JA道青協とは北海道最大の若手生産者の組織で、全道12地区、約5200人が所属しています。農業経営のための勉強会と生産者同士の交流を柱にしながら、北海道の農畜産物や北海道農業のPR、子どもたちへの食育活動など、消費者に向けて北海道農業の魅力やおいしさを伝える広報活動にも力を入れています。
「酪農畜産班」は、稲作や畑作など生産者の営農内容ごとに設けられた班の一つで、北海道産生乳を使用する加工品メーカーなどに出向き、意見を交換する求評研修を実施するほか、イベント会場などで消費者との交流を図るなど、道内外でさまざまな活動を行っています。
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池田 裕介さん(JA北宗谷)
- 豊富町出身。14年前に酪農家の3代目として就農。2024年に「北海道農協青年部協議会(JA道青協)」の副会長に就任。JA道青協の酪農家で組織される「酪農畜産班」の代表も務める。
北海道農協青年部協議会
「酪農畜産班」とは?
■池田さんの1日(冬期の一例です)
牛の餌やりと搾乳は、
朝5時半と16時の1日2回
池田さんが飼育する乳牛は、およそ130頭。1日2回、毎日朝5時半過ぎと16時過ぎに行う餌やりと搾乳は、365日変わらない大切な仕事です。つなぎ飼いの牛舎で、朝夕それぞれ4時間ほどかけて両親と3人で作業を行います。
「牛舎に入った瞬間から一頭一頭に目が行き届き、健康状態を観察できるのは、つなぎ飼いの強みです。餌やりや搾乳をしながら、牛の顔つきや食べ方、ふんの状態などを日々チェックします。特に出産後は体調を崩しやすいので、少しの変化を見逃さないように心がけています」。一方で、池田さんはJA道青協の活動で札幌や東京など遠方に出かけることも多く、「作業ができない日は、必ず酪農ヘルパーさんに依頼して両親に負担がかからないようにしています」と付け加えます。
池田さんの牧場では、約80haで牧草などの飼料も栽培しています。そのため、日中の作業は季節によって内容が大きく異なるそうです。
「畑作業がない冬の間は、家の中で子どもと遊んだり、家族と過ごす時間が多いです。夕方の餌やりの時間帯には、子どもと妻がいつも遊びに来てくれます。この仕事は、四六時中家族のそばで働けるのも魅力です」
酪農を続けるために、
TMRセンターを2023年設立
池田さんが酪農を営む豊富町は、日本のほぼ最北に位置し、酪農が盛んに行われています。
「この一帯は、夏場に30度を超える日は数少なく、暑さに弱い乳牛の飼育に適しています。それでも乳牛は25度を超えるとストレスを感じてしまうので、ここ数年は毎日のように扇風機を回しています」と池田さんは話します。
池田さんは2023年、近隣の3軒の酪農家で餌づくりのための施設、TMRセンターを設立しました。TMRセンターの主な役割は飼料の供給です。専用の施設で餌をまとめて作ることで品質が安定するほか、飼料となる作物の種まきから収穫までを共同で行うため、繁忙期の各農家の労力負担を軽減できるメリットがあります。
「いつまでも両親に頼りきった経営をしていたら、将来的に酪農を続けられないと思ったことが設立のきっかけです。今日は元気でも明日父が倒れてしまったら、畑の管理さえも難しくなります。TMRセンターに加入すれば、忙しい時には収穫作業をしてくれて、毎日飼料も届けてくれます。その分お金はかかりますが、持続可能な酪農を営むためにも必要な投資だと考えています」
農業の魅力や楽しさを、
生産現場から発信していくことが大切
池田さんに、毎日の仕事の合間を縫ってJA道青協の活動に力を注ぐ理由について尋ねると、「家族で働いているだけでは得られない、気づきを多く得られるからです」という答えが返ってきました。
「酪農は、大げさにいうと牛舎と家の往復だけで成り立ってしまう仕事です。しかし実際に消費者のもとに届くまでには、搾った生乳を運んでくれる人、加工してくれる人、販売してくれる人など、多くの人たちが関わっています。日々の仕事に追われているとつい忘れがちになりますが、生産者は作って終わりではなく、その先を理解して当事者意識を持つことが、消費者の皆さんへの理解醸成にも必要なことだと感じています」
道産の牛乳・乳製品は、バターやチーズはもとより製菓や製パン、飲料など、ありとあらゆる食品の原料としても使用されています。しかし一方で、私たち消費者には牛乳・乳製品が日常生活に欠かせないものであることが、実感として気づきにくい部分もあります。
「バター1kgを作るには、約22kgもの生乳が必要だと知っている人は少ないと思いますし、北海道の生乳のほとんどが加工品に使われているという事実も知られていないと思うんです。だからといって、農家は苦しいというようなマイナスなメッセージを発信するよりも、農業の魅力や楽しさを生産現場から発信していくことが、新規就農者や後継者を増やすためにも大切なことだと思っています」と池田さんは力を込めます。
JA道青協の役員として得た経験を、
若手生産者に還元したい
現在は、学生や一般向けの研修会で講師を務めるなど、北海道農業のPR活動で多忙を極める池田さん。今後はJA道青協の役員として得た知識や経験を、多くの若手生産者に還元していきたいと考えています。
「特に伝えていきたいのは、農業者としてのあり方です。1人1人が経営者でもあるので、まずは自分自身の生活の安定が優先であることは間違いありません。けれども、みんなが利己的になってしまったら、この国の食料生産は立ち行かなくなります。我々が日本の食を支えている、という使命感を若い世代に受け継いでいってほしいという思いを強く抱いています」
昨今の物価高騰で、酪農家も毎日の牛たちの餌料原料代のほか、牛舎にかかる電気代や燃料代の高騰に悩まされています。最後に池田さんは「牛乳・乳製品の価格が上がっていますが、これからも、安全で高品質な生乳を作り続けていくために私たちも努力していきますので、ぜひ北海道産の牛乳・乳製品をお手に取ってもらえたらうれしいです」と語ってくれました。