「もっといい米を作れるよう、毎年進化していきたいです」


「ゆめぴりかの匠」 清水 和之さん [JAあさひかわ]
旭川市出身。1998年に農家の四代目として就農。現在は米約14haのほか、黒大豆、そばを栽培。
強い苗を育てる匠の〝スパルタ栽培〟
「ゆめぴりか良質米生産出荷表彰」の優秀表彰を5年連続受賞した生産者が対象となる「ゆめぴりかの匠」は、毎年異なる気象条件下においても、常においしい米を作ることができる、良品質米の生産者の最高位とも言える称号です。清水和之さんは、その匠の称号を2015年から現在まで保持し続けている道内でも数少ない匠の中の匠。その秘けつについて尋ねると、清水さんは照れくさそうに答えました。
「カッコつけているように聞こえるかもしれませんが、もうけることを第一に考えないということかもしれません。食べる人のためにいい米を作りたい、ただそれだけです」
『ゆめぴりか』の栽培当初は、匠といえども失敗続きだったそう。清水さんは、試行錯誤の日々を数年間過ごしたと言います。
「一年目はビギナーズラックでいい米が作れたんです。けれども翌年からはまったくうまく作れませんでした。そこで、専門誌や論文を読み込んで研究し、周りの人が取り組んでいない技術でも、いい米が作れるならと、可能な限りチャレンジしました」
そうしてたどり着いたのが、苗にストレスをかけて強く育てる〝スパルタ栽培〟です。育苗中の苗を専用のローラーで踏み倒す「苗踏み」もその一つ。清水さんによると、茎が太くなり、強風でも倒れにくい強い稲に育つと言います。
「苗踏みを始めてから表彰されるようになったので、苗をいじめたほうがいい米ができることを実感しました。一般的に米作りは苗半作とよく言われますが、私の場合は苗8割です。いい米ができるかどうかは、田んぼの植え付け前にほぼ決まると思っています」
加えて、育苗中の温度管理も甘やかさないのが清水さん流。「『ゆめぴりか』の苗は、意外と寒さに強いんです。霜が降りて苗が変色しても数日で元に戻ります。ただし高温には弱いので、ハウスの開閉などには気を使っています」。
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取材当日は『ゆめぴりか』の花がちらほらと開花していました。
品質と環境にいい米作りを追求
清水さんは、『ゆめぴりか』を作付している田んぼを指差し、「ここは、『ゆめぴりか』を作るのに最適な条件がそろっている超一等地なんです」と説明します。「地力もあり、水はけが抜群にいいんです。だからこそ、最高においしい『ゆめぴりか』を作ろうと思ったんです」。
苗の定植後は観察を欠かさず、一日3回は田んぼを見回る清水さん。生産する米の大半を減農薬で管理しているため、雑草取りには苦労するそうです。「それでも米作りは好きでやっている趣味みたいなものなので、辛いと思ったことはないんです」と清水さんは笑顔を見せます。
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「優秀表彰」を受けた人に贈られる金のマグネット。清水さんは8枚も所有しており、圧巻の技術力を証明
おいしい米作りと並行して取り組んでいるのが、田んぼで発生する温室効果ガスを減らすための作業です。「北海道米の新たなブランド形成協議会」では、2022年から環境負荷軽減のため、収穫後の稲わらの搬出、または秋すき込み処理の励行を『ゆめぴりか』生産・出荷基準に明記しています。「すき込み」とは、稲わらと土を混ぜ込み、微生物による分解を促す作業のこと。温室効果ガスの一つであるメタンの発生を抑えることができます。清水さんは、以前から秋すき込みを実践していたそうで、「地域の先輩の真似をして始めたのがきっかけです。当時は、環境にも良いことをしているとは思いもよりませんでした」と説明します。
昨年から栽培方法を見直して、コストや労力の軽減にも取り組んでいるという清水さん。「これまでに、『ゆめぴりか』をうまく作れたと思う年は一度もありません。いい米の作り方は、何万通りもあるはずで、私は毎年進化したいと思っています」と話しました。
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秋すき込みの様子。乾いた田んぼで行うとメタンガスの発生を抑えられます ※写真はイメージです