田中 康弘さん
(JAびほろ)
農家の時計

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今回の農家さん

田中 康弘さん(JAびほろ)
美幌町出身。農家の四代目として21歳で就農。1989年に有限会社田中農産を設立。伏せ込みアスパラガスのほかに、玉ねぎ、にんじん、小麦、大豆などを栽培。「美幌町グリーンアスパラガス振興会」に所属しています。

JAびほろの特産物
『冬姫』とは?

JAびほろがある美幌町は、北海道の北東部、オホーツクエリアにある町です。小麦やてん菜、じゃがいもなどのほか、アスパラガスの生産も盛んで、オホーツク有数の産地として知られています。
『冬姫』は、2010年頃から栽培がスタートした冬アスパラガスの地域ブランドで、露地畑で養成したアスパラガスの根株を秋期に掘り取り、ハウス内に移植して冬期に新芽を収穫する「伏せ込み促成栽培」と呼ばれる方法で生産されています。『冬姫』の生産者は現在7戸ほどで、2022年は計約2万株を栽培。根株の養成は町営の「みらい農業センター」が担当し、生産者・町・JAが一体となって『冬姫』を育てています。
その味は、身が締まり、甘みが強いのが特徴です。出荷期間は、例年11月下旬〜翌年1月中旬頃まで。主に、北見や札幌市内に出荷されています。
 

■田中さんの1日(12月上旬の一例です)

収穫は朝7時から。
11時半までに選別して集荷

田中さんは、現在1棟のハウスで『冬姫』を育てています。『冬姫』の栽培は、昨年から始めたそうで、「経営者として、冬場の雇用を維持できるという点で魅力を感じたのが大きな理由です」と経緯を話します。
2期目となる今年の収穫は、11月下旬から。田中さんはハウスに入ると、収穫の目安となる長さ26cmほどの木の棒でアスパラガスを測りながら、根元からハサミで1本ずつ摘み取っていきます。「出荷の基準は24cmなのですが、少し余裕を持ってカットしています。これ以上生長すると品質が落ちてしまうので、タイミングを逃さないように気をつけています」
収穫最盛期の12月上旬には、1日で20kg近くの量にもなるそう。朝7時から従業員やアルバイトなど総勢4人で作業を行います。「集荷の受け入れが11時半までなので、時間との勝負です」と田中さん。収穫したアスパラガスは、規定のサイズにカットして、規格(2L〜2S)に合わせて選別した後、集荷施設に運びます。

1年半育てた根株から、
新芽のみを1作だけ収穫

北海道産のアスパラガスは、主に5月〜7月が旬ですが、冬場に旬を迎えるのがJAびほろの『冬姫』です。アスパラガスの冬出荷は全国的にも珍しく、冬期間の生産を可能にしたのが、伏せ込み促成という栽培方法です。アスパラガスは、一般的に一度定植すると10年以上続けて栽培することができます(多年栽培)が、伏せ込み促成栽培は、新芽を1作だけ収穫する単年栽培です。
アスパラガスの生産は、根株の養成から始まります。『冬姫』の根株は、1年半もの年月をかけて育てられ、その間は収穫ができません。そうして養分を蓄えた根株を、畑からハウス内に植え替えて、ようやく栽培がスタートします。
「伏せ込み促成栽培は、秋の寒さで休眠している根株を、暖かなハウスに移すことで、『春が来た』と錯覚させる育て方です。一般的な栽培よりも、非常に手間がかかります」と田中さん。「1年半育てた根株の養分で萌芽するからなのか、甘みがしっかり感じられます」と話します。
 

『冬姫』の栽培のポイントは、
水分と温度の管理

田中さんが一番気を使っているポイントは、水分と温度の管理です。そのため、田中さんのハウスでは、『冬姫』を育てるための土を断熱効果の高い発泡スチロールで囲い、さらにビニールのトンネルを設置して、保温効果を高めています。
「新芽を出すためには、水分が必要です。週に2回は約2000Lの水を土の全面にまいています。また、ハウス内の室温は25度を超えると花が咲きやすいのでそれ以下に、夜間は10度以下にならないように保温シートをかけたり、時には暖房で加温するなど防寒対策を徹底しています」
土から芽を出した直後のアスパラガスは色が白く、緑色の薄い茎も多くあります。「日照量が足りないと、緑色には色づきません」と田中さん。日中は太陽の光が当たるように保温シートを外し、ハウスの室温と土中の温度をこまめに確認しながら、入念に育てています。
 

『冬姫』と美幌町の
農畜産物を広めたい

「冬は国産のアスパラガスが品薄になるシーズンですから、『冬姫』を贈るととても喜ばれます」と笑顔を見せる田中さん。国産への信頼感もあり、『冬姫』のニーズは高まっていると感じているそうです。
「『冬姫』だけでなく、美幌町ではさまざまな作物を生産しています。多くの方に『冬姫』を知っていただくことで、美幌町の農畜産物に興味を持ってもらえたらうれしいです」と締めくくりました。