北海道とつくるおいしさ[09]
西山製麺(株)

はるばる来たぜ、食卓へはるばる来たぜ、食卓へ

北海道産小麦とラーメンの おいしさを世界へ。

全国にご当地ラーメンがあり、さまざまな主張を持ったラーメンが登場するなど、ラーメンは、いまや日本の国民食。その中でも、札幌ラーメンの人気は不動です。今回は終戦直後の屋台から始まった札幌ラーメンと共に歴史を刻んできた西山製麺(株)を訪ねました。店主らの声に耳を傾けながら麺を作り、札幌ラーメンを食文化として育て、支えてきた同社。北海道産小麦の活用が麺のおいしさをさらに広げ、海外戦略の背中を押している様子を聞きました。

札幌ラーメンの歴史と共に

札幌ラーメンといえば、黄色で、ウエーブのかかった縮れ麺。西山製麺は、65年以上前、この麺を独自の「多加水熟成製法」によって開発しました。創業は1953年。戦後、札幌中心部に並んだラーメン屋台の中でも、繁盛店として知られた「だるま軒」で製麺技術を学んだ西山孝之氏が独立し、起こしました。現在、麺やスープ、食材(チャーシューなど)をはじめ、さまざまな商品を全国3500軒以上のラーメン専門店や量販店、お土産店、個人通販などを通して幅広くお届けしています。もちろん、国内だけでなく海外にも販路を拡大しています。

対話しながらのおいしさづくり

同社が麺づくりで大切にしていることを、西山隆司代表取締役社長に聞きました。「創業当時のラーメン屋台の店主は、大陸から引き揚げて来た方が多く、料理を学んだ経験がない素人ばかり。当社の創業者も頼りにされたそうです。店主たちはお客様や仲間の意見を聞き、それに応えるように喜ばれる一杯を追い求め続けた。そのような対話しながらのおいしさづくりを私たちも受け継ぎ、徹底しているつもりです」。同社では、多様なスープやたれに合う麺を提供しようと、原料の配分や縮れ具合、色、太さ、麺のこね方などに工夫を重ね、ラーメン用だけでも300種類以上を製造しています。

北海道産小麦が約2割

ラーメン用の麺の主原料・小麦粉は、道内の有力製粉会社がブレンドした「西山」専用のものを使用。古くは輸入小麦しか選択肢がありませんでしたが、1980年代初期にうどん用の北海道産小麦「チホクコムギ」が登場。すると、ラーメン店からチホクコムギを使った麺の要望がきたそうです。「この品種はタンパク分が少なく、アシ(※)コシを強くするために苦労しました」と西山社長。その後、新品種が次々生まれ、ラーメン店の品質評価も高かったことから、同社では北海道産小麦の加工技術の研究を加速化。現在は、約2割が北海道産小麦の「きたほなみ」、「ゆめちから」、「春よ恋」です。
※アシ…「のび」のこと

北海道産は、かむほど小麦の味

「北海道産小麦の小麦粉は、味と香りに甘さがあります。また、麺自体に味がありますから、食べ方はざる、つけ麺が合っていると思います」と、西山社長。「北海道小麦は、かめばかむほど味や香りが出やすい」という特徴もあることから、同社では、ラーメンは麺の太さや縮れ、餃子などの皮は厚さをつけることで口の中でかむ回数を増やし、その特徴を最大限に引き出せるように職人の手で調整しています。「北海道産小麦は、性能はいいけれど、乗りこなすにはプロの技術が必要な高級車と同じ。生産者と私たちとの連携が大切です」。西山社長はそのために、定期的に道内各地の生産者と会い、北海道産小麦の使い勝手に関する意見交換も行っているそうです。

ハワイ、香港の北海道物産展に出店

「北海道」、「札幌」は、海外でも早くからブランドとして浸透しています。同社では、1985年頃、ハワイや香港などで開催される北海道物産展に出店し、札幌ラーメンの提供を開始。2000年に入ると、海外から、札幌ラーメン専門店を開業したいという引き合いが増加しました。同社ではこれを機に、実際のラーメン店同様の厨房設備と客席を備えた「プレゼンテーションルーム」を本社に設置。ラーメンづくりが初めての海外の方にも調理指導を行える環境を整えました。さらに、アメリカやドイツ、シンガポールには現地法人を設立し、店舗の運営や業務支援を行っています。

海外向けも、すべて自社工場で作る

海外向け製品では、あっさりしたスープに合うストレート麺、サラダとの相性も良いつけ麺用の麺、札幌ラーメン向けの中太・縮れ麺など、北海道産小麦が原料の製品も含めた約20種類を32の国と地域へ輸出しています。「すべてを自社工場で作り、冷凍し、石狩港から船便で送っています。海外での工場誘致の話があり、札幌の工場で作るのと同じ材料・配分で試作しましたが、うまくいきませんでした。当社では工場の地下約200mから汲み上げる地下水を使っていますので、水の違いじゃないかと。納得のいくおいしさが再現できないうちは、海外では製品は作りません」。

北海道産小麦の評判は海外でも

「おいしいラーメンを作りたい人と会って、話して、求められるいい製品を作りたい」と繰り返す西山社長。海外に現地法人を置き、製品を直接流通させているのも、西山のラーメンを使う人・食べる人の声を聞き続けたいからと力を込めます。「イタリアを視察した時、ラーメンはカルボナーラ味が一番人気と聞き、試しに食べたらおいしかった(笑)。驚きました。振り返れば、札幌の味噌ラーメンも中華そばと味噌汁から生まれたのですから、カルボナーラだってあっていいわけです。現地に足を運ぶと、こうした気づきがたくさんあり、勉強になります」。

北海道産の小麦を使い、
いい麺を作っていきたい

札幌に生まれ、世界で愛されている札幌ラーメン。「北海道という土地、気候、風土をラーメンにさらに吹き込んでいきたい」と西山社長は目標を語ります。「北海道は、アジアの農業の先端を走っています。また、北海道の知名度やブランド力は追い風となって、今後も吹き続けるはずです。国内外に関わらず、ラーメン文化を一緒に作り上げてくださるお客様を増やしていけるよう、今後も社員一丸となって努めていきます」。プレゼンテーションルームに設置されている1950年当時の屋台を背に、頼もしいメッセージをいただきました。
 
麺を売っているのではなく、札幌ラーメンという食文化を作っている。それも、一杯一杯を作る人・食べる人と対話しながら、作り上げている。だからこそ、長い間愛され、世界が喜ぶ味を作れる。
西山社長の言葉は、確信に満ちていました。