夏の人気もの、北海道メロン。
「我が子が〈夕張メロン〉を作りたいと言ってくれるように、
ブランドを守り続けたい」
門外不出の種子
まるでリキュールのような芳醇な香りと、果肉が柔らかく、とろけるような滑らか食感─赤肉メロンの代表格といえるのが、皆さんもご存じの〈夕張メロン〉です。2015年に、国の「地理的表示(GI)保護制度」に登録された〈夕張メロン〉は、1960年に新品種の『夕張キング』が誕生して以来、JA夕張市の組合員によって生産されており、品種開発から60年以上もの間、同一品種を作り続けています。
「『夕張キング』の種子は、夕張市外に出たことがありません。JA内の耐火金庫で厳重に保管され、限られた職員しか、その種を見ることができないんです」と説明するのは、JA夕張市経済部、販売生活課長の高橋淳一さん。
「香りが特徴の『スパイシー・カンタロープ』と、抜群の甘みがある『アールス・フェボリット』を掛け合わせてできた『夕張キング』は、一代限りの交配種です。劣性の形質を持ち、日持ちが短く、病気に弱いという特性から、生産者にとっては非常に作りづらい品種といえます。それでも『夕張キング』を絶やさずに作り続けているのは、これ以上ないおいしさを持つからにほかなりません」と同JA管理営農部、営農推進課長の宇羅浩一さんは力を込めます。
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着果から10日ほどの様子。メロンは地面に接するときれいな網目が出ないため、皿にのせるそう
生産者が検査する甘くない検査体制
〈夕張メロン〉の歴史は、厳格な栽培基準と出荷体制を継承してきた歴史でもあります。
「親から子へ技術を受け継ぐというよりも、地域の仲間同士で技術を教え合いながら、産地全体で栽培技術を蓄積してきたことが自分たちの組合の伝統です」
このように話すのは「夕張メロン組合」組合長の武岡宏樹さん。栽培歴28年という武岡さんは、6月〜8月中旬の出荷を目指し、約50棟ものハウスでメロンを栽培しています。昨年の出来について尋ねたところ、「大失敗の年でした」と驚きの答えが返ってきました。
「メロン作りには、日光が欠かせません。昨年は雌花に受粉させて実を着ける大事な時期の5月上旬に1週間も曇りの日が続いてしまい、その後何をしても思うように育ってくれませんでした。どんなに対策を練っても、天気にはどうやっても勝てません」
こうした失敗も、組合のすべての生産者に共有されると武岡さんは言います。メロンは収穫が近づくと、特有の香りを発するそうです。「最終的には、お尻の熟度で収穫を判断します。そのタイミングを見逃さないためには、結局のところ経験を積むしかないと思います」。
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収穫間際の〈夕張メロン〉。最上位の特秀は全体の0.1%程度だといいます。「作ろうと思って作れるものではありません(笑)」と武岡さん
収穫したメロンは、箱詰めされて集荷場に運ばれます。一般的に生産者の作業はここで終了ですが、同組合では、生産者が検査員を兼任し、基準に沿って、人の目で検査しています。
「検査員は、JAと生産組織で構成された選考委員会が全生産者の中から適性を見極めて選出しています」と宇羅さん。「検査員に任命されることは、生産者にとって栄誉です。生産者自らが検査をすることで見る目が養われ、栽培技術の向上にもつながっていると感じます」と武岡さんは笑顔を見せます。「検査基準は昔から変わらず、甘くはありません。その年の出来がどうであれ、検査を甘くすることも決してありません」と宇羅さんは付け加えます。
最後に武岡さんは「自分の子どもたちが“〈夕張メロン〉を作りたい!”と言いたくなるように、若い生産者にブランドの価値とその重みも継承していくことが大切です。この先も産地一丸となって100年続くブランドに育てていきたいです」と語りました。
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左から宇羅浩一さん、武岡宏樹さん、高橋淳一さん。生産者とJAが一体となって、ブランドを継承しています
- 『夕張メロン』生産者 武岡 宏樹さん[ JA夕張市 ]
1975年夕張市生まれ。94年に三代目として就農。現在は生食用メロンをメインに、加工用メロン、ミニトマトを栽培。2019年に「夕張メロン組合」の組合長に就任。検査員を束ねる検査長も務める。