[ 特別鼎談 ]
北海道農業
未来への思いと取り組み
生産者で、JA北海道女性協議会(以下、JA道女性協)の会長を務める中川苗保子さん、北海道農協青年部協議会(以下、JA道青協)の会長を務める遠藤洋志さんと、生活者の代表として、TEAM NACSのリーダーでタレントの森崎博之さんに、北海道農業の未来について語り合っていただきました。
SESSION1:
北海道農業の変化について
農業の技術革新で働き方が多様化
森崎 僕は2008年にスタートした北海道農業がテーマのテレビ番組『あぐり王国北海道NEXT』(2016年4月より現タイトル)の出演を通して生産現場を取材して、この15年間で700以上の農畜産物を紹介してきました。同じ地域を訪れるたびに、新しい作物や品種が増えていて、北海道農業は常に変わり続けていますね。
中川 私は結婚と同時に就農して約40年になります。当初はじゃがいもを手で拾い収穫していました。今は大型機械のおかげで、約45haをパートさん2名と作業しています。
森崎 手で拾っての収穫は大変でしたね。何日もかけて行うんですよね。
中川 その頃は、20人で10日以上はかかっていたので、大幅に作業量は減りました。ただ、作業日誌といって農薬や肥料の散布量などを毎日記録したり、安全安心の制度について学ぶことは増えました。
森崎 一方で、農業の担い手の生産者さんの減少について、遠藤会長はどのように感じていますか。
遠藤 高齢化以上に、若い農業従事者が増えないことが問題です。それと比例して、僕が就農してから25年間で、機械は格段に進化しています。ICT技術を駆使したトラクターなどは農業の新たな魅力につながっていると感じます。僕はまた、生産者を支援する人材派遣業とコントラクター(農作業受託組織)業も営んでいます。牧草収穫などを請け負うことは重労働の削減になるので、離農年齢を引き延ばすことにつながります。
森崎 人材派遣業は、どんな思いで始められたんですか。
遠藤 僕は地元が大好きなんです。周囲から「どっかに人いねえか?」とよく言われていたのがきっかけで、人材不足を解消するために起業しました。農業は家族経営が多いので、そこを守っていきたいという思いがあります。
食と生産者を守る強固な農業基盤を
森崎 コロナ禍では、生乳余りの問題が取り沙汰された一方で、消費者の支援の輪が広がったのが印象的でした。みんなの力で未来を変えられると、強く感じました。
遠藤 皆さんの行動には、感謝しかありません。当時食品の輸入量が減った時は、日本は島国だと改めて痛感させられました。これを教訓に、国内の農業基盤を強固にしなければいけないと思いましたし、僕たちは、さらに安全で安心な農畜産物を生産していかなければと思いを新たにしました。
森崎 何を選ぶかはその人それぞれですが、やはり北海道産、国産を食べましょうと言いたいですね。中川会長は、国際情勢の影響での物価高騰を、農業経営で実感することはありますか。
中川 燃料や肥料など、あらゆるものが値上がりしていますが、実は作物の出荷代はそれほど上がっていません。国を守る農業が、二の次にされている気がします。例えば店頭で、大根1本250円という価格を見ると、なぜ出荷代はここまで増額されていないのに、こんなに値上げになるんだと、やるせない気持ちになります。一方で一主婦としては、高くても買わないわけにはいかず、私たち生産者の家計にも響いています。
森崎 私たちの食べるものを守るには、生産者さんを守ることが大前提です。農畜産物の適正な価格について理解を深めたいです。
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北海道農協青年部協議会 会長
遠藤 洋志さん/2023年より現職。1998年に農家の五代目として就農。中標津町で、乳牛約100頭規模の酪農業を営む。
SESSION2:
次代に向けた組織の取り組み
農業の未来の鍵は女性と食育
森崎 JA道女性協では、女性が活躍する農業に向けてどういったことに取り組んでいますか。
中川 北海道では、経営に関わる女性生産者の割合が多くなく、JAの役員も男性が占めている地域が多いです。女性が経営に積極的に参画して、活躍できる場を増やしたいと思っています。
森崎 実際に、女性が活躍しなければ農業はやっていけないです。
中川 そのためには、家族の理解が不可欠なんです。家事や介護に農作業となると、経営にまで手が回らない女性も多くいます。
遠藤 女性はJA内でもすごく重要なんです。消費者目線に立って物事を考えられるのは女性です。男性では気づかないところを女性が気づいて行動することで、男性も一緒にブラッシュアップしていくことができます。
森崎 一方で、消費者の皆さんに向けては、どのような取り組みをされていますか。
中川 子どもたちの食育に力を入れています。コロナ禍などでは、ご飯が食べられていない子どもたちを支援するために、道内のこども食堂に、北海道産のお米とグラニュ糖を寄付しました。ただ、これだけでは「育てる」ところまでいかないので、小学生を対象にした料理教室を計画しているところです。
森崎 それはいいですね!
