百目木(どめき)
秀信さん
(JAむかわ)
農家の時計

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今回の農家さん

百目木(どめき) 秀信さん(JAむかわ)
札幌市出身。乳業メーカー勤務などを経て、2019年に就農。義理の父で、鵡川花き生産組合監事兼アルストロメリア部会副部会長を務める田村政利さんの後継者として、アルストロメリアの栽培を引き継いでいます。

JAむかわの特産物『アルストロメリア』とは?

JAむかわでは、夏場の冷涼な気候と専門設備や技術により、一年を通してアルストロメリアを出荷しています。新品種の導入にも積極的で、年間で40〜50品種を栽培。出荷量は道内一を誇ります。生産者は互いに栽培技術を共有し、花持ちが良く、色味の良い高品質な花づくりに取り組んでいます。丹精を込めて育てられたアルストロメリアは、『夢シリーズむかわの花』のブランドで、関東方面や道内を中心に出荷されています。
 

■百目木さんの1日(2月上旬の一例です)

ハウス内での作業は、
朝9時から16時まで

アルストロメリアの栽培は、百目木さん夫婦と奥さんの妹さん、義父の田村さん夫婦の家族5人で行っています。切り花の収穫作業は、朝9時からで思いの外遅め。「冷気がハウスに入ってしまうと花に負荷がかかるので、気温が上がってからハウスを開けるようにしています」と百目木さんは説明します。一方で日が暮れるのは早いため、ハウス内での作業は、16時までに終わらせます。「低温が続く冬の間は花の生長も遅く、1日で収穫できる本数も少ないです」と百目木さん。帰宅後の楽しみは、趣味のテニス。週に一度、奥さんや地域の仲間と汗を流しているそうです。

いい花づくりは、
適正な温度管理から

色鮮やかなものからパステル調まで、花色が豊富なアルストロメリアは、さまざまなシーンを美しく演出する切り花の万能選手の一つです。その道内一の産地、むかわ町を訪れたのは、厳しい寒さが続く1月下旬。百目木さんの案内でビニールハウスの中に入ると、青々とした葉をつけた約600本ものアルストロメリアが、天井まで届かんばかりにすくすくと伸びています。
「夏場はもっと伸びるんですよ!」と話すのは、百目木さんの義父の田村さん。田村さんは花の栽培歴約40年という大ベテランです。これまで農業とは無縁だった百目木さんが就農を決めたのは、4年ほど前から年に数回、田村さんのハウスで花づくりを手伝ったことがきっかけだそう。「手入れをすればするほど、目に見えていい花が育つ。そんな手応えのある花の栽培に魅力を感じるようになりました」
田村さんから最初に教えられたことは、適正な温度管理だと言います。「年間を通して、18〜23度の間で育てるように気を配っています」と百目木さん。冬の間は特に苦労するそうで、ハウスのビニールを二重にして寒さを防ぎ、時には暖房を使って室温を保ちます。「ただ日中は20度以上になるので、温度差が大きいと花にストレスがかかり、品質にも影響します。病気のリスクが高まるので湿気も大敵。冬場でも換気は欠かせません」

日本中で、このハウスでしか
育てていない品種も

百目木さんが好きなのは『マシュマロ』、田村さんは『アイスクリーム』!?──これはスイーツではなく、アルストロメリアの品種の名前です。「仕事を始めたばかりの頃は品種の名前も分からないので、紙に書いて必死に覚えていました」と百目木さんは笑います。色とりどりのアルストロメリアをよく見ると、同じ花とは思えないほど、花びらの大きさや葉の形が違っていて個性豊か。「見た目が全然違うように、育て方も違います」と田村さん。「最盛期は10棟のハウスで17品種を育てていますが、冬に元気な子もいれば、苦手な子もいます。その子その子の特性を見極めて育てるのが難しいですね」と百目木さんは話します。
 
カタカナの品種名が多い中で、 『羊ヶ丘2号』という札幌生まれにちなんだものも。また、地元JAむかわのスタッフが命名した『うらら』は、日本中でこのハウスでしか育てられていないのだとか。「1つの苗で育てられるのは4年まで。やっとコツをつかんだ頃に植え替えをしなければなりません。最近は品種の回転が早いので、販売が終了してしまうものも多いです」と田村さん。JAむかわでは、例年4月中旬までつぼみが少し開いた状態で収穫・出荷しており、取材時にもカラフルな花々を見ることができました。

花を楽しむ人がもっと増えてほしい

昨年は新型コロナウイルスの影響で、イベントなどの縮小や中止が広がり、花の需要が落ち込みました。百目木さんは「心が豊かになるものを作っているという思いがあるので、家で花を楽しむ人がもっと増えてほしいです」と期待を込めつつ、「花を育てるからには、いい花を1本でも多く消費者の皆さんのもとに届けたいという思いは変わりません。僕らは日々変わらずに手入れをするだけです」と言い切ります。
最後に産地のPRをお願いしたところ、「僕らがいい花を咲かせられるのは、JAや市場、花屋さんなどたくさんの人たちの協力があるからこそ。花束はいろいろな花でできているので、むかわの花だけに限らず、国産のお花を買っていただけたらうれしいです」と百目木さん。花に関わる人たちへの思いやりにあふれる言葉が印象的でした。