札幌市に隣接する当別町、石狩市厚田区・浜益区からなるJA北いしかりは、全道有数の花の生産地として知られ、主力のユリのほか、かすみ草やカーネーションなど約20品目を栽培しています。ユリの生産量は年間約210万本で、その半数を占めるのが、白い大きな花をつけるオリエンタル系品種の『シベリア』です。収穫期は7月〜11月で、出荷先は主に札幌のほか、東京、名古屋、大阪など。「JA北いしかり 当別花卉生産組合」では、栽培研修や勉強会を重ねて栽培技術を確立。その技術と品質に対する市場の評価は高く、毎年開催される「北海道切花品評会」では最高位となる農林水産大臣賞などを多数受賞しています。
-
齊藤義也さん(JA北いしかり)
- 岩見沢市出身。運送会社に勤務した後、花生産者に転身。2年間の研修を経て31歳で独立し、6年目となる2020年4月に、「JA北いしかり 当別花卉(かき)生産組合」の副組合長に就任。同ユリ生産部会の役員としても活躍。
JA北いしかりの特産物『ユリ(シベリア)』とは?
■齊藤さんの1日(7月下旬の一例です)
早朝に刈り取ったユリは
選別して夜間に出荷
齊藤さんのハウスでは例年7月上旬から収穫が始まり、7月下旬からお盆前にピークを迎えます。収穫作業は朝4時からで、サイズや色付きなどを見極めながら1本1本手作業で刈り取ります。刈り取った後は、1本に付いているつぼみの数や大きさなどで秀・優・良の3段階に選別。「そのほかにもいい状態で出荷するために、収穫後8時間は茎に水を吸わせておくなどのルールもあります」と齊藤さん。その間に球根の植え付け準備も行うため、出荷は夜遅くになるそうです。
つぼみの美しさもユリの魅力
齊藤さんが暮らす当別町は、札幌市中心部から車で45分ほどの距離にある自然豊かな町。JA北いしかり管内随一の花の産地ですが、町内をぐるりと回っても水田や麦畑が続き、花畑はまるで見当たりません。それもそのはずで、花の栽培は一般的にハウスの中で行われているからです。
さっそく案内された齊藤さんのハウスでは、胸の上くらいまで生長したユリが、青々とした葉を伸ばしていました。よく見ると、1本の茎に大きなつぼみがいくつもついていて、さながら果実のようです。「大きさにもよりますが、共販出荷の規格は2輪から。5〜6輪ついていて、規格以上のつぼみの大きさで最上級のランクになります」と齊藤さん。当然ながら花が咲く前に刈り取るため、開花した姿を見ることはできません。ハウス一面に大輪の花が咲いていたらさぞ美しいでしょうね。──そう尋ねると少し意外な言葉が返ってきました。「個人的には、つぼみの方がすごく好きなので、花が咲いていなくても十分きれいだなといつも感じています。咲いた後は散ってしまいますが、つぼみはその先の楽しみを想像できるのもいいですよね」。つぼみを愛でるその思いに、生産者ならではの豊かな愛情を感じます。
消費者の期待を裏切らない
花づくりを
もともとはトラックの運転手だったという齊藤さん。就農のきっかけは、農業に携わる友人が多く、農作業を見聞きするうちに興味を抱いたからだそう。そこで何人かの生産者に「農業をやりたい」と相談をしたところ、声をかけてくれたのが当別町のユリ生産者だったと齊藤さんは説明します。
「それまではユリはもちろん、花自体にもまったく興味がなかったのですが、その人のユリを見た時に、“なんて立派なんだろう!”と初めて感動したことが大きな転機になりました」
同町でも屈指の実力を持つ生産者のもとで栽培のイロハを学び、2年後に満を持して独立。当初はハウス5棟からのスタートでしたが、2年目には引退する生産者のハウスを借り受けたことで、たちまち40棟以上に。「この時が肉体的にも精神的にも一番苦労しました。そこで妻の弟夫婦にも声をかけ、手伝ってもらうことにしたんです」
6年目の現在は、62棟に規模を拡大し、年間で約15万本を生産するほどに。球根の植え付けから出荷までほとんどが手作業です。いいユリに育てるためのポイントは、「師匠からは、どんなに忙しい日でも毎日よく見ることが大事だと教え込まれました」と齊藤さん。「肥料は足りなくてもやり過ぎてもダメで、ユリたちの観察を怠らないことに尽きます」と言い切ります。収穫はこれからが山場。今後の意気込みについて「消費者の皆さんの期待を裏切らない花づくりを続けていきたいです」と語ってくれました。
作り手の思いを知ることで、食べ物のありがたみを味わえるように、花を飾る時に、“作り手の思いが咲いている”と感じると、自宅用に買った花でも作り手からのプレゼントに思えます。家にいる時間が増えた今こそ、花と過ごす時間も増やしていきたいですね。