三澤哲也さん
(JAさっぽろ)
農家の時計

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今回の農家さん

三澤 哲也さん(JAさっぽろ)
札幌市出身。調理師の仕事を経て、19年前に農家の5代目として就農。現在は、小松菜のほかにアスパラガスを栽培。

JAさっぽろの特産物
『小松菜』とは?

JAさっぽろ本店のある札幌市は、約190万人もの人々が暮らす全国有数の大都市。消費地との距離の近さを生かし、市内では水稲・果樹・果実・野菜・花き・酪農・養豚・養鶏など、あらゆる農畜産物が生産されています。
札幌で小松菜の栽培が始まったのは1987年で、一説によると玉ねぎの産地・東区丘珠で、玉ねぎの苗を作るビニールハウスの有効活用から広まったと言われています。現在は、東区、西区、南区などで栽培されており、道内でも有数の生産量を誇ります。
別名「冬菜」と呼ばれ、本州では冬期の栽培が一般的ですが、冷涼な札幌では、例年4月上旬から12月上旬まで継続的に出荷されています。出荷先は、主に札幌中央卸売市場や直売所のほか、市内の学校給食にも使用されています。
 

■三澤さんの1日(4月下旬の一例です)

収穫作業は日光を避けて、
朝5時からスピーディーに

三澤さんのハウスでは、例年2月に種まきを行い、4月中旬から収穫が始まります。家族とパートさんを合わせて、総勢5人で作業を行います。収穫の目安となる小松菜の大きさは約25cm〜30cmほどですが、三澤さんは物差しで測ることなく、鎌を使って手早く丁寧に根元から刈り取っていきます。目視で瞬時に大きさを判断できるのは、生産者ならではの経験値と観察力のなせる技。目安となるサイズは、出荷袋にぴったりと収まる大きさなのだそうです。
収穫時間は早朝5時から。「日光を浴びると徐々に葉がしんなりとしてしまうので、できるだけ元気のいい状態で収穫したいんです」と三澤さんは早朝に収穫作業をする理由について説明します。さらに、収穫時には黒色のネットでハウス内を覆い、遮光するのも鉄則。刈り取った小松菜は、選別・袋詰めを経て、当日中に市場に出荷します。「種まきから出荷までほとんどが手作業なので、家族の協力は不可欠です。子どものためにも週末は休むようにしていますが、実際のところ丸一日休むことは難しく、水やりをしてから出かけるなどやりくりしています」と三澤さん。収穫作業は、例年11月下旬まで続きます。
 

シーズンを通して春先の
収穫量が最も多く、美味

札幌を代表するアートスポットのモエレ沼公園や札幌丘珠空港に程近い、東区丘珠で小松菜を栽培する三澤さん。もともとは玉ねぎを生産していましたが、30年以上前に小松菜に転換したそうです。
「玉ねぎは、一年に一度しか収穫できませんが、小松菜は4月から11月までほぼ毎日収穫できます。加えて、ここ一帯の土質は水はけが悪く、一般的に作物の栽培が難しいんです。その中で小松菜は、比較的育てやすかったということも大きな理由だと思います」
写真のハウス1棟に植えられている小松菜は、実に4万株以上。収穫後は肥料を入れて畑を整え、約1週間後に次の種をまきます。ハウス1棟につき5回ほど作付けし、8棟のハウスでの生産量は年間20t以上にも上るそうです。三澤さんによると、春先の収穫量はシーズンを通して最も多く、1回の収穫量が200kg以上になる日もあるといいます。
「夏場は種をまいてから30 日程度で収穫できますが、春先は2カ月近くかかります。時間をかけて育つからなのか、茎がやわらかく、この時期の小松菜が一番おいしく感じます」
 

昨年の猛暑下では、
品質の維持に苦労

昨年の夏は、札幌でも記録的な高温が続きました。三澤さんのハウスでは、小松菜の葉が黄色や茶色に変色するなど生育障害が相次ぎ、出荷量も大きな打撃を受けたそうです。また、シーズンを通して最も注意を払うのは、害虫による被害です。気温が高くなるにつれて、虫の発生も増えるそうで、虫に食べられてしまった小松菜は出荷することができなくなります。
「真夏の時期は、遮光と防虫のためにネットを掛けるなど対策を講じましたが、それでも品質の維持が難しく、昨年は苦労の連続でした」
水やりのタイミングも重要なため、「暑いからといって、気温が高い時に水をやると葉が焼けてしまうんです。涼しい時に水やりをしたくても、夜温も下がらなくて大変でした」と三澤さんは話します。
小松菜にはさまざまな品種があり、寒さに強いものや暑さに強いものなど特性も異なります。三澤さんは年間で3〜4品種を、収穫時期をずらしながら栽培しています。
 

札幌産を食べることが、
一番の応援に

近年は、生活必需品の値上げのみならず、肥料や燃料など農作物の生産に必要な資材の高騰も続いています。三澤さんは「生産コストが増加しても、小売価格になかなか転嫁できておらず、作り手としては苦しい部分もあります」と苦労を滲ませます。加えて、生産者の高齢化も進んでおり、札幌産の小松菜を取り巻く環境は、年々厳しさを増しています。
三澤さんは、「消費者の皆さんに、札幌産を食べていただくことが私たちにとって一番の応援になります。収穫したその日に市場に直接納入しているので、鮮度の高さには自信があります。ビタミンCやカルシウムを含む作物でもあるので、多くの方にたくさん食べていただきたいです」と力強く語ってくれました。