「にくのくに北海道」の和牛。
「大切に育てた『十勝和牛』に、金メダルをあげたいです」


繁殖から出荷まで一貫して生産
「十勝といえば、農作物や酪農のイメージが定着していますが、和牛の生産も盛んで、『十勝和牛』という名前で、全国で販売されています」。帯広市の隣町、音更町の和牛生産者、山川克之さんはこのように話します。
『十勝和牛』は、北海道で生まれ十勝管内で肥育された黒毛和種で、十勝の和牛生産者の組織である「十勝和牛振興協議会」の会員(461戸※)が肥育し、主にホクレン十勝枝肉市場に上場した和牛に付けられる呼称です。2011年には特許庁の地域ブランド(地域団体商標)の登録を果たしました。
さらに山川さんが所属する「音更町和牛生産改良組合肥育部会」では、配合飼料の統一化にも取り組んでいます。「餌が変わると管理の仕方も変わるので、餌を統一化した当初は思うように肥育できず、苦労したこともありました。会員一人一人が技術を磨いたことで、肉質が向上し、品質の安定にもつながりました」。
和牛の生産者は大きく分けて二つあります。子牛を10カ月ほど育て、素牛として主に道外に出荷する繁殖生産者と、さらに20カ月を要して出荷する肥育生産者です。和牛は成長過程において、複数の生産者を介するのが一般的ですが、山川さんは、繁殖から出荷まで一貫して生産する肥育生産者で、現在130頭ほどの黒毛和種を一人で飼養しています。
和牛には骨格ができ上がる時期、筋肉がつく時期、サシが入る時期など、月齢によって発達が盛んになる部分が異なるため、山川さんは、発育生理にあわせた育て方を心がけているそうです。朝夕の給餌の際には、食べ方や動き方など一頭一頭をつぶさに観察します。
「子牛から成牛になるまで、どの期間も手は抜けません。一貫生産は、とても手間がかかりますが、自分の満足がいくように育てられるのが魅力ですし、愛情もひとしおです」
黒毛和種は、雄牛だけではなく雌牛にも立派な角が生えます。多くの肥育生産者は、牛同士が傷つけあうことを防ぐため、子牛のうちに角を切る〝除角〟を行います。しかし山川さんは、角を切らずに肥育するのがこだわりだといいます。
「牛同士の相性をしっかりと見極めれば、ケンカは防げます。加えて、大きな音を出さない、注意をする時は怒鳴らないなど、普段から牛にストレスを与えないように気をつけています」
※2022年4月現在
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山川さんによると、和牛は口が大きく、鼻先が短いほうが大きく育ち、サシがしっかり入るそう。「36年続けていても、技術はまだまだ勉強中です。和牛は管理を怠ると、必ず肉質に出ます」と山川さん
和牛の五輪で日本一を目指す
2022年10月、5年に1度開かれる国内最大の和牛品評会「第12回全国和牛能力共進会(全共)」が鹿児島県で開催されました。大会には各地の最終選考を勝ち抜いた、41道府県の約440頭が参加。北海道代表の22頭のうち、十勝管内からは山川さんの2頭を含む、過去最多の19頭が出場しました。「最大の難関だったのが、会場までの移動です。牛たちが体調を崩さないように事前に計画を練り、約2500キロを4日ほどかけて、慎重に運びました」。
競技種目は、牛の姿や形を審査する「種牛の部」と、肥育牛の肉質を審査する「肉牛の部」の二つ。山川さんは「肉牛の部」に出場し、見事入賞を果たしました。
「生産者にとって全共は、〝和牛の五輪〟のようなものです。牛を育てているからには、日本一を目指したいと強く思います。成績がついてくるとやりがいを感じますし、好成績を収めれば『十勝和牛』のブランド力も上がります」
次の大会は2027年。北海道での開催が決まり、山川さんは並々ならぬ意欲を燃やします。
「出場できる牛を育てるまで3年近くかかるので、あまり時間はありません。日本一の和牛の称号を北海道にもたらすためにも、生産者みんなでレベルアップしていきたいと思っています」
早くも視線は5年後を見据えています。
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生まれて3カ月以内の牛は、免疫力が低いため、餌と体調管理には細心の注意を払います
- 『十勝和牛』生産者 山川 克之さん[ JAおとふけ ]
1964年音更町生まれ。会社員を経て、22歳で二代目として就農。現在は和牛のほか、小麦、てん菜、豆類、にんじんを生産。「音更町和牛生産改良組合肥育部会」「十勝和牛振興協議会」などに所属。