安藤 功さん
(JAびばい)
農家の時計

農家の時計 農家の時計

今回の農家さん

安藤 功さん(JAびばい)
美唄市出身。農家の4代目として22歳で就農。米、麦、大豆を栽培するほか、2001年からグリーンアスパラガスの栽培を開始。2020年より「美唄市グリーンアスパラ生産組合」の組合長を務め、グリーンアスパラガス『雪蔵美人』のPR活動や組合員の連携にも尽力しています。

JAびばいの特産物グリーンアスパラガス『雪蔵(ゆきぐら)美人』とは?

JAびばいのある美唄市は、札幌から車で約1時間の内陸部に位置し、北海道では有数の豪雪地帯。米どころとして知られ、グリーンアスパラガスの生産も盛んです。JAびばいでは、現在38戸の生産者が栽培し、4月上旬から9月中旬まで出荷しています。
『雪蔵美人』は、収穫後に雪の冷気を活用した雪蔵で予冷してから、選果・出荷を行うグリーンアスパラガスのブランド。甘くてみずみずしく、食べ応えのある太さが特徴です。札幌や旭川を中心とする道内のスーパーの店頭に並ぶほか、ギフトやふるさと納税の返礼品としても、全国へ届けられています。
 

■安藤さんの1日(4月下旬の一例です)

収穫は朝6時から。
最盛期には夕方にも収穫

安藤さんは17棟のハウスでアスパラガスを栽培しています。収穫作業は朝6時からスタート。奥様の美査子さんと2名のパートさんが手際よく刈り取ったアスパラガスを、安藤さんが集めて選別作業を素早く行います。「伸びすぎると堅くなってしまうので、26cmに育ったらすぐに取らないと。ちょうど軟らかく、甘みもあっておいしいタイミングなんですよ」と安藤さん。選別後、午前のうちに選果場へ持参します。「JAの職員さんが集荷に来てくれるのですが、選果場のスタッフやほかの生産者の顔を見られて声もかけられるので、直接足を運ぶようにしています」と、生産組合長としての責任感をのぞかせます。
春先は1日に約45kgを収穫。最盛期の5月には、1日の収穫量が120kgを超えることもあるそう。「もう少しあたたかくなってくると、1日に10cmも生長するので、夕方にも収穫しないと。アスパラガスの生命力はとても強くて、次の朝までは待ってくれません」
 

アスパラ栽培は、
雪深い2月から

「アスパラガス栽培は、春一番に収穫できるのがうれしいですね。ほかの作物は、みんな秋まで収穫を待たなくちゃいけませんから」と、目を細める安藤さん。例年、美唄では積雪が120cmを超えます。毎年、安藤さんの畑では、まだ雪深い2月中旬の除雪作業からアスパラガス栽培がスタート。アスパラガスの株を傷つけないよう、地面から30cmほど雪を残して除雪し、3月上旬にはハウスを建て始めます。アスパラガスは、早春の日差しと前年に根に蓄えた養分、雪融け水によってすくすくと成長。4月上旬には収穫できるまでになります。今年は例年に比べて積雪が多かったにも関わらず、雪融けが順調だったため、収穫開始の予定を早めたそう。「農家はおてんとさんと話しながらする仕事だからね」と、安藤さんは実感をこめて語ります。
 

毎年、勉強会を開催し
生産者で思いを共有

アスパラガスの生産が盛んな北海道でも、JAびばいのように約半年にわたって収穫している地域は、それほど多くありません。JAびばいでは、春のハウス栽培、初夏の露地栽培、そして盛夏から秋にかけての立茎(りっけい)栽培という3つの栽培方法を組み合わせ、4月から9月まで途切れることなく出荷しています。立茎栽培とは、春の収穫後に一部の茎を伸ばし、光合成で根に養分をたっぷり蓄えた後、夏以降に出てくる新芽を収穫する栽培方法のこと。大きく広がったアスパラガスの枝の間から太陽の光が降り注ぐ様子に、JAびばいでは「こもれび栽培」と名付け、定着しています。安藤さんのように、春のハウス栽培とこもれび栽培を組み合わせたり、露地栽培のみ行ったりと選ぶ栽培方法は生産者によってさまざまです。こうして3期にわたり収穫されるアスパラガスは、すべて雪蔵で予冷してから選果し、出荷しています。また春のハウス栽培は太さとみずみずしさ、露地栽培は味が濃く、こもれび栽培はすっきりとした味わい、それぞれに違ったおいしさがあるのも『雪蔵美人』の魅力です。
 
ふるさと納税の返礼品にも選ばれているように、アスパラガスは地域が誇る農作物。その誇りを守るために、安藤さんがもっとも心を砕くのが、アスパラガスの病気を広めないことです。生産組合では、1株ごとに点検を怠らず、病気のアスパラガスを見つけたら、株ごと掘り起こして処分するよう徹底しているそう。毎年、専門家を招いて講習会を開催し、病気の対処や予防の方法についても情報を共有しています。「雨水を伝って病気が広がることもあります。放っておくと、産地全体がダメになってしまうことも。だからみんなで取り組まなければ」
 

若手とベテランが
手を取り合い守る誇り

安藤さんには、産地全体を守りたいという思いが強くあります。「親に反対されても美唄に戻ってアスパラガス農家を継いだ息子さんもいます。道外から『美唄のアスパラガスを作りたい』と言って新規就農した青年もいます。長年、アスパラガスを作っている人たちも、本当に愛情をこめてやっている。ベテランが若手をサポートして、みんなで頑張っているんですよ」。安藤さんは一時期、作付面積を増やすことも考えたそうですが、思いとどまりました。「広げて目が届かなくなっては、品質も収量も落ちてしまいます。決して手抜きはできませんから」。そう語る安藤さんの表情には、厳しさと誇り高さがあふれていました。
 
収穫したばかりのアスパラガスを手に「これが『雪蔵美人』になるんです。ほら、美人でしょ?」と茶目っ気たっぷりに笑う安藤さんに、おすすめの食べ方を聞きました。「シンプルに茹でてマヨネーズで食べるのもいいし、スライスしてバター炒めにするのも好きですね。太いのは焼くとさらに甘みが増します」と教えてくれました。そして、「全国のみなさんにおいしいグリーンアスパラガスをお届けできるように、頑張らなくちゃ」と力強く語ってくれました。
 

雪エネルギーを
活用する雪蔵とは?

アスパラガスに冠されている『雪蔵美人』とは、JAびばいの選果場内部に設置されている利雪型予冷庫の名前で、収穫されたアスパラガスを冷やすために一時保管する設備です。庫内は雪の冷気だけで室温約2度、湿度約90%を維持。選果前のアスパラガスを一度芯まで冷やすことで、品質劣化を防ぎ、みずみずしさを保持したまま出荷できるそう。豪雪地帯の利点を生かし環境にも配慮する取り組みで、JAびばいでは2005年から導入しています。
 
毎年3月に選果場周辺で50t〜100tの雪をかき集め、鉄製のコンテナ72機に詰め込んで庫内に搬入。夏に二度、市内にある米の施設から雪を補充し、9月頃まで稼働します。低温多湿の環境で水分を逃さず冷やされたアスパラガスは、熟練した選果場スタッフの目と手によって、3Lから2Sまで規格ごとに選別され、長さ24cmに切りそろえられると、その日のうちに出荷。JAびばいでは、2Lサイズを1本38g以上、3Lサイズを1本78g以上の規格に設定してしているため、どっしりとしていて、その分おいしさが存分に楽しめます。太くて甘くてみずみずしいJAびばいの『雪蔵美人』、見つけたらぜひ食べてみてください。