西浦 克彦さん
(JA函館市亀田)
農家の時計

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今回の農家さん

西浦 克彦さん(JA函館市亀田)
小樽市出身。農家の娘である智束(ちずか)さんとの結婚を機に、33歳で就農。大根のほかに、じゃがいも、にんじん、かぼちゃ、大豆などを栽培。2019年より「JA函館市亀田 大根生産部会」の部会長として活躍しています。

JA函館市亀田の特産物
『雪の下大根』とは?

北海道南部、函館市の一部地域が管内であるJA函館市亀田。大根、じゃがいも、にんじんを中心に、都市部のニーズに合わせたさまざまな作物を生産しています。『雪の下大根』は、甘さとみずみずしさが特徴のJA函館市亀田のブランド野菜。秋に収穫した大根に土をかぶせて貯蔵し、真冬に雪の下から掘り起こすもので、収穫作業が二度あるという非常に手間がかかる野菜です。
出荷期間は、例年12月上旬から翌年3月中旬頃まで。今シーズンは8戸の生産者が約11haを作付けしており、重量ごとに5L〜Mまで選別されたものを、主に札幌の市場に出荷しています。
 

■西浦さんの1日(1月下旬の一例です)

氷点下の厳寒の中、
朝7時半から収穫

西浦さんの畑では、氷点下に冷え込む早朝から『雪の下大根』の収穫が始まります。雪と土におおわれ、深さ50cmほどのところで眠っている大根の収穫は、ショベルカーを使って行います。西浦さんはショベルの先端を使って、大根に傷をつけないように優しく雪と土を取り除き、さらに後工程の作業をしやすくするため、大根が並ぶすぐ脇の畑の土を器用に掘り起こしていきます。その作業が完了するやいなや、妻の智束さんと従業員が掘り起こされた畑の中に入り、一列に並んだ大根をつかんでは、一本一本の葉を手でもぎ取り、泥をさっと落として手際よく袋に詰めていきます。
「大きな傷が入っているものや腐っているものは、その場で取り除いています」と智束さん。1日の収穫量は、コンテナ2つ分(約1300本)になるそうです。「大根の洗浄や選別作業にも時間がかかるので、収穫は10時までには終わらせています」と西浦さん。西浦さんの『雪の下大根』の収穫作業は、例年1月下旬から2月上旬にピークを迎え、市場が休みの日曜日を除き、2月下旬まで毎日作業を行っています。
 

秋の収穫も手で
一本一本抜き取る

JA函館市亀田は、古くから大根の露地栽培などが盛んな地域です。しかし、12月から3月の冬期間は、多くの農作物の出荷ができなくなってしまうのが長年の悩みの種でした。そこで、この期間に大根を出荷しようと地域一体となってブランド化を進めたのが、『雪の下大根』です。函館市の亀田地区では、40年以上前から雪の下に大根を保存する貯蔵法が浸透していたそうで、「『雪の下大根』は、もともと農家の知恵から生まれた作物なんです」と西浦さんは説明します。
 
西浦さんの畑では、今シーズンは8月下旬に約10万本分の『雪の下大根』の種をまき、11月に1回目の収穫を行いました。収穫は機械を使って行っているのかと思いきや、なんと手作業で一本一本抜き取っているのだそう。
「大根に傷をつけてしまうと長期保存に耐えられないため、人手をかけて手で抜き取るようにしています。中腰の姿勢が続く作業なので、一年の中でも一番しんどい作業です」
抜き取った大根は、高さが均一になるようにバランスよく積み上げ、ビニールで覆ってから土をかぶせます。西浦さんによると、一般的な大根よりも収穫に手間がかかることもあり、生産者は減少傾向にあると言います。「私が生産を続けているのは、冬場の貴重な収入源というのが大きいですが、地域のブランド野菜を守り続けたい思いもあります。さまざまなメディアに名産品として紹介していただいたり、毎年楽しみに待ってくれている方もいるので励みになっています」と笑顔を見せます。
 

雪の恵みで、
みずみずしくて甘いのが魅力

雪の下から掘り出したばかりの大根をじっくり見てみると、根元に霜のような真っ白い毛が生えているものがあります。「これは、大根が生きている証拠なんです。11月に収穫した時のように、生き生きとした状態が保たれているんです」と西浦さんは説明します。
『雪の下大根』を食べてみると、水分が多く、食感は梨のようにシャキシャキ。実際、糖度が高く、フルーツトマト並みの7度近くになるものもあると言います。おすすめの食べ方を尋ねると「ピーラーで薄くむいて、しゃぶしゃぶにするとおいしいです」と智束さん。「根元まで甘いのでサラダにも無駄なく使えますし、味が染み込みやすく、おでんにも向いています」と付け加えます。
西浦さんは「見た目は同じ大根でも、中身は別物といっていいほど、みずみずしくて甘いんです。最近は資材高騰などの苦労もありますが、多くの人に『雪の下大根』を食べてほしいという思いで頑張っています」と力強く語りました。