方の方には、お得な福箱販売や送料無料キャンペーンが好評なオンラインショップのご利用がおすすめです。

生産者と一緒に、いい酒を造り続けたい

市澤さんが「同じものはふたつと造れない」と語るように、日本酒は一期一会。入社して初めて日本酒を飲んだという柴田さんは「その時に飲まなければ、一生出会えない酒があります。まだ飲んだことがない方も、必ず合うお酒があります」、金野さんは「新しい蔵の誕生によって、寝かせた酒だけではなく、フレッシュな酒も提供しやすくなりました。まずは気になる一本を手に取ってほしいですね」と声を弾ませます。「私たちは、酒米の生産者さんと一心同体です。生産者さんは酒米を、私たちは酒をつくる過程で感じたことを共有しながら、いい酒を造り続けていきたい。ただそれだけです」と市澤さん。寒い冬こそ、日本酒の季節です。「千歳鶴」で、その奥深い世界を楽しんでみませんか。
 
取材中、「変化する気象対策に本腰を入れなければ」と発言していた市澤さんからは、困難があっても生産者と乗り越えていく覚悟を感じました。
信念をもって、挑戦をいとわずに醸される「千歳鶴」。
今後、どのような味わいがお目見えするのか、期待がふくらみます。
 
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