北海道とつくるおいしさ[11]
サザエ食品(株)

はるばる来たぜ、食卓へはるばる来たぜ、食卓へ

北海道とつくるおいしさ11

どの土地にも、長い間親しまれているソウルフードがあります。北海道にも数々ありますが、「サザエの十勝おはぎ」もその一つです。サザエとは、北海道内62店舗を展開するサザエ食品(株)を道民が親しみを込めて呼ぶ愛称で、十勝おはぎは十勝産小豆と北海道産もち米でつくる看板商品。お母さんが握ったような優しさ、ふるさとに帰ったようなやすらぎを感じる味わいは、どのようにして生まれるのか。北海道で生まれ育った同社の誠実なものづくりと共に、北海道の恵みへのこだわりを聞きました。

函館朝市の食堂「サザエ」から

1957年、JR函館駅のすぐ横に広がる函館朝市に、創業者・野村とみさんが小さな食堂「サザエ」を開いたのが同社の始まりです。サザエの母さんと呼ばれ、頼りにされていたとみさんは、従業員や子どものおやつとして、おはぎをつくっていました。あんは小豆と砂糖、塩だけで作り、毎日2俵のもち米を炊き、ひとつひとつ握ったおはぎは、大人のゲンコツほどの大きさ。「おいしそうだなぁ」と目を留めたお客さんにお裾分けをしているうちに評判が広がり、試しに朝市の中で販売すると、あっという間に売り切れに。いつしか、「サザエ」は食堂からおはぎのお店となり、66年の札幌進出以降、各地に店を構えるようになりました。

手づくりと、“サザエの味”へのこだわり

「当社では、おやき・たい焼き、菓子、おにぎり・寿司などもつくっていますが、屋台骨は十勝おはぎで、年間約230万個を販売しています」と話すのは営業部の渡辺勉担当部長(写真中央)。「従業員の間では、おはぎは手づくりするものというこだわりが根強く、機械を導入したのは7年ほど前。それまでは、お彼岸の時期には従業員総出で一日中おはぎをつくっていました」とは経営管理部の藤井崇次長(写真左)。経営管理部の中川礼子係長(写真右)は、「味もほぼ変えていません。時代と共に変えていくべきかもしれませんが、リピートしてくださる多くのお客様が“サザエの味”を求めていると考えると、大幅には手を入れられません」と続けます。

十勝産小豆100%と、十勝の水と職人と

十勝おはぎは、十勝産小豆を100%使用しています。これまで他の産地の小豆を使ったことは一度もなく、品薄になった時も苦労して調達するほど、その高い品質に満足し、信頼を寄せています。十勝産小豆は1987年に同社が十勝・池田町に設けた製餡工場に運びこまれ、“サザエのあん”になります。工場の熟練した職人たちは、気候や畑によって毎年出来が異なる小豆の性質を見極め、清流日本一に輝いたことがある日高山脈・札内岳を源とする札内川の水を使って、あんを製造しています。

小豆のうまみを得る技術を人から人へ

製餡工程は4つに分かれます。まず小豆を洗い、細かなゴミなどを除去します。次に、釜で小豆を煮ていきます。小豆に含まれる水分量によって煮え具合が異なるため、釜から小豆をすくっては指先で硬さを確かめることを繰り返します。煮上がったところで砂糖と塩を加え、釜ごとに糖度を測り、水分量も見極め、絶妙なタイミングで火を止めます。最後に釜の中のあんを撹拌し、袋に詰めて冷蔵、熟成させます。「小豆のアクを抜き、うまみを得るための技術はもちろん、長い経験を持つ職人だけが知る勘所も人から人へつないでいます」と藤井次長は言葉を添えます。

やわらかさが長持ちして、粘りが程よい

十勝おはぎは、あんが十勝産小豆100%なら、もち米は北海道産100%です。「北海道には、もち米の田にうるち米が混入することを防ぐために、もち米だけを栽培している地域があります。うるち米が混入すると、加工の際に品質が劣化することがあるのですが、北海道産もち米にはその心配がなく、安心して使えます」と渡辺担当部長。さらに中川係長は、「北海道産はやわらかさが長持ちして、粘りが程よいんです。そこから生まれる食感と食べ飽きない味があっての十勝おはぎですから、北海道産もち米100%は譲れません」と熱を込めて語ります。

塩味が強め、2個目に手が伸びる甘さ

十勝おはぎには、道外で暮らす道産子や北海道で暮らしたことのある方など、全国に根強いファンがいます。「甘さを控えめにというご要望が寄せられることもありますが、糖度を下げると豆の匂いが強くなり過ぎます。この甘さも含めて、変わらないおいしさを大切にしたい」と中川係長。また藤井次長は、「十勝おはぎのあんは、塩味が強めなところも特徴です。単純な甘さではないので、2個目に自然と手が伸びる。だから、おやつに限らず、主食にもなります」と補足します。2代、3代にわたるお客さまも多い十勝おはぎ。遠方の方の間では、オンラインショップが好評です。

学校給食用「ぜんざい」にはビート糖使用

昨年から同社では、ホクレンが北海道の小中学校の学校給食に無償提供するオリジナルデザートも製造しています。この取り組みは、てん菜糖の消費拡大と、子どもたちに北海道の農業・農産物について知ってもらい興味を持ってもらうため、国の対策事業を活用し、道農政部や道教育庁と連携して実施しているものです。昨年は「あずきゼリー」、今年はビートグラニュ糖と小豆を使った「ぜんざい」を届けています。渡辺担当部長は、この取り組みに協力する意義などをこう説明します。「このぜんざいには、さっぱりした甘さに仕上がるビート糖を使いました。小豆同様、ビート糖の原料であるてん菜も、生産量は北海道が日本一です。これを機会に、子どもたちに洋菓子とは異なる和菓子ならではのおいしさを伝えたいですし、北海道の農業や地産地消に関心を寄せる食育にもつながればうれしいです」。

北海道産と共に“記憶に残るおいしさ”を

「サザエ食品には突飛なものはないけれど、ごはん、おやつ、おみやげまで、どれひとつとしてはずれがない。これは、あるお客さまの言葉です。とても励みになり、忘れることができません」。中川係長がこう語るエピソードからは、同社とお客さまが長年気持ちを通わせてきたことが伝わってきます。「これからも、支えてくださるお客さまに誠実に向き合い、北海道産の恵みと共に“記憶に残るおいしさ”をお届けし続けていきます」と渡辺担当部長。社内では、北海道産の原材料に徹底的にこだわった究極の一品を作ろうという機運も高まっているそうです。新しい“サザエの味”の登場がいまから楽しみです。

北海道の生産者から北海道のつくる人へ、
そして、全国の食べる人へ。このリレーは、おいしさだけでなく、
ふだんのしあわせも運んでいることを改めて感じました。

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