Vol.11
酪農学園大学
西 航司さん

わたし × 農業

私が農業に恋した理由
北海道の高校、専門学校、短大、
大学では、たくさんの学生さんが
農業を学んでいます。
農業のどんなところが魅力?
学んでみて知った醍醐味は?
好きだけど大変と感じることは?
青春ど真ん中の日々での実感、
将来の夢などを聞いていきます。

酪農学園大学

酪農学園大学 西 航司さん

1933年、北の大地を酪農によって沃土とし、農業・食糧の確立発展を図ろうと創立された「北海道酪農義塾」が前身。「健土健民(健やかな土地から生み出される健やかな食物によって健やかな生命が育まれる)」を理念に、2学群5学類および大学院で実学教育・研究を行っています。

酪農学園大学
069-8501 江別市文京台緑町582番地
https://www.rakuno.ac.jp/
TEL:011-386-1111(代表)

  • 西さん

    西さん

  • GREEN編集室

    GREEN編集室

GREEN編集部 はじめまして。西さんは、酪農学園大学大学院の博士課程3年だそうですね。どのような研究をしているのですか。

西さん 牛に乳房炎、肺炎、関節炎などを引き起こすマイコプラズマという菌を研究しています。この菌に感染すると、抗生物質を投与してもなかなか治らず、命を失くす牛が少なくありません。

GREEN編集部 西さんは、その分野がご専門の先生についているんですね?

西さん ええ、写真の左の方が樋口豪紀教授で、日本を代表するマイコプラズマの専門家です。いつもご指導を賜っております。右の方が権平智助教で、マイコプラズマおよび乳房炎の専門家です。さらに大学内で、獣医生化学・獣医病理学・生産動物外科学の研究室と共同研究を展開しています。

GREEN編集部 マイコプラズマはさまざまな病気を引き起こすということですが、西さんは特定の病気に絞って研究しているのですか。

西さん 主に乳牛の子牛の関節炎をみています。マイコプラズマに感染して発症する関節炎は、激しい炎症反応の末、骨が溶けてしまうことがあり、強い痛みを伴うため、歩くことができなくなります。他の細菌が原因の場合、このような病態はめったに現れません。

GREEN編集部 感染から発症までのメカニズムは解明されているんですか。

西さん まったく研究がなされてなく、治りにくい理由も不明でした。私はこれまでの研究で、関節を構成しているある細胞がマイコプラズマの刺激によって激しい炎症反応を誘導することを明らかにしました。

GREEN編集部 それはすごい!

西さん さらに、マイコプラズマが牛の免疫反応から逃れる能力を持っていることもわかりました。私は、その能力がマイコプラズマによる感染症を治りにくくさせていると考えています。

GREEN編集部 マイコプラズマに感染した場合にのみ現れる症状はありますか。

西さん いいえ、症状からマイコプラズマ感染を判断するのは困難です。牛から細胞を取り出して検査を行わないと、判定できません。マイコプラズマに感染したことを早い段階で発見し、治療を行うことができればいいのですが、症状が現れたときには感染から長時間経過していることが多く、治らない症例がほとんどです。さらに、マイコプラズマの怖いところは、感染力が非常に強いところです。

GREEN編集部 それはまた頭が痛い。どの程度の強さなんですか。

西さん 1頭の牛がマイコプラズマに感染すると、1週間で牧場内の他の牛に広がってしまうこともあります。そのため、感染した牛は治療できずに殺してしまうこともあります。

GREEN編集部 酪農家にとっては、致命傷です。

西さん 日本の酪農業にとって、主な収入源は生乳です。その生産量を減らす病気が乳房炎で、被害額は年間約390億円にのぼるといわれています。北海道内の1.3%の牧場にマイコプラズマが潜んでいるという報告があり、マイコプラズマの制圧は急務です。

GREEN編集部 マイコプラズマによる感染症の増減はどうなんですか。

西さん 年々増加傾向にあり、ワクチンなどの開発が求められています。私の研究が少しでも獣医療に役立ち、1頭でも多くの牛の命が救われることを夢見て、研究室で実験を進めてきました。

GREEN編集部 将来はどのような道へ?

西さん 私は、獣医師の父の姿を見て育ったこともあり、高校生の時から牛の命を救う仕事をするのが夢でしたので、北海道で牛の臨床獣医師になろうと考えています。また、研究者として問題解決にも従事したいと考えています。そのためにも、畜産現場で何が問題となっているのか、獣医師として何を解決しなければならないのか、しっかりと自分の目で見つけ出そうと思います。

GREEN編集部 臨床と研究の二足のわらじで、これからも北海道の酪農の現場をサポートしてください。よろしくお願いいたします。