漆原 了さん
(JAようてい)
農家の時計

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今回の農家さん

漆原 了さん(JAようてい)
農家の4代目として40年前に就農。真狩村で、ゆり根のほか、馬鈴しょ、小豆、麦、にんじん、大根、ながいもを栽培。現在、「JAようてい ゆり根生産組合」の副組合長も務める。

JAようていの特産物『ゆり根』とは?

札幌から車で2時間ほど南西に位置する羊蹄山。その雄姿から「蝦夷富士」とも呼ばれています。そんな羊蹄山の裾野に広がる倶知安町、京極町、喜茂別町、真狩村、留寿都村、ニセコ町、蘭越町、黒松内町、そして寿都町の7町2村で構成されているJAようてい。馬鈴しょや米、ながいもなどさまざまな農作物を栽培しています。中でも真狩村は50年以上前から、ゆり根の栽培に力を入れており、生産量は日本一。大部分を関西方面に出荷しています。真狩村で栽培されている品種は「白銀」。その名の通り真っ白な見た目が特徴です。
 

■漆原さんの1日(11月上旬の一例です)

ゆり根の収穫は
手作業でやさしく

漆原さんの畑では、10月中旬からゆり根の収穫が始まります。普段は奥様の千鶴子さんと息子さんの3人で作業を行っていますが、この時期になると家族のほかパートさんも加わり、総勢6人ほどで午前7時半から午後5時まで作業を行います。「どんどん寒くなるし、雪が積もる前に終わらせなくちゃ」と漆原さん。年間出荷量は5キロのダンボールで1000箱ほど。1日に収穫する量は100箱が目標だといいます。ゆり根の収穫はほとんどが手作業。1本ずつ茎を抜いた後、トラクターでざっくりと掘り起こし、1つ1つ手で裏返しにしてやさしく揺さぶりながら土を落としていきます。「とにかく傷つけないように、大事にさわりなさいと父から教わりました」と漆原さんが話すように、ゆり根はとても繊細な作物。コツンとぶつかっただけでも、そこから傷んで変色してしまうそう。冬に向かう時期の収穫ですが、スピードだけを重視するわけにはいきません。漆原さんはすべてのゆり根を収穫し終えた後で、根を切って洗い、サイズごとに選別してから箱詰めまでを行います。

出荷まで6年の歳月を
かけて栽培

「ここまで大きくなるのに3年かかります。その前に種子を作るまで3年。合計6年かかってやっと出荷できるようになるんです」と漆原さん。「6年といったら、生まれたばかりの赤ちゃんが小学生になるまでの時間と同じですよ」と子どもを慈しむように土から掘り出したばかりのゆり根を見つめます。
JAようていでのゆり根の栽培は、まずJAの施設で、潜在的な病気を持たないウイルスフリーの種子を試験管で栽培します。2年目からは生産者の畑へ。米粒ほどの大きさの種子を畑に植えて一度ゆり根を作ります。3年目、その鱗片を畑に植えます。さらにその鱗片から出て来た小豆大の種子を畑に植えるのが4年目。秋に掘り起こし、翌春に再び畑へ。5年目の秋に掘り起こし、翌春にまた植えて、6年目の秋にやっと出荷できるようになります。その間、花を咲かせてしまうと根に栄養が行き届かなくなるため、花のつぼみはすべて手作業で摘み取らなくてはなりません。6年目にもなると1本のゆりに付くつぼみの数は10個ほど。開花前の7月上旬、こまめに畑を見回ってその作業を行います。

次の年はもっといいものを。
その思いで続ける挑戦

出荷まで6年。毎年、土から掘り起こしては別の土地に植える作業は、気が遠くなるような話しです。「ゆり根は父の代から作っていますが、子どものころから農家を継ぐつもりはありませんでした」と話す漆原さん。高校を卒業した後、「ほんの少しの間だけ親の手伝いをしよう」と思って始めた農業が気づけばもう40年も続いています。その原動力についてたずねると、「来年はもっといいものを、と思ってやっているうちにここまで来ました。農業をやっている人なら誰しも、一番おいしいものを作ろうと思っているはず。でもそれは簡単ではない。チャンスは1年に1度きり。毎年気候条件も違います。そうやって、来年こそ、来年こそと挑戦しているうちに40年経ったという感じですね。自然相手の農業は難しい。だけど、そこが一番楽しいところでもあるんですよ」と笑う漆原さん。一緒に歩んできた千鶴子さんは「ゆり根は手間がかかるけど、どの仕事をしていても楽しいの。やっぱり真狩村の日本一を支えていかなくちゃという思いがあるからかしら」と微笑みます。
そんな漆原さんの1年の挑戦は、最後のゆり根を出荷したときに終わります。「ゆり根が終わったら、つかの間の休みに入れます。それはもううれしいですよ」。漆原さんの表情が一層やわらぎます。

飾らない普段の食卓に、
素揚げやサラダでゆり根を

和食に使われる高級食材というイメージが強いゆり根。漆原さんは「もっと普段使いで、モリモリ食べてほしい」と話します。そんな漆原さんの食卓には一年を通してゆり根料理が登場するそう。千鶴子さんにお薦めの食べ方を聞くと、次々にメニューの名前が上がります。「子どもたちが好きなのは、素揚げ。ゆり根の鱗片を1枚ずつ油で2度上げして塩を振るだけ。私が好きなのは、エビのむき身と一緒にゆでて、マヨネーズ、スイートチリソース、塩、コショウで和えるサラダ。ゆでたゆり根をたらこマヨネーズと和えるだけでもおいしいし、バターとも相性がいいし、じゃがいもみたいに気軽に使えるんですよ」。
実際、素揚げを試してみたところ、サクサクとホクホク2つの歯ごたえがあって手が止まらないおいしさ。ビールにもぴったりです。
最後に漆原さんは「食べ方は難しくありません。カレーライスに入れてもいいし、ポテトサラダの具にしてもいい。もしスーパーに並んでいるのを見たら、『北海道から来たゆり根だ!』と思って手に取ってほしいですね。保存も効くのでぜひ」とPRしました。