廣田 好彦さん
(JAひがしかわ)
農家の時計

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今回の農家さん

廣田 好彦さん(JAひがしかわ)
東川町出身。札幌の建設会社に就職後、32歳で農家の四代目として就農。現在は寒締めちぢみほうれん草のほか、米、スイートコーン、ほうれん草、ハーブ、大玉トマトなどを栽培。2022年に「東川町蔬菜(そさい)園芸研究会」葉菜部会の部会長に就任。ほうれん草部会の品目長も務める。

JAひがしかわの特産物
『寒締めちぢみほうれん草』とは?

JAひがしかわがある東川町は、北海道のほぼ中央に位置し、道内最高峰・大雪山系旭岳のふもとに広がる町。大雪山の豊富な雪解け水に恵まれ、道内で唯一、上水道のない自治体としても知られています。
寒締めちぢみほうれん草は、寒さに当てて甘みを出す栽培方法で、葉が肉厚で青臭さやえぐみがなく、成長するにつれ葉に縮れたようなシワが入るのが特徴。同JAでは、2003年から無加温ハウスで寒締めちぢみほうれん草の栽培を行い、旭川や札幌の市場に出荷しています。2021年からは冷凍食品向けの加工用の栽培にも取り組み、その全量を工場に出荷。機能性表示食品として販売しています。一般的なほうれん草とは出荷時期が異なり、生食用は11月下旬から12月上旬まで、加工用は1月中旬のみと短めです。
 

■廣田さんの1日(1月中旬の一例です)

気温が上がる朝9時から
6人で集中的に収穫

生食用と加工用、それぞれの寒締めちぢみほうれん草を栽培している廣田さん。今シーズンは、加工用を2棟のハウスで栽培しています。「加工用は糖度測定を行い、8度以上になると収穫ができます」と廣田さんは説明します。
「寒締めちぢみほうれん草は、糖度が上がっても見た目が変わらず、外見では判断がつきません。寒さに当たりやすい場所のほうが、糖度が上がるため、測定する際は、糖度が上がりにくいハウスの中央付近にある数株を抽出して、総合的に判定しています」
廣田さんは、毎年冬の間は除雪作業員として働いているそうで、収穫作業は休日の土・日・祝日に集中して行います。気温が上がる朝9時から6人で作業を分担し、1束1束を手作業で収穫した後、余分な葉を取って土を払い、出荷用の袋に詰めていきます。袋が増えてくると、廣田さんは車の荷台に手早く積み込み、JAに出荷します。収穫後の品質管理にも注意を払い、出荷は正午前、13時、15時の3回に分けて行います。
 

雪に負けない二重のハウスで、
かわいがり過ぎずに育てる

廣田さんが寒締めちぢみほうれん草の栽培を始めたのは12年前で、「農作業が少ない冬の間に栽培ができ、一般的なほうれん草よりも生産地が限られているため、収入が安定していることも魅力でした」と話します。
2021年からスタートした加工用の寒締めちぢみほうれん草は、トマトの収穫が終わったハウスを活用して栽培しています。ところがハウスをよく見ると、外側にはさらに堅牢な骨組みのハウスが建てられており、二重のハウスで育てていることが分かります。
「生食用は9月中旬に種をまき、12月上旬には収穫が終わりますが、加工用は9月下旬に種をまいて、収穫は雪が積もる1月中旬頃になります。そのため、雪の重さに耐えられる頑丈なハウスを建てる必要があり、加工用を栽培しているのは自分を含む2戸だけです」
 
「生食用と加工用の寒締めちぢみほうれん草の大きな違いは品種です」と廣田さん。「生食用は、葉の色が濃い『冬霧』で、加工用の『雪美菜(ゆきみな)』は、ルテインという光による刺激から目を保護する効果が報告されている成分を含み、機能性表示食品として販売されています」
栽培のコツについては「かわいがり過ぎないことです」と話し、「発芽したばかりの苗を、大事に育てたいからといってハウスの室温を上げてしまうと、根張りが悪くなり、収穫まで丈夫に育たない場合が多いんです」と苦労をにじませます。
寒締めする期間が長くなるほど甘みも増すため、廣田さんはハウスの温度管理を徹底しています。「葉が厚くなると糖度も高まります。そのため、少しでも葉が厚くなるように寒さに当てるのですが、凍ってしまうと出荷ができなくなるので、気温が氷点下になる朝晩はハウス内に設置したトンネルにビニールをかけて、厳しい寒さからほうれん草を守っています」
 

JAひがしかわ独自の「サラダGAP」で、
品質管理を徹底

多種多様な野菜を生産しているJAひがしかわでは、産地の価値を高めるブランド野菜づくりに力を入れています。寒締めちぢみほうれん草をはじめ約20種類の作物は、同JA独自の「サラダGAP(農業生産工程管理手法)」で栽培され、厳しい基準をクリアしたものだけを「ひがしかわサラダ」というブランド名を冠して出荷しています。生産現場における衛生管理の徹底など、農作業別に点検項目を設け、一生産者、一農作物ごとに同JAが厳格にチェックしています。
「農薬の使用状況のほか、育苗時に使用する水は飲用水と同じ基準に適合しているものでなければならないなど、栽培方法や品質管理方法が一つひとつ細かく決められています。自分は、以前からすべての作物を『サラダGAP』で育てているので、面倒だと思ったことはありません」

 

旬のおいしさを、
冷凍食品で一年中楽しんで

一般的に、冬場に寒締めしたほうれん草の市場評価は高いですが、生食用は限られた期間しか出荷できません。その点、冷凍野菜は、旬の味を一年中楽しむことができるメリットがあります。ホクレンの市販用冷凍野菜「寒締めちぢみほうれん草」は、光による刺激から目を保護するとされる網膜色素を増加させることが報告されている、ルテインに着目した機能性表示食品で、甘みが強く肉厚のため好評を得ています。
廣田さんは、「JAひがしかわ独自の『サラダGAP』に基づいて、安全・安心を第一に、おいしい水で心を込めて栽培しています。食感と甘みは一般的なほうれん草とは別物なので、店頭などで見つけたらぜひ味わってみてください」とPRします。
町一帯が真っ白な雪に覆われる中、寒締めちぢみほうれん草は寒さを糧に力強く育っています。北海道の厳しい寒さがありがたく思えるほど、甘くておいしい一品です。