石狩平野の中央部に位置する岩見沢市と三笠市をエリアとするJAいわみざわ。平坦な土地を生かし、米や小麦、豆類、玉ねぎを中心に多種多彩な作物を生産しています。特に小麦は道内有数の産地で、パンの原材料になる『キタノカオリ』は道内トップの収穫量を誇ります。名前の通りパンになった時の香りが良く、味も秀逸なことから、全国のパン屋にもファンが多い品種。JAいわみざわでは、独自に種子を作るなどして栽培に力を入れています。また岩見沢市内の学校給食では、『キタノカオリ』を使ったパンが提供されています。
JAいわみざわでは、約680ha(東京ドーム145個分)もの畑で『キタノカオリ』を栽培。主に製粉会社へ出荷され、製パンに適した強力粉として全国で販売されています。
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納口 秀則さん(JAいわみざわ)
- 三笠市出身。農家の3代目。高校卒業後、北海道開発局に勤務。20代後半になって「農業には夢がある」と一念発起し、30歳でUターン就農。現在、小麦のほか大豆、玉ねぎを栽培。222戸の生産者が所属する「JAいわみざわ 豆・麦・輪作研究会」で2023年から会長を務める。
JAいわみざわの特産物
『キタノカオリ』とは?
■納口さんの1日(7月下旬の一例)
収穫作業は
夜通し行うことも
納口さんは、50haの畑で小麦を栽培しています。そのうち、約4割が『キタノカオリ』で、約6割がうどんなどの麺や菓子に適した品種『きたほなみ』です。7月中旬、小麦の収穫期に入ると、納口さんの1日は乾燥施設を見に行くことから始まります。
小麦は収穫した後、水分量を12.5%以下に乾燥させてから集荷場に搬入するため、納口さんは小麦生産者4軒で乾燥施設「三笠西部穀類乾燥センター」を運営。センター長を務めています。早朝4時、東の空がやっと白んで来る頃に、納口さんはセンターへ出向き、前の晩から乾燥機にかけている小麦をチェック。搬出の準備を整えてから、一度帰宅して朝食を取り、7時には仲間たちと搬出作業に取りかかります。
天気が良ければ、すぐに収穫作業を開始。昼食もそこそこに日没近くまで続けます。「雨予報が近づいていたら、夜通し作業することもあります」と納口さん。小麦はできるだけ畑で乾燥させてから収穫するため、天気とスピードが命です。
地域の看板小麦
『キタノカオリ』を担う
『キタノカオリ』 は、主力品種『きたほなみ』に比べ、越冬性が劣り病気に弱いなど、栽培が難しい品種であることから、一時期、JAいわみざわでも栽培面積が減ったこともあるそうです。それでも、『キタノカオリ』を作り続ける理由を聞くと、「求められているからです」と、納口さんは迷いなく答えます。「香りがいい、おいしいと言ってくれる消費者がいて、その声に応えようと、JAでも自分たちで種を作るなど力を入れています。僕たち生産者も経験を積みながら、どの時期にどんな管理をすればいいのか、病害虫への対策が分かってきました。『キタノカオリ』を作らないという選択肢はありません」。納口さんは、自身が会長を務める「JAいわみざわ 豆・麦・輪作研究会」で、勉強会を開くなど生産者同士の情報共有や栽培技術の向上にも力を入れています。こうした納口さんをはじめとする生産者の努力が、押しも押されもせぬ日本一の『キタノカオリ』産地を支えています。
仲間と共働し
効率的に
JAいわみざわでは、多くの生産者がグループを作って小麦の収穫・乾燥作業を共働しています。納口さんは乾燥センターの仲間と一緒に、サポートが必要な生産者の作業を引き受け、合計220ha分を収穫。約2週間にわたり、交替でコンバインに乗ったり、搬送用のトラックを運転したりと、役割分担をしながら収穫しています。「畑で一度乾燥した小麦が雨に濡れると『穂発芽』といって、穂から発芽してしまうんです。そうなると種子に蓄えられているタンパク質が分解されてしまい、粘りが出ず、パン用の強力粉としては使いづらくなります。特に『キタノカオリ』は穂発芽しやすい品種で、おまけに『きたほなみ』よりも収穫時期が後になるため、雨に当たるリスクも高い。雨が来る前に、乾燥した畑から優先的に収穫を進めるため、GPSを使ってスマートフォンで畑の仕上がり具合を確認し計画を立てています」。
納口さんのスマートフォンを見せてもらうと、登録してある畑が赤や黄色、緑などで表示されています。「赤は乾いている畑。黄色や緑はまだ水分が多い畑です」と納口さんは説明します。この技術を取り入れたのは6年ほど前。「昔は畑に入って、手で麦を触って乾燥具合を確認していました。広い畑の一部分しかチェックできないので、失敗も多かったのですが、今は便利になりましたね」と納口さんは笑います。
「おいしいパンになる」。
畑の向こう側を見据えて
「やっぱり『キタノカオリ』のパンはおいしいと言ってもらえるのが励みです」。収穫前の小麦畑でそう言って目を細める納口さん。「『キタノカオリ』にしか出せない香り、味わい、色味があると聞いたら、やっぱりうれしいですよ」とも。
「JAいわみざわ 豆・麦・輪作研究会」の勉強会では、全国から『キタノカオリ』を使ってパンを作る職人さんを招き、消費者やパンを作る人の声を聞いています。「パン屋さんで、『キタノカオリ』を使った商品を見かけたら、ぜひ食べてみてください。間違えのない原材料をお届けするために、食べてくれる人を思い浮かべながら、これからもJAいわみざわの『キタノカオリ』を守っていきたいですね」。納口さんは、力強く語ってくれました。