川上一弘さん
(白老町)
農家の時計

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今回の農家さん

川上 一弘さん(白老町)
白老(しらおい)町出身。養鶏農家の3代目。札幌の大学を卒業後、白老町に戻り家業に従事。1996年、有限会社 北海道種鶏農場の代表取締役に就任。98年からたまごの直売所やたまごを使った洋菓子の製造・販売、たまご料理レストランなどを展開し、6次産業化にも積極的に取り組む。

(有)北海道種鶏農場とは?

(有)北海道種鶏農場は、北海道の南西部、太平洋に面した白老町にあります。北は支笏洞爺国立公園の一角を含み、総面積の約75%を森林が占めるほど自然が豊かな町です。(有)北海道種鶏農場は、そんな白老町で昭和41年に創業。当初は鶏の卵をふ化させて親鶏を販売していましたが、その後、親鳥から卵を取る採卵養鶏農家に。現在、11棟の鶏舎で親鶏約46万羽を飼育し採卵。札幌を中心とする道内各地に年間約9,000tの「たまご」を出荷しています。
 

■川上さんの1日

採卵サイクルはおよそ1年

川上さんの農場では、ほぼ毎月、専門業者から生後1日目のヒナを一度に約3万羽仕入れ、ヒナ専用の鶏舎で飼育します。生後110日ほどで、親鶏専用の鶏舎へ。生後140〜150日で徐々に卵を産み始めます。多くは午前中のうちに産卵するため、川上さんの農場では朝8時から午後3時頃まで卵を集め、隣接する「GPセンター」と呼ばれる工場で、洗浄・消毒、選別、パック詰めまで行います。親鶏は、ピーク時でおよそ1日1個の卵を産みますが、歳を取ると産卵ペースが衰えるため、1年ほどで食肉業者へ出荷。空になった鶏舎は、きれいに清掃・消毒され次の親鶏を迎えます。
川上さんは事務所での仕事をしながら、農場や工場にも出向き、鶏の飼育環境や工場の衛生状況にも気を配り、念入りに担当スタッフとのミーティングを重ね指示を出します。「ただし、私が入るのは各施設の事務所まで。衛生面の観点から、農場や工場の中にはよほどのことがない限り足を踏み入れません」と川上さんは説明します。農場、工場は衛生管理区域として、外部からの接触を排除。安全・安心なたまごを生産するため、厳しい衛生管理を徹底しています。
 

ヒナから大事に育て、
健康な若鶏に

「おいしいたまごは、健康な鶏から」と話す川上さんの農場では、鶏をヒナから育てることにこだわっています。「もともとふ化業から始まった農場です。代々受け継いできた技術を生かしてヒナを育て、健康な若鶏にしています。私たちは親鶏が卵を産むお手伝いをしているだけ。ヒナから上手に育てた親鶏は、良質な卵をどんどん産んでくれます」
生まれたてのヒナに適した室温は32〜33℃。冬は暖房で加温し110日の間、少しずつ室温を下げて、親鶏専用の鶏舎に引っ越す頃には、20〜25℃に適応できるようにしているそう。
一度に3万羽以上のヒナを管理するため、餌や水やりは機械で自動化。「その機械が正常に稼働しているかどうかは、人間がしっかり管理します。小さな問題も見逃さないようにしなくては」
餌にもこだわりがあります。与えているのは北海道産の飼料用米に、自社製の発酵鶏糞を肥料として栽培したとうもろこしと、北海道産の魚粕を混ぜた餌。「動物性の魚粕を混ぜると卵にハリが出るんです。水も大事。白老は豊富な地下水に恵まれているので、人の飲料水にもできるきれいな水を与え、工場でも卵の洗浄などすべての工程でその水を使っています」
 

アニマルウェルフェアに
配慮した鶏舎を導入

親鶏の鶏舎は、「ウインドウレス」と呼ばれる階層型のケージが主流です。「人間でいうと、マンションみたいな造りです。ケージの下に糞を自動で処理するベルトコンベアが付いているので、鶏舎内を清潔に保つことができます」と川上さん。
さらに最近では、「エイビアリー」と呼ばれる鶏舎も新たに導入しています。エイビアリーは「多段平飼い」と訳されるヨーロッパ発祥の鶏舎。ウインドウレスと同じく階層になっていますが、大きく異なるのは鶏が鶏舎の中を自由に動けることです。
「鶏は外敵から身を守るために、夜になると高いところで体を休めます。エイビアリーには、そのための止まり木もあって、土の上に下りて歩くことや砂浴びもできます。鶏本来の行動ができるので、アニマルフェルフェアの考え方に配慮して導入しました」
川上さんは、鶏にストレスをかけない環境の整備に心を砕き、おいしいたまごの生産を追求しています。
 

衛生管理を徹底して
「たまご」を出荷

鶏舎の中で親鶏が産んだ卵は、ベルトコンベアに乗って自動的に隣接するGPセンターへと流れていきます。センター内では、まず卵を整列させて洗浄、消毒、乾燥させます。次に、「検卵」といって殻にひび割れや汚れがないか、中に血が混ざっていないか検査。問題があればラインからはじかれます。検卵を通過したら、1つずつ重さを量りS〜LLまでサイズで分け製品の「たまご」としてパック詰めされ出荷を待ちます。ここまで人の手を一切介さず、すべて機械で自動化されているというから驚きです。農場、工場ともに衛生面には最大限配慮し、2007年には食品衛生管理の第三者認証「HACCP」も取得しています。
 

いつものたまごを、
いつものように

毎日の食卓に欠かせないたまご。当たり前の食生活を守るために、川上さんをはじめ養鶏農家は日々、努力を惜しみません。「北海道の各地にある養鶏場は、みなさん地域に密着して生産されています。北海道は寒冷地で光熱費がかかる上に資材費も高騰していますが、たまごの価格は安めです。そのような状況でも生産者は、道産の飼料を取り入れるなど、おいしいたまごを目指していろいろな工夫をしています。全国のみなさんにも、北海道産のたまごを食べていただきたいですね」と、消費者のみなさんにメッセージを送ります。そして、「AIなどの科学技術がどんなに進歩しても、人が食べることを止めない限り、食や農業に携わる仕事は永遠に必要とされるものです。いろいろな料理に使われて、栄養価も高いたまごに携わる仕事にやりがいを感じています」と、川上さんは言葉に力をこめます。
 
ここ数年、鳥インフルエンザの影響で、たまごが手に入りにくい時期が続きました。1羽の親鶏が卵を産むのは、多くても1日1個だけ。ヒナから大切に鶏を育てる川上さんの思いにふれ、いつものたまごがいつものように食べられることのありがたさを改めて実感します。食べ慣れた小さなたまごが、なぜだかとても力強い存在に感じられました。