10月26日・27日に、北陸3県(石川県・富山県・福井県)で「第73回日本学校農業クラブ全国大会」が開催されました。“農業高校の甲子園”と呼ばれるこの大会の意見発表会で、森本さんは分野Ⅰ類で最優秀賞及び農林水産大臣賞を、多田さんは分野Ⅱ類で優秀賞を受賞しました。おめでとうございます。さっそくですが、お二人の発表内容とその背景について教えてください。
はい。私の発表のタイトルは、「『Twin row』との出合い~農業後継者としての決意~」です。私の家は士幌町で代々農業を営んでいますが、私は農業に興味がありませんでした。一方で、父は経営者としていろいろなことに挑戦しています。その父がある時、「俺は俺の10年しか考えていないから」と言ったんです。この言葉の意味を自分なりに受け止め、進む道を決めるために、帯広農業高校に進学しました。
帯広農業高校での学びは面白かったですか。
1年次から授業とは別に朝夕の実習が設けられていて、作物の成長に置いて行かれないように必死で作業を覚えました。そして、2年次の授業で新たな大豆の播種方法「Twin row」と出合いました。作物は、決まった畝間(うねま)と株間で植えられるのが一般的ですが、「Twin row」はその従来の播種方法とは異なる新たな技術で、この方法なら収量の増加が見込める、自分の家でも活用できると感じたことをきっかけに、将来、仕事として農業で生きていく決意ができたことを発表しました。
「Twin row」は、栽培方法が確立されているのですか。
まだ、これからです。私は大学との共同研究を通じて、調査やデータ解析など基礎的知識や技術を学んできました。今後は、成長解析、収量に関する確実なデータベースの作成が必要になります。高校卒業後は、農業後継者となり、これまでの実践を軸に、高校・大学・企業と連携を図って大豆栽培の可能性を切り開き、農業経営に生かしていきたいと思っています。
大豆の生産量が全国トップの北海道で「Twin row」の研究が進むことに期待しています。そして多田さんは、どのような発表を行ったのですか。
私は「酪農は新たなステージへ ~エコフィードの可能性は無限大!~」というタイトルで、エコフィードが農業、環境、地域のさまざまな問題解決に活用できるのではないかという視点から、提案をメインにした発表を行いました。
エコフィードとはどういうものですか?
エコフィードはエコ(環境)とフィード(飼料)を組み合わせた造語です。食品廃棄物を利用して作られた家畜用飼料を指し、濃厚飼料に分類されます。養豚ではエコフィードが利用されていますが、酪農ではそれが確立されていません。食品ロスとして廃棄される食品残渣などから、牛が食べられる植物性のものだけを取り出し、飼料となるよう処理してはどうかと思うのです。
もしかして、多田さんのご実家は酪農業を営んでいるのですか。
はい。道北の士別市で酪農業を営んでいます。そうした環境ですから、小さい頃から動物が好きで、動物に関わる仕事につきたいという夢をかなえるために実家を離れ、帯広農業高校に進学しました。馬が一番好きなので、高校では馬術部にも所属しています(笑)。クラスメートとの交流から酪農の魅力にめざめ、修学旅行や農場視察でエコフィードを知ったことが今回の発表につながりました。放牧ができない冬の北海道でも、エコフィードを活用すれば、低コストで高タンパクな飼料供給が実現でき、乳質改善が期待できますし、酪農家への安価な飼料の提供や飼料自給率を高めることにもつながると思っています。
お二人ともしっかりと学んでいますね。ところで、今回の発表にあたり、お二人は帯広農業高校の大先輩であるホクレンの篠原会長からもアドバイスをもらったそうですね。
はい。「Twin row」に、これからの農業が求められる有機農法や肥料・飼料の自給をどのように組み合わせていけるかも検討していくといいのではと、アドバイスをいただきました。
北海道は食と観光が産業の柱であり、日本は食料自給率を上げていくことが求められている中、生産の現場だけでなく、消費者の理解をどう得ていくかの視点も重要だと、ご意見をいただきました。
そして、お二人とも全国大会で上位入賞を果たしました。いまの心境を聞かせてください。
自分のテーマである「自分らしく堂々と」を実行し、気持ちよく発表できました。その上、農林水産大臣賞をいただけたことはとてもうれしいです。この大会で発表したことを実現できるように、頑張ります!そして、ずっと近くで励まし、応援してくれた松本先生、ありがとうございました!
発表練習をしていただいた先生、応援してくれた同級生や後輩、みんなに感謝しています。ありがとうございました!今までで一番楽しい発表でしたし、一生に一度の良い経験ができました。酪農が抱える問題、持続可能な酪農、北海道の酪農を少しでも多くの人に伝えることができていたならうれしいです。
今日はありがとうございました。今後のご活躍を楽しみにしています。