田村 豊和さん
(JAようてい)
農家の時計

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今回の農家さん

田村 豊和さん(JAようてい)
真狩村出身。農業高校を卒業後、1996年に農家の5代目として就農。2017年より「JAようてい 人参生産組合」の副組合長を務めています。

JAようていの特産物『雪下にんじん』とは?

北海道を代表する名山のひとつ、羊蹄山。JAようていは、その周囲をぐるりと囲む、倶知安町、京極町、喜茂別町、真狩村、留寿都村、ニセコ町、蘭越町、黒松内町、寿都町からなり、米や馬鈴しょをはじめとする野菜、酪農畜産など北海道の主要な農畜産物の多くを生産しています。
主に真狩村を中心に栽培されている『雪下にんじん』は、夏に種をまき、翌年の春に収穫する越冬野菜。雪の中で長期間育まれ、甘みが強いのが特徴です。出荷時期は例年3月下旬〜4月下旬。この時期に味わえる北海道産野菜として、道内を中心に関東方面にも出荷されています。
 

■田村さんの1日(3月下旬の一例です)

朝から一日中、
手作業で収穫

収穫作業は、朝7時から17時頃まで。田村さん夫婦と両親、実習生の5人で、手作業で行います。「夏・秋の収穫作業はすべて機械でできますが、越冬させると葉がしおれるので機械で収穫まではできないんです」と田村さんは説明します。トラクターで掘り起こした後、手で土の中からにんじんを1本1本抜き取り、傷みなどを選別しながら包丁で1本ずつ葉を切り落としてコンテナに詰めていきます。収穫したばかりのにんじんは水分が多く、とてもデリケートなのだそう。「非常に折れやすく、ちょっとでもぶつかると割れてしまうこともあるので丁寧に扱っています」

『雪下にんじん』の誕生は
偶然だった!?

羊蹄山の山麓に位置する真狩村は、北海道でも屈指の豪雪地帯として知られています。訪れたのは3月中旬。「今年はここ数年でも大雪でしたね」と話す田村さん。周囲を見渡すと1m以上の雪が畑を覆っています。3月でも平均気温は0度を下回るため、ダウンコートやフェイスマスクなど真冬並みの防寒も欠かせません。さっそく『雪下にんじん』の畑に向かうと、ショベルカーで除雪され、土面が姿を現していました。
田村さんによると、『雪下にんじん』が生まれたのは、秋に収穫しきれなかったにんじんを春に掘り出したところ、甘みがあっておいしかったのがきっかけだといいます。「まさに偶然の産物ですね。ただ当初の品種は越冬に向かず、傷んでしまう割合が高かったんです」。越冬に適した品種が開発された現在では、安定した収穫が可能になり、栽培する生産者も増えたそうです。
「私の畑では7月上旬に種をまいて、3月下旬にようやく収穫できます。雪の量や気温などは毎年違うので、掘り出して顔を見るまでは安心できませんね」と話します。

先達から受け継いで、
真狩村を代表する作物に

就農して今年で25年になる田村さんは、『雪下にんじん』づくりも25年。「昔は収穫したにんじんを、自分で洗って箱詰めまで行っていました。手作業で労力もかかる上、氷点下の中での水仕事は本当に大変でした」と振り返ります。それでも栽培を続けられたのは、「世代を超えて受け継いだもの」という思いがあったからだと田村さんはいいます。
「先輩や仲間たちが根気強く栽培を続けてきたことで品質が高まり、今では真狩村を代表する作物のひとつになりました。雪どけを待つだけだったこの時期に、作物を収穫できることがうれしいです」
 
『雪下にんじん』が市場に出回る4月上旬には、札幌からわざわざ買いに訪れる人もいるのだそう。田村さんは「毎年“いつ販売になるのか”と問い合わせをいただきます。皆さんに喜んでいただけてありがたいです」と笑顔を見せます。
おすすめの食べ方を聞いたところ、「生で食べると甘さが分かります」と田村さん。実際に試食させてもらうと、にんじん特有の臭みはなく、フルーツのような甘さを感じました。「学校給食でも使われているからか、真狩村はにんじん嫌いの子が少ないんですよ」と話します。「火を通すとさらに甘みが強くなります。細切りにしたにんじんとツナを炒めた『にんじんしりしり』もぜひ作ってみてください。自信を持っておすすめできるおいしさです」