ところ型循環一次産業

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ところ型循環一次産業

オホーツク海に面した北見市常呂町。その地名を聞くと「ホタテ」や「カーリング」を思い浮かべる人が多いかもしれません。常呂町は、川と大地と海がもたらす恵みを生かした、農業と漁業が盛んなまち。農業と漁業に携わる人々が手を取り合って地域の資源を守り次代に引き継ごうと、独自の循環型一次産業を目指してきました。豊かな大地と海がある、この土地ならではの「ところ型循環一次産業」を紹介します。

常呂川流域に拓けた北見市常呂町

約3,400人(※)が暮らす北見市常呂町。大雪山系を源流とする常呂川によってもたらされた肥沃な大地と、冬は流氷が接岸する豊かな海に恵まれ、農業と漁業で発展してきました。また多くのオリンピック選手を輩出するカーリングのまちとしても知られています。この地域には、はるか昔の先史時代から人の営みがあり、「オホーツク文化」と呼ばれる文化を築いてきました。町内では、縄文時代から擦文時代にかけての遺跡が数多く発見されており、国指定史跡「常呂遺跡」は、国内最大規模の集落跡として保護されています。
 
※北見市の最新人口統計データより、2023年9月30日現在

「ところピンクにんにく」がGI登録

常呂町にある常呂町農業協同組合(以下、JAところ)では、137戸の生産者が約4,700haの農地で、小麦やてん菜、じゃがいも、玉ねぎを主とする畑作農業と酪農業を展開しています。にんにくの栽培にも力を入れており、皮の色から名付けられた「ところピンクにんにく」が、「地理的表示(GI)保護制度」に登録されています。JAところ営農部長の武田一宏さんは、「当地では明治時代からにんにくを栽培し、過酷な開拓作業の栄養源としていました。1970年代には日本一の栽培面積を誇っていたこともあり、もう一度、産地として盛り上げていきたいと頑張っているところです」と、言葉に力を込めます。

地域資源を活用しクリーン農業を推進

「おいしく、安心して食べていただけるものを届けたいという思いで、私たちは20年以上前から独自に定義する『TOKORO型クリーン農業』に取り組んできました」と話すのは、JAところ営農推進室長の氏家俊典さん。推進しているクリーン農業とは、3年に一度は畑に堆肥をすき込むことや、輪作体系に緑肥の栽培を取り入れること、常呂産ホタテ貝殻の肥料を積極的に活用し資源の循環を進めることなど、共通のルールに沿って行う農業のこと。「畑作農家の生産性を最大限に引き出すことを目標としていますが、同時に地域資源を活用し、ムダな肥料や農薬を使わず、環境負荷を抑えることも目指しています」。

ホタテ貝殻で海の恵みを畑に

JAところで活用を推進する「常呂産ホタテ貝殻肥料」とは、ホタテ貝殻を砕いて粉や粒状にした土壌改良材のこと。1979年にJAところと常呂漁業協同組合(以下、JF常呂)、行政の三者で設立した(株)常呂町産業振興公社が製造し、「ホタテ貝ガラ粉末」「ホタテ貝ガラ粒状石灰」として商品化しています。同社専務取締役の金澤和美さんは、「畑には、pH値を調整するために石灰肥料を散布しますが、研究によってホタテの貝殻が石灰の代わりになることがわかりました。さらに、貝殻には海のミネラル分が豊富で、板状の構造により土の目が詰まらず土の硬度を高めない作用があります。貝殻は水産加工場で貝柱を取る際にボイルするため、塩害の心配もありません」と説明します。地場産の肥料が安価で供給されることも生産者のメリットになっているようです。

獲る漁業から育てる漁業へ

「1970年代に、獲る漁業から、作り育てる漁業へ転換しました」。そう語るのは、JF常呂の髙桑康文組合長。常呂町はホタテ貝とサケ・マスの水揚げが多く、稚貝や稚魚を育てて放流する事業を行ってきました。「特にホタテ貝は、漁獲量の拡大と安定を計るため、組合員全員で共同経営方式を取り、サロマ湖でひと冬育てた稚貝を毎年5月にオホーツク海へ放流。流氷が去る3月中旬から12月下旬まで、4年目のホタテ貝だけを漁獲します」。常呂で水揚げされたホタテ貝は、全道各地の水産加工場で冷凍貝柱、乾し貝柱、刺身や寿司ネタ用の生鮮貝柱などに加工。その内、乾し貝柱などに加工される際に出る貝殻が土壌改良材に活用されます。「ホタテ貝の漁獲量は年間約4万t〜5万t。この内の約半分は貝殻です。大量に出る貝殻全てを産業廃棄物にするのではなく、肥料の原料として有効活用できるのは、漁業者にとっても大きなメリットです」。

森を育て、川と海を守る

またJF常呂では50年以上前から常呂川流域の山で植樹活動を行ってきました。これまでに約77万本を植樹。森を育て、水資源を守る活動に積極的です。その背景には、常呂川が「死の川」と呼ばれるほど、工業廃水で汚染されてしまった過去がありました。「きれいな水なくして、魚は住まず」と髙桑組合長。「魚の母なる川を蘇らせなくては」とJF組合員の皆さんが立ち上がりました。「ここで漁業ができるのは、常呂川やサロマ湖、オホーツク海などがある地の利のおかげですから」と、自然の恵みに感謝を表します。

「ところ型 循環一次産業」の実践

ともに地域の環境に配慮してきたJAところとJF常呂が、長年にわたって手を携え、取り組んでいるのが「ところ型 循環一次産業」の実践です。漁場で水揚げされたホタテ貝を肥料に活用し、畑にすき込む。その土壌で育てた小麦の麦わらは酪農家へ。そして、牛のふん尿をたい肥として畑へと、地域にある資源を活用しながら一次産業全体で循環させています。「身近にある資源をムダにせず、地域一体となって活用しようという考えです。農業に携わる人は、過剰な肥料や農薬で川や海を汚さない。そんな気持ちでやっています」と、氏家さんは生産者を代弁します。
※「ところ型 循環一次産業」の画像提供JAところ

垣根を越えた思いやりが好循環に

SDGsが注目されるずっと以前から、JAところとJF常呂は、農業と漁業の垣根を越えて持続可能な生産の仕組みづくりに心血を注いできました。全国で初となるガソリンスタンドの共同経営もその一つ。また、物だけでなく人と人とのつながりも「ところ型 循環一次産業」の特徴かもしれません。「ホタテの稚貝を放流する日は、大勢の農家さんが手伝いに来てくれます。玉ねぎの収穫で忙しい時期は、漁師も手を貸しますよ」と笑う髙桑組合長。武田さんも「稚貝から携わった貝殻が、肥料になって畑に帰ってくるのは、私たちにとってもうれしいことです」と、うなずきます。海のことを考える農家と山を育てる漁師、お互いの領域を思いやる心もまた、豊かな地域を支えているようです。

オホーツクの大地と海の恵みを全国へ

髙桑組合長に常呂産のホタテ貝のPRをお願いすると、「北海道のホタテは、常呂産に限らずおいしいですよ。でも、一貫して稚貝から大事に育てることには、ちょっとこだわっています」と、控えめに微笑みます。JAところでは、「規模は小さくても、キラリと光る農業を維持していきたいですね」と武田さん。氏家さんは「これからもTOKORO型クリーン農業で安全・安心な農産物を全国へお届けします。ところピンクにんにくをもっと知っていただけたら」と、にんにくを推します。金澤さんは、「遺跡が多いのは、はるか昔からここに豊かな資源があった証しです。その豊かさを守っていかなくては」と、胸を張りました。

今回、お話しを伺った皆さんが、異口同音に「常呂は豊かな場所です」と、感謝を込めながら誇らしく話す様子が印象的でした。「ところ型 循環一次産業」のあり方に触れ、持続可能な社会の実現に向けて必要なのは、まず身近な資源に感謝すること、そしてその資源を未来につなげようと地域が一体となって行動を起こすこと、そう教えていただいた気がします。