山下 考弘さん
(JAむかわ)
竹葉 淳さん
(JAとまこまい広域)
農家の時計

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今回の農家さん

山下 考弘さん (JAむかわ)
苫小牧市出身。2013年からむかわ町内で1年半の農業研修を経て、2代目として祖父母から農業を受け継ぎ、ほうれん草のほか、レタス、かぼちゃ、ブロッコリーなどを栽培。2021年から「鵡川(むかわ)蔬菜(そさい)園芸振興会 ほうれん草部会」で役員を務めています。

竹葉 淳さん (JAとまこまい広域)
滋賀県出身。北海道内の大学で農業を学び、青果卸会社勤務後、農業研修を経て、2008年安平町で新規就農。ほうれん草のほかグリーンアスパラガスやオクラを栽培。「JAとまこまい広域ほうれん草部会」の会長、「東いぶり広域ほうれん草組合」の副組合長を務めています。

JAとまこまい広域とJAむかわの特産品
『東いぶり広域ほうれん草』とは?

北海道の太平洋側に位置する2つのJAでは、約30年前、市場への安定供給を目指して、「東いぶり広域ブランド」を立ち上げました。厚真町、安平町、むかわ町で栽培される『東いぶり広域ほうれん草』はその代表的な農作物で、両JAの生産者が収穫したほうれん草を共同ブランドで出荷しています。毎年、出荷は5月上旬から10月下旬まで。根から葉までの長さや葉の大きさ・形状などによる規格分けで最高基準となったものだけを『東いぶり広域ほうれん草』として、道内外に出荷しています。現在、「東いぶり広域ほうれん草組合」では、88戸(2022年7月時点)が栽培。パリッとした歯ごたえと、みずみずしさ、甘み、そして市場からは鮮度が持続する「棚持ちの良さ」などが高く評価されています。
 

■『東いぶり広域ほうれん草』の栽培スケジュール

夏は水と温度の管理に
気を配りながら栽培

山下考弘さんは、ほぼ一年を通して14棟のハウスでほうれん草を栽培しています。そのうち『東いぶり広域ほうれん草』として出荷するものは、3月中旬に種をまき、5月上旬に最初の収穫を行います。以降、10月下旬まで2~3回、種まきと収穫を繰り返します。ほうれん草の栽培期間は30日~50日。春と秋はゆっくりと育ち、夏は種まきから1カ月ほどで収穫を迎えます。
「一番難しいのが、水と温度の管理です。特に夏場は気を遣います」と山下さん。「ほうれん草は水をやりすぎると根腐れして株そのものが消えてしまうんです。栽培期間中の水やりは2~3回だけ。『ほうれん草の名人』と言われた祖父からは『土の渇きをよく見ろ』と教えられました。1回に与える水の量は、土の渇きや葉の水持ちを見て調整しています」
また、ほうれん草は暑さに弱いため、夏はハウスに遮光シートを被せたり、夜でもハウスを全開にして風通しをよくしたりと、暑さ対策にも気を抜けません。時季によって暑さに強い品種に切り替えるなどしながら、夏を乗り切る工夫をしています。

2つのJAで連携しながら
地域ブランドを守る

2つのJAの生産者が集う「東いぶり広域ほうれん草組合」の副組合長を務める竹葉淳さんは、2008年に就農しました。当時、先輩から薦められたのがほうれん草の栽培でした。「ほうれん草は、一度失敗してもその年のうちに何度かやり直せるので、初心者に向いているんです」と竹葉さん。現在、16棟のハウスでほうれん草を栽培しています。「やり直せるとはいえ、ほうれん草は水やりの加減や暑さ対策など、本当に難しい作物です。だから生産者同士で問題点を出し合って、一緒に解決策を探ることができる環境は、非常に大きな意味があります」
 
「東いぶり広域ほうれん草組合」では、定期的に勉強会を開き、組合員同士の畑を訪問し、新しい技術の情報を共有するなど、所属するJAの垣根を超えて活発な交流を行っています。「仲間と話すことは、一緒に頑張ろうというモチベーションにもつながります」と竹葉さん。「すでに地域ブランドとして確立しているほうれん草を作れるのは、私たち生産者にとっても幸せなこと。夏場のほうれん草は需要もあるので、安定して供給できるように、みんなで連携を取っていきたいですね」と力強く話します。

先人たちが築いた
地域ブランドを次世代へ

祖父の代から続くほうれん草栽培を受け継いだ山下さん。“名人”からの教えについて質問すると、「特別なことは何も」とはにかみます。それでも、生育中のほうれん草が整然と並ぶハウスを眺めながら「大事なことは、雑草を生やさないことかな」と山下さん。「祖父からは、ハウスの中も外も、『とにかくきれいにしておきなさい』とは、かなり言われました。ものすごく細かい雑草まで摘み取っています。虫が寄って来ないのは、そのせいかもしれないですね」と話します。
 
竹葉さんは、「東いぶり広域ほうれん草組合」の副組合長として、「このブランドを守る大切さを、若い生産者にも広めていく役割があります」と話します。さらに「先人たちが築いてきた『東いぶり広域ブランド』は、道内外で高い評価を得ています。そのブランド野菜を作っているんだという思いは大きい。そんな誇りを持って、私のように新規就農を目指す人や、ほかの若い生産者にもほうれん草栽培を伝えていきたいですね」と展望を語ります。

いろいろな料理で
ほうれん草を食卓に

30年続く「東いぶり広域ブランド」を守る山下さんと竹葉さん。所属するJAも世代も違いますが、より良いものを、よりおいしいものを作りたいという情熱は同じです。
そんなお二人に、ほうれん草のおすすめの食べ方を聞くと、山下さんは「お浸しやナムルもおすすめですが、僕はゆでたてのほうれん草にマヨネーズをたっぷりかけて」、竹葉さんは、「卵と一緒に炒めるのがおいしいですね。ごま和えもよく食べます」と教えてくれました。
 
最後に、お二人から読者の皆さんへメッセージをいただきました。
「ほうれん草が苦手な人でも食べられるような、えぐみがなく、おいしいほうれん草を目指して作っています。ぜひ、たくさん食べてください」と山下さん。
竹葉さんは、「おいしいほうれん草を皆さんの食卓にお届けしたくて、日々、頑張っています。東いぶり広域のほうれん草を見つけたら、ぜひ手に取ってみてください。皆さんに知っていただき、食べていただけるよう、PR活動にも一層取り組みたいですね」と竹葉さん。お二人の言葉には、自信と誇りがこもっていました。