夏こそ食べたい! 北海道産トマト。
「トマトのわがままを聞いて、大きく、甘く育てています」


桃太郎トマトの一大産地
北海道の大玉トマトの産地でトップを走るのが、平取町と日高町にまたがるJAびらとり。1972年に、6戸の生産者が栽培を始めてから、半世紀にわたり生産量と作付面積で全道一の産地を築いてきました。
91年には作付品種を良食味品種の『桃太郎』系に統一。「桃太郎に特化した理由はいろいろありますが、一番の決め手はおいしさです。桃太郎シリーズは、現在20以上ラインナップされており、次々と新品種が開発されています。新たに作付品種を選定する際には、必ず食味試験を行っています」と松原さんは説明します。
2012年に〈びらとりトマト〉として地域団体商標を登録。〈びらとりトマト〉の糖度の平均は、5.5度と甘みに富み、実が締まっていて日持ちが良いという特徴を持ちます。さらに、選果場で一つひとつ糖度を測定し、糖度が4度以下のものは出荷しないなど独自の基準を設けて、ブランドを強化してきました。
「桃太郎は青いうちから糖度がのり、甘みだけでなく酸味もしっかり感じられるのが魅力です。多少作りづらくても〝おいしいなら、作ってみよう!〟という思いこそが、私たちの活動の原点です」
22年は、148戸の生産者が、約1万1500tものトマトを出荷。出荷先の8割が北海道外で、主に関東・関西方面で販売されています。
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出荷規格は3L〜2Sまで。〈びらとりトマト〉は〈ニシパの恋人〉というブランドでも流通しています
安全策を強化して信頼に応える
松原さんは、就農以来30年近くトマトを生産し、今シーズンは45棟のハウスで栽培しています。収穫期間は、例年5月中旬から11月中旬まで。約9000本もの苗を、収穫時期をずらしながら育てていきます。トマトは、一般的に温度や水やりなど管理の仕方によって大きさや味が左右されるため、管理作業にとても神経を使います。気温が氷点下に下がる冬の育苗期や、収穫の終盤を迎える11月にはハウス内を加温して、半年以上に及ぶ長期的な出荷を可能にしています。
栽培面積が大きければ大きいほど、その労力は大変なもの。松原さんは「トマトは、とにかくわがままなんですよ!」と笑います。
「おいしくて、形のいいトマトを作るには日照量が不可欠です。お日さまに当たらないとうまく育ちませんが、だからといって日差しが強過ぎても、実割れが発生しやすくなります。それから、水やりが足りないと実が腐ったように黒くなる『尻腐れ病』になりやすく、逆にやり過ぎると果肉が水っぽくなり、食味が落ちてしまいます。全然思い通りに育ってくれず、面倒臭い作物なんですが、そこが面白いんです(笑)」
松原さんは、シーズン中の天候や生育状況を部会員と定期的に共有し、異常が見られると話し合いを重ねて、対応策を講じています。たとえば昨シーズンは、高温や日差しの強さで、トマトにストレスがかかる日が多かったため、ハウス内に設置する遮光・遮熱カーテンの導入をすぐに決めたそう。
「おいしくて、品質がいいと〈びらとりトマト〉に寄せられる信頼に応えるために、安全策を常に強化して、品質の維持に努めています」
同部会では、肉牛やサラブレッドの飼育が盛んな土地柄を生かし、近隣から手に入れた牛や馬のふんを堆肥に活用するなど、地域循環型の栽培にも力を入れています。
「毎年収穫後には、日光で土壌を発酵させて病原菌を死滅させる還元消毒を行っています。このほかにも、畑に植えた植物を肥料にする緑肥も併用して、薬剤に頼らない栽培に取り組んでいます」と松原さん。〈びらとりトマト〉は、愛情をたっぷり注がれて、まるまると健やかに育っています。
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熱気や湿気を逃す天窓付きのハウスは、JAびらとりならでは
- 『大玉トマト』生産者
松原 邦彦さん[JAびらとり] 平取町出身。農業系の専門学校へ進学後、20歳で就農。大玉トマトのほか米を栽培。2021年に「びらとり野菜生産振興会トマト・胡瓜部会」の部会長に就任。