中川 一緒に料理をしながら、じゃがいもはどうやってできるといった作物の話を聞かせることで、野菜全般を好きになってくれると思うんです。私は子どもたちに、農業の応援団になってもらいたいんです。私たちがつくる農畜産物を好きになってもらえたら、子どもたちの未来も明るいものになると思います。
森崎 応援団をつくる意識は、すごく大事だと思います。農業の応援団長を自負する僕としては、フィールドにいる生産者さんを、食べる人みんながスタンドを埋めつくして応援してくれる景色が理想です。その中から将来農業をやりたいという子がきっと出てきます。だからこそ僕たちは、子どもたちが「農業って幸せな仕事なんだ!」と思ってもらうようなポジティブな言葉を、積極的に発信していきたいですね。
遠藤 僕は、小学生が農場見学に来た時に「この畑は、みんなからの借り物です」と話します。なぜかというと、将来的には子どもたちの畑になるものだから、僕らはいいものをつくって、責任を持って子どもたちに返したいという思いがあるんです。
生産者の連携で苦境を乗り切る
森崎 両会長のお話を聞いていて、子どもたちへの思いと取り組みがキラキラしていて、すごくうれしくなりました。遠藤会長、JA道青協の仲間が心を一つにすると、どんなことが実現できそうですか。
遠藤 いっぱいあると思いますが、約5600人の盟友が一つになったら、どんな苦境に立たされても、前向きに変えることができると思うんです。JA道青協って、楽しい組織なんですよね。僕は酪農ですが、畑のことも米のことも知ることができるので、新しい学びが増えますし、盟友一人ひとりの農業への思いにすごく刺激を受けています。だからこそ農業やJA道青協の魅力を高められる活動をしていきたいです。
森崎 互いに支え合おうという生産者の連携は、素晴らしいですし、〝盟友〟という言葉がすごく印象に残りますね。周りはライバルではなく仲間というのがすごく美しいです。敵はどちらかというと自然災害や物価高。仲間と一丸となって難局を乗り越えようという力を感じますね。
遠藤 大変な時だからこそ一筋の光を見つけ出す活動をしていくのがJA道青協です。いい時も悪い時も、より良いほうを向く組織でありたいです。
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JA北海道女性協議会 会長
中川 苗保子さん/2021年より現職。長沼町で、約30haで畑作を行う。馬鈴しょ、大豆の種子農家でもある。
SESSION3:
北海道農業が描く明るい未来
次の世代に引き継ぎたいのは農業の楽しさ
森崎 中川会長は、北海道農業の未来をどのように思い描いていますか。
中川 近年、新規就農する女性が増えていて、とてもうれしいです。さらに、私たちがつくる農畜産物の価値を多くの人に認めてもらえたら、今後日本の食料自給率が上がり、私たち生産者のやりがいも増えていくのではないかと思っています。
森崎 女性の活躍の場が増えることで、生産者と消費者のつながりが深まったり、農業を始めようという女性がさらに増えるといいですよね。
遠藤 農業全体が明るくなるためには、一軒の農家が明るいだけじゃダメなんです。JA道青協では、北海道12地区の代表がインスタグラムやフェイスブックで北海道農業の魅力を発信しています。僕自身は、北海道農業を楽しくして、次世代に農業の楽しさも引き継いでいきたいですね。
森崎 JA道女性協、JA道青協の力強い皆さんがいれば、北海道農業の未来は安心ですね。
遠藤 それは本当に約束できます。私たちが、品質が良くて安全な農畜産物を生産できるのは、北海道だからだという強い気持ちで農業に取り組んでいます。消費者の皆さんには、「北海道が日本の農業を守るから、安心して北海道産を買ってください」と自信を持って言えます。
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GREEN読者代表
森崎 博之さん/演劇ユニット「TEAM NACS」リーダー。北海道の農業番組「あぐり王国北海道NEXT」(HBC)に出演中。2020年3月から、ホクレンアンバサダーに就任し、北海道農業の素晴らしさを発信している。