Vol.45
安定より挑戦を続けるチーズ
~ニセコチーズ工房~

白い滴のマリアージュ

今回のテーマ

安定より挑戦を続けるチーズ
~ニセコチーズ工房~

アイヌ語で「切り立った崖」を意味する「ニセコ」が町名となったニセコ町。スキーなどウインターリゾートを謳歌できる町として知られ、世界から多くの人が訪れている。
2006年、近藤孝志さんが設立した「ニセコチーズ工房」。いまチーズ製造を担うのが、息子の裕志さん。最初から「チーズ職人になりたい!」というわけではなく、父が第二の人生として踏み出したチーズの道が、「なんだか面白そうだな」と思うようになったところから、もともと勉強熱心な裕志さんの探求心に火が付いた。
裕志さんは、意欲的にチーズ製造の研修会に参加し、わからないことは積極的にそのタイプのチーズの先達に連絡して質問した。研修会で習ったチーズはすぐに自分で試作し、次の研修会に「こんな感じでできあがりましたが、どうでしょうか」と持っていき、「もう理解して、やってみたのか」と先生を驚かせたこともあったという。

努力の積み重ねの末に生まれたブルーチーズの「空【ku:】」は、2年に一度行われる国産チーズのコンテストで、部門最高賞を3回連続で受賞。アイデア満載のデザートタイプのチーズ「雪花【sekka】」は、メディアでも頻繁に取り上げられ、北海道チーズに興味を持ってもらうよいきっかけになっている。
ゴーダ、ミモレットなどの熟成タイプのチーズも、国内での受賞にとどまらず、海外のコンテストにおいても、最高クラスの賞を受賞するまでに至っている。
ある程度の評価を得たら、同じ製法、同じ乳酸菌、同じ熟成期間で、同じ品質のチーズを守ろうとすることが多いのではないだろうか。
しかし、裕志さんは、受賞の座の安定にとどまらず、「もっとよいものができる」と常に挑戦を続けている。
裕志さんのつくるチーズは、作り始める際にイメージするヨーロッパのチーズがあったとしても、工夫に工夫を重ね、面影がどこにもないくらい、オリジナリティを感じられる仕上がりになっているものが多いように思う。

私は、日々、ニセコチーズ工房から届く大型のチーズを切り出している。切りながら、その香り、断面などを確かめ、かけらを口にして、いつもと違うことを感じると、「なにか作り方変えた?」と裕志さんに聞く。すると、「実は先日、ちょっと面白そうな菌が手に入ったので変えました」とか「熟成庫の温度を変えてみました」という返事が返ってくる。「こうやった方がうまくいくと思ったので!」と。
地位に固執し、安定を求めるのではなく、常に好奇心と向上心をもって挑戦するチーズ。
きっと、裕志さんが目指す山の頂は、日々高くなっていくのだろう。
そこから見る景色を一緒に見たいと思う。

チーズの紹介:
空【ku:】
穏やかで爽やかさを感じる青カビタイプのチーズ。セミハードのような食感、ナッツのような香り、食べたあとにも残るダシのようなうまみが特徴だ。このブルーチーズによって、「ブルーチーズの概念が変わった」、「このブルーなら食べられる」という人も多い。ペンネ等の料理や、溶かしてラクレットやフォンデュにも。日本酒とあわせてもよい。
 
< ニセコチーズ工房 >
〒048-1542 北海道虻田郡ニセコ町字近藤425番地6
https://www.niseko-cheese.co.jp/