宮越 麻美さん
(JAみついし)
農家の時計

農家の時計 農家の時計

今回の農家さん

宮越 麻美さん(JAみついし)
佐賀県出身。新ひだか町で事務職として10年以上勤務の後、同町の「農業実験センター」の研修生に。2年間で花き生産を学び、2021年に新規就農。現在は、デルフィニウムのほかにエキナセア、スモークツリー、シンフォリカルポス、スノーボールを栽培しています。「みついし花き振興会」に所属。2児の母。

JAみついしの特産物『デルフィニウム』とは?

JAみついしがある新ひだか町は、国内最大のサラブレッド生産地として知られる町。農業も盛んで、1995年から栽培を行うデルフィニウムは、「みついし花き振興会」とJAみついし、新ひだか町の「農業実験センター」が一体となって産地づくりに取り組み、出荷量で全国トップクラスを誇ります。
現在60戸(JAみついし48戸、JAしずない5戸、JAひだか東7戸)の花き生産者で組織される「みついし花き振興会」では、2002年から一年に一度、花き市場の関係者など外部のプロを審査員に招き、「みついし切花品評会」を実施。デルフィニウムを中心に、日々の技術の研鑽と品質の向上に努めています。デルフィニウムの出荷期間は、例年5月から11月まで。「みついし花だより」のブランド名で、半数以上が北海道外に出荷され、全国を彩っています。
 

■宮越さんの1日(7月中旬の一例です)

朝8時半から15時まで、
切り花を一人で収穫

宮越さんは、3棟のハウスでデルフィニウムを栽培しています。切り花の収穫をする、採花作業は宮越さんのハウスでは5月から始まり、10月上旬頃まで続きます。
「シーズンは、毎年母の日から始まります。そのために1月中旬頃には苗を定植し、4カ月かけて育てます。10月まで、ところどころ採花の間隔は空くので、休みがないということはありません」
宮越さんによると、デルフィニウムの出荷日は週に3、4日で、朝8時から8時半までと時間も決められているそうです。出荷日のスケジュールは、前日のうちに採花し、選別した花の箱詰め作業から1日が始まります。採花作業は、出荷後の朝8時半から15時まで行い、その後、採花したものの品質の良し悪しを選び分ける選花作業が18時半頃まで続きます。基本的に、すべての作業は宮越さんが一人で行っています。
「季節にもよりますが、開花直前のつぼみの状態の花を出荷基準のサイズに合わせて、一本一本ハサミでカットしていきます。夏場は防除などの栽培管理と、苗の定植作業もあり、忙しい日々が続きますが、かわいい花たちに癒されています」
 

女性でも独立してできる花の栽培に興味を持ち、
未経験から生産者として独立

涼やかな花色と、小さな花弁がかわいらしいデルフィニウム。6月下旬、宮越さんのハウスを訪れると、淡い色や鮮やかに色づいた花々が咲き乱れ、幻想的な風景が広がっていました。
「ここに咲いている花は、デルフィニウムの中でも『シネンシス』というタイプです。うちのハウスでは『シネンシス』だけを育てています」と宮越さん。デルフィニウムには大きく分けて『シネンシス系』『エラータム系』『ベラドンナ系』の3つの系統があり、それぞれ形態が異なります。『シネンシス系』はスプレータイプとも呼ばれており、細く枝分かれした茎の先に5枚の花弁を持つ花を付けます。近年は、『シネンシス系』のニーズが高く、JAみついしのデルフィニウム生産の約6割を占めています。
 
長年、事務職として働いていた宮越さんが新規就農を決意したのは、馬の獣医師として働く夫の転勤を機に、新ひだか町の三石地区に転入したのがきっかけでした。
「地域内は、花農家さんがほとんどで、近所で前職を生かせる仕事が見つかりませんでした。私の実家は米農家で、農業が身近な存在だったこともあり、花の栽培に興味を持ちました」
一般的に花の栽培は、大型機械を使う作業がなく、力仕事はほとんどありません。「新ひだか町では、花き就農の研修支援が手厚く、“子どもがいても大丈夫!”と研修施設の職員さんに励まされたことと、独立した女性の花農家さんもいると聞き、背中を押されました」と宮越さんは説明します。
 

先輩たちの力を借りて、
栽培技術を磨く

宮越さんが、栽培から出荷までの間で最も気を使っているのが、病害虫の対策です。特に注意を払っているのは、葉に白い斑点症状が現れる「うどんこ病」の予防です。
「多発すると拡大を止めることができないため、すべての花が出荷できなくなることもあります。日々観察して早めの防除を心がけていますが、採花するまで発症する可能性が常にあるため、気が抜けません」
このほかにも、不要な側枝を根元から取り除き、採光と風通しをよくすることで病気の発生を予防する「葉かき」と呼ばれる作業や、花数や株のボリュームを増やすために、最上部の枝を一本一本カットする「ピンチ(摘心)」作業などを行って、出荷できる品質まで仕上げていきます。
「就農当初は不安だらけで、分からないことが出てくるたびに研修施設の職員の方に電話をして、アドバイスをもらっていました」と宮越さん。「JA職員の方や振興会の先輩たちには、ビニールハウスや花の保管用の冷蔵庫の設置などを手伝っていただき、今でもお世話になりっぱなしです。花作りの相談にものっていただけるので、とても心強いです」と話します。

 

暑い夏こそ、涼やかな花色の
デルフィニウムがおすすめ

デルフィニウムは暑さに弱い特性があるため、冷涼な気候で育てられるJAみついし産は、夏から秋にかけて全国の市場に多く出回ります。
「本州の市場から “JAみついし産のデルフィニウムは、発色がいい”と評価をいただいているようで、とてもやりがいを感じています。消費者の皆さんには、デルフィニウムといえばJAみついし産と知っていただけたらうれしいです」と宮越さんは笑顔で話します。
最後に、全国の皆さんに向けて「さわやかな青空のような、透明感のある水色のデルフィニウム・シネンシスは、お部屋に飾ると涼しさを演出できるので、暑い夏には特におすすめです。地域一体となって栽培する自慢の花を、たくさんの人に楽しんでいただきたいです」と締めくくってくれました。