JAおとふけのある音更町は、十勝平野の中心部に位置し、小麦・大豆・小豆・じゃがいもなど、国内有数の生産高を誇る農業のまちです。『おとふけ人参』は、JAおとふけを代表するブランド野菜の一つで、最大の特徴は、は種から収穫まで生産者とJAが作業を分担する「作業受委託方式」で生産していること。加えて、収穫後1時間以内に選果場に運んだにんじんを、低温下で洗浄、選別、保管する「コールドチェーン」と呼ばれる徹底した鮮度保持システムで、全国に出荷している点です。
さらに、傷みの有無や大きさなどを仕分ける選別作業は、人間の目と高精度のカメラで3回行い、いつどこの畑で収穫されたものかを追跡できるトレーサビリティーにも対応しています。出荷期間は、例年7月下旬から11月上旬の間で、9割以上が道外に出荷されています。
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久保 靖彦さん(JAおとふけ)
- 音更町出身。高校卒業後、会社員を経て2000年に農家の2代目として就農。現在は、おとふけ人参のほかに小麦、じゃがいも、てん菜、大豆、小豆を栽培。
JAおとふけの特産物
『おとふけ人参』とは?
■久保さんの『おとふけ人参』栽培スケジュール
「作業受委託方式」で
作付面積は13倍以上に
『おとふけ人参』の「作業受委託方式」では、畑の整地とにんじんの栽培(施肥や防除を含む)は生産者が行い、は種や収穫、収穫後の運搬、選別はJAが一手に引き受けます。
2024年度は、119戸の生産者が『おとふけ人参』を栽培し、約1万7000tの収穫量を見込んでいます。その大半は、スーパーなどの店頭で販売されるほか、冷凍食品やジュースの原料などにも使用されます。それ以外にも、畜産飼料やバイオガス発電の燃料に活用されるなど、JAおとふけでは作物の廃棄ロスが出ない仕組みも構築しています。
「作業受委託方式」を
きっかけに栽培を決断
久保さんが農業を営む音更町は、日本有数の農業地帯。案内された場所に向かうと、見渡す限り畑が広がっていました。「自分の農地は50haです。この地域ですと平均的な広さです」と久保さんはこともなげに話します。今年の『おとふけ人参』の作付けは約3.6haだそうです。
「栽培を始めたのは『作業受委託方式』がスタートした2006年からです。ちょうど新しい作物に挑戦したいと考えていた時にその話を聞き、魅力を感じました。この委託がなければ収穫機械の購入などの負担も大きいので、にんじんの生産を始める勇気が持てなかったと思います」と久保さんは説明します。加えて久保さんの畑では、にんじんの収穫が小麦の収穫時期と重なるため、労働力が軽減できるメリットは大きいと話します。
「小麦の収穫は、自分の畑だけではなく、仲間の畑の収穫もみんなで協力して行います。天候によっては早朝から深夜まで数日間にわたって作業が続くこともあり、その間のにんじんの収穫作業を100%お任せできるこの仕組みには、とても助けられています」
土づくりは
先輩の教えを守り、丁寧に
『おとふけ人参』の栽培は、前年の収穫後から始まります。翌年に作付する畑の土壌分析を行い、その分析結果をもとにJAの担当者と相談しながら畑に必要な施肥量を設計します。久保さんの畑では、例年4月下旬に種をまくため、それまでに土づくりを行っていきます。
「大雨が降ってもにんじんが傷まないように排水性を良くしたり、土の塊が残ると形が悪くなりやすいので、機械で土を細かくしてサラサラにします。栽培を始めた当初から、“土づくりに手を抜くな”と先輩たちによく言われていたので、整地作業は丁寧にやることを心がけています」
は種後から収穫までの間は、毎日畑を見回り、雑草や病気の防除に最も気を配るそうです。
「にんじんに限らず、作物の生産は観察から始まります。すべての畑を見回り、生育状態を確認するのが毎朝の日課です。さらに、せっかく計算して投入した肥料をにんじんに無駄なく吸ってもらえるように、雑草などは早いうちに畑から無くなるよう管理しています」
特に警戒するのは、葉に発生する黒葉枯(くろはがれ)病で、発症すると機械で収穫ができなくなります。結果的ににんじん自体も傷んでしまうため、久保さんは、防除のタイミングが遅れないように細心の注意を払っています。
地理的表示(GI)保護制度の登録を目指し、産地名を浸透させたい
一般的ににんじんは、じゃがいものように『男爵』や『メークイン』といった品種で販売されることがなく、他産地との差別化が難しい作物だといえます。JAおとふけがにんじんのブランド化を進めた理由について、同JAの山岸晃雄青果課長は次のように話します。
「生産地としては後発だったため、品質にこだわらなければ生き残れないという思いが強くありました。結果的に、『その日に収穫したにんじんは、その日に選果する』『徹底した温度管理を行う』という独自のルールを定めたことで、えぐみのないおいしさを生み出し、差別化にもつながりました」
今後の目標として、『おとふけ人参』の地理的表示(GI)保護制度の登録に向けて、山岸課長は意欲を燃やしています。「先輩からは“消費者の皆さんに、最初に選ばれる産地になれ”とよく言われていました。『おとふけ人参』の品質とともに、産地名をより一層全国に浸透させたいという思いがあります」
『おとふけ人参』は、さっぱりとしてみずみずしい味わいが特徴で、生食で食べるのがおすすめだそう。久保さんは、「畑から掘りたてのにんじんは、シャキシャキ感も甘みも強く、抜群においしいです。個人的には、野菜スティックにして食べるのが好きです」と笑顔で話します。最後に『おとふけ人参』のPRをお願いすると、「土づくりから始めておいしいにんじんを作っているので、ぜひ『おとふけ人参』を食べていただけるとうれしいです」と久保さん。山岸さんは「生産者もJAも自信を持って作っていますので、多くの皆さまに召し上がっていただきたいです」と締めくくってくれました。