立崎 遼さん
(JAオホーツク網走)
農家の時計

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今回の農家さん

立崎 遼さん(JAオホーツク網走)
網走市出身。農業大学校を卒業後、2012年に農家の五代目として就農。現在は、てん菜、馬鈴しょ、小麦、豆類、薬草を栽培。2018年より生薬川芎(せんきゅう)部会の副部会長のほか、2022年よりJAオホーツク網走青年部の広報委員長として活躍。

「JAオホーツク網走青年部」とは?

オホーツク海に面し、冬には流氷が接岸する網走市と、隣接する大空町東藻琴地区の生産者からなるJAオホーツク網走。能取湖や網走湖など、多くの湖が点在する網走国定公園の中心に位置し、一帯では、主に麦類、てん菜、馬鈴しょなどの大規模な畑作や酪農が営まれています。
若手生産者を中心に組織されるJAオホーツク網走青年部には、129人が所属。ホームページやFacebook、YouTubeチャンネルなどSNS での情報発信にも力を入れているほか、現在は、JAオホーツク網走と共同で、地元産の大豆を使ったきなこ味のねり菓子『きなころん』を新発売。
 
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■JAオホーツク網走青年部の1年間の主な活動スケジュール

青年部活動に新たに強化した
「農作業の安全」への取り組み

JAオホーツク網走青年部の活動の大きな柱となっているのが、勉強会、広報活動、地域貢献活動、食育活動、交流会の5つ。加えて、2019年から強化を継続的に進めているのが、「農作業の安全」への取り組みです。
「農業の安全」と聞くと、私たち消費者は、農畜産物の品質についてイメージしがちですが、農畜産物の安全は、生産者など農作業に関わる人たちの安全を抜きに語ることはできません。
そこで今回は、同青年部の「農作業の安全」への取り組みについて、青年部を代表して広報委員長の立崎さんに話を伺いました。
 

農業者が安全な日常を送れるように、
農作業の安全の意識を高めたい

「北海道では、2011年から2020年の10年間に、約22,700件の農作業事故が起きています。この内、死亡事故は177件です。」と立崎さん。続いて、同青年部が「農作業の安全」に本腰を入れた契機について、立崎さんは次のように話します。
「当時結婚したばかりのある部員が『多くの生産者にとって、農業は家族で行うのが基本。そこで事故が起きてしまったら、大切な家族が被害者や加害者になる可能性がある。そんなことが起こらないように、安全作業のための知識をつける必要があるのではないか』と発言したんです。彼の言葉は、多くの部員の心に響きました」
そこで、部内で農作業事故について調査したところ、ほぼ全部員が軽微なものも含めて、「一年に一度でも事故を経験したことがある」と答えたそう。加えて、部員の多くは冬期に除雪作業員として働いているため、建設業界の現場でのKY運動(危険予測)やヒヤリハットなどの安全対策の重要性を理解していたことも、この取り組みを推進する後押しになりました。
「なぜ農業は事故が多いんだろうと考えた時に、安全対策の意識を共有することに力を入れる必要性があると思ったんです。多くの農業者が事故のない当たり前の日常を送れるように、農作業に対する安全の意識を当たり前にしたいという思いでスタートしました」
 

勉強会を重ね、
事故発生件数が低下

同青年部では、まず自らの意識を高めることを第一に、一年に一回、部員を対象にした勉強会を開催。安全対策に精通した講師を招き、実際に農業機械などの農作業事故が発生した事例をもとに、どのように農作業事故を減らしていくかについて学びを重ねました。
「勉強会では、資料として公開された事故写真に衝撃を受けました。辛い気持ちになるものもありましたが、安全への意識は確実に高まりました」
その結果、農作業安全への取り組みを強化した2019年以降、事故発生件数は減少傾向になり、青年部世代である20代〜30代の事故発生件数も取り組み以前から低下したそうです。立崎さんは「自分自身も意識が変わり、我が家でも安全対策を実践するようになりました。具体的には、農業経験のない妻が、作業中にトラクターと接触しそうになった経験から、トラクターを動かす時にクラクションを鳴らすというルールを作りました。さらに、トラクターの基本操作も妻に教え、アクシデントが起こった時の対処法などを共有しています」と話します。
 

オホーツクから全国へ、
安全の取り組みを広めたい

2023年12月には、同青年部の活動内容が評価され、北海道農協青年部協議会の全道大会「JA青年部活動実績発表会」で見事、最優秀賞を受賞しました。「僕たちだけの力ではなく、オホーツク地区の皆さんが一体となって応援していただいたおかげです」と立崎さん。
「オホーツクの農業者が、継続的に農作業の安全に取り組むことはもちろんですが、今後は全道、全国のJA青年部にこの取り組みが広がることを目指して、情報発信により一層力を入れていきたいです」と話し、実際に全国の農業者に向けて啓発動画を制作するなど、そのエネルギーは尽きることはありません。
 
「多くの農業者が当たり前の日常を送れるように、農作業の安全の意識を当たり前にしたい」という立崎さんの思いを聞き、私たちが安心して農畜産物を食べられるのは、生産者の安全が根幹にあってこそだと、改めて気づくことができました